僕が過去に戻ったのは、きっと教師だったから

たなかみづき

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支配の崩壊

第9話

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 それから四月の間、あの別室に連れていかれることはなかった。新学期とは打って変わり、目立たないように大人しく過ごしていた。

 まだ一ヶ月も経っていないのに、クラスの半分以上が石神によって泣かされている。小学生らしい間違いやミスを犯した子はもちろん、全校朝会の時のように理不尽に呼び出されている子もいた。

 この期間、どのように過去を良いものに変えるかを悩んでいた。
 まずやらなくてはならないことは、クラスが石神による支配から逃れる方法を探ることだ。だが、小学生にできることなんて限られている。

 未来では石神と同じ職業だ。だから「教員」としての弱点は知っているつもりだ。だがこの時代では、僕の知識が通用しないこともある。体罰や過剰な説教などは黙認されていて、正当に石神を裁けない。

 確実に生徒を救うには、石神を免職させることだと思ったが、それはかなり難易度が高い。仮に石神を追い詰めて、問題を起こさせても、学校側に有耶無耶にされてしまうだろう。

 そこで考えたのは、石神を辞職させることだった。
 教師には、面倒に思う仕事や、辞めたいと思う仕事がいくらでもある。生徒たちで憂さ晴らしをしている石神なら、悩みや不満があるのだろう。そこを突いて自分から退職させるのが一番良い。それに、仮に石神が免職になった場合、今後の石神が何をしでかすかわからない。自分から、教師なんかやりたくないと思わせる事が重要だ。

 教師が最も手を焼く問題。それは教室が無法地帯になったときだ。
 新学期に呼び出された時、記憶の中の石神と齟齬があった。おそらくそれは、僕が反発したからだ。生徒で鬱憤を晴らす教師は、人を選んでいる。反発する生徒は、面倒に思い対象外なのだろう。なら二組の生徒全員で、石神に反発すればいい。従順な生徒がいなくなれば石神は何もできなくなる。

 仮にも元教師の僕はそんなことを考えてしまっていた。
 石神によって支配されていたクラスが、一斉に逆らっていく姿を想像し、少し笑ってしまう。
 まずは「怖くない」とみんなに示さなくてはならない。そのために、石神に楯突こうじゃないか。

 学校の問題児になれば、これは優香の抑止力にもつながる。わざわざ何をしでかすかわからない兄貴がいる妹に、手を出す奴なんていない。
 タイミングを見計らい、クラス全員で反発する。一番絶好の機会は、最も先生が忙しい何かのイベントや行事の時だろう。

 僕は近じか予定されている、理科のスケッチのための校外学習を目標にしていた。 
 この学校ではこの時期、六年生全体で理科の時間にスケッチを行う。春の昆虫や草花を、学校の外に出て観察し、図鑑のように描きまとめるのだ。

 ゴールデンウィーク中、この日のために計画を立てていた。
 理科のスケッチの授業は、班に分かれて行動する。班は自由に決めていいのだが、この計画に賛同してくれる人を選びたい。

 人数は三十六人で、六人班六つで構成される。男女合同なので、全員仲の良かった男子にすることはできない。腕白な男子二人と、真面目な女子が二人。そして、少し気になっていた女の子一人で班を組みたい。

 その気になっている女の子とは、中島美来なかじまみくという少女だ。
 彼女は石神に呼び出されたことが、僕が知る限りでは一度もない。これまで石神に怒られたことがないのだ。最初は先生のお気に入りだと思ったのだが、どうやら少し違うらしい。中島美来は、おそらく石神を全く恐れていない。

 一ヶ月に渡ってクラスを観察していたが、彼女は石神が怒鳴っている時も、返事を要求するときも、ほとんど反応していない。にもかかわらず、石神にいないもののように扱われている。運がいいというよりかは、石神が避けているようにすら思えた。今の僕と同じ、石神にとって都合の悪い生徒なのかもしれない。
 そんな美来には、どうしても味方になってもらいたかった。

 男子には小川理樹おがわりきと、その友達の佐藤孝彦さとうたかひこと同じ班がいい。
 彼らは地元の野球チームに所属していて、当時の僕の友達だ。二人とも素行が良いとは言えない。石神が担任になる前は、悪戯や悪さをよくしていた。もちろん四月の間も、石神に何度か呼び出されている。もしかしたら背中を押せば勇気を出して、石神に逆らってくれるかもしれない。

 そして女の子だが、二人には僕らが行ったことを、石神に伝えに行ってもらいたい。
 今のところ石神に反発する内容は、校外学習に出かけ、時間内に学校に戻らないということだった。先生の監督不行き届きということにもなるし、僕らは恐れていないというアピールにもなる。当然、叱られるだろうが、僕が歯向かえば、素行の良くない二人なら乗ってくれるかもしれない。

 これらの計画を立て、五月の理科の時間を待ち望んだ。
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