僕が過去に戻ったのは、きっと教師だったから

たなかみづき

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支配の崩壊

第15回

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 八月二十四日、十二歳の誕生日がやってきた。本来なら二十七歳になるのだが、現実に戻れてはいない。だが今となっては、このタイミングで戻りたいとも思えなかった。

 よく映画や漫画では、自分の誕生日なんかに強制的に元の世界に戻されてしまう。僕は昨日、それが少しだけ怖くて眠れなかった。しかし、朝起きても普段と変わったところはない。十一歳が十二歳になっただけのことだった。

 その日の夜に、家族で僕の誕生日会を開いてくれた。
「愛斗、誕生日おめでとう!」
 ケーキの上には蝋燭が一二本刺さっていた。それらの蝋燭の火を一度で吹き消して、拍手が起こる。僕は正直、照れくさかったが悪い気はしなかった。みんなが笑顔で溢れていたので、すごく心地のいいものになった。

 すると、優香が後ろに手を回し、僕の方へ近づく。
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう。」
 僕の前に差し出されたのは、一つのスケッチブックだった。
「中見てもいい?」
「うん!」
 そのスケッチブックを開くと、中には十五枚ほどの絵が挟まっていた。その絵のほとんどに、優香と僕の絵が描かれていた。一枚一枚丁寧にページをめくる。
「ありがとう。とっても嬉しいよ」

 最後のページには、僕と優香だけでなく、美来が描かれていた。もちろん絵の横には「ミク」の名前が入っていた。

「これは、この前の?」
「そうだよ、お兄ちゃんを笑顔にさせてくれた人でしょ」
 少し違う気もするが、僕は素直に頷く。
 それを聞いた両親が、すぐに揶揄《からか》ってきた。
「愛斗の好きな子?」
「と・も・だ・ちね。」
 僕がそういうと、みんなが一斉に笑った。
「愛斗、女の子は守ってあげないとダメだぞ」
 父は今日もほろ酔いだ。
「守ってもらったことないよねー」
 母と優香は顔を揃えて笑っていた。

 美来は僕が守らなくたって大丈夫だ。彼女は他の生徒よりも早熟で、自分で考えられる。そんなことを心の中で呟く。

 両親には、バスケットボールを買ってもらった。僕がバスケをしていることを知っていたのは不思議だったが、素直に受け取った。

 改めて、僕は過去に戻れて幸せだと思った。子供の時は、これが当たり前だと思っていたが、今では感謝に思う気持ちでいっぱいだった。
 社会に出て働くことを平気で成し遂げる父に、家の家事を全て一人で担っている母。僕は一度経験したからこそ、その大変さを知っている。

 この状態を途切れさせてはいけない。今年で、この輝いていた幼少期を終わらせてはいけない。
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