上 下
18 / 18

その18

しおりを挟む



 ランプゴーレムの量産はいったん落ちついた。

 その代わり、定期的に電池ゴーレムのほうを量産することとなる。
 こっちのほうも乱用しなければ割と持つので、そんなに作る必要もなかったが。

「現在あちらこちらでの転売が増えているようですね。得意先の農家でも、商人に一つ売ったという話です」

「最近王都のほうにも流れて言っているとか――」

 マギーとハイドラの報告を聞きながら、わたくしは新型のテストを行っていた。

 前から考えていたボウガンタイプも完成し、いよいよ次なる開発。


「うーん。できれば、ちびちび作っていないで、大々的に売り出して稼ぎたいところですわ」

 わたくしは言いながら、ゴーレム生成する手を動かす。

「信用できる商人を見繕っていますが、なかなか」

 マギーは少し困った顔で低頭する。

「あまり大手なものだと、変なコネとか人脈があるから、逆に難しいです」

「ですが、農家の得意先は順調に増えています。他の街への売り出しもありかと」

 ハイドラが言って、売上の報告書を出してきた。

「やっぱり、人間相手にはそれほど売れないですわねえ」

「どうも家畜の飼料用という認識が広がってしまったようで」

 と、ハイドラは頭を掻いた。

「その分安価ですから、貧しい者は割と買っていきますが」

 家畜の餌を食べる、か。

 あんまり良いイメージは確かにないのだろう。仕方ないか。
 確かにうちでもヤギに食べさせているけど。


「まあ、それならそれでいいですわ。こっちとしては売れればいいのだから」

 わたくしは言って、完成させたゴーレムを持ち上げた。

 今回のは、AとBの二つに分かれるという構造になっている。
 わたくしは分離したAに水道の水を注ぐ。

 それから、またBと合体させ、作動させた。
 しばらくすると、ゴーレムは音を鳴らし湯気を噴き上げ始める。

 水が沸騰しているのだ。


「マギー、お茶を淹れてくれる?」

 と、わたくしは再びAを分離させ、マギーを呼んだ。

「はあ……」

 マギーは妙な顔つきでAを受け取り、お茶の準備を始めた。

 まあ、仕方のない反応か。

 Aはオレンジカボチャに取手と注ぎ口がある。
 つまりカボチャ型のケトルともいうべきデザインなのだ。

 Bのほうはオレンジ色の円盤に近い形で、横に電池ゴーレムを組み込むスペースがある。

「それは、ゴーレムなのですか?」

 ハイドラは眉のない顔を不思議そうに傾け、尋ねてくる。

「まあ、分類としては。でも、魔法アイテムとも言えますわ」

 要するに、電気ケトルのファンタジー版である。

「屋外でも簡単にお湯が沸かせますわ。いいでしょう?」

「これはすごい。あっという間に……」

 ケトルゴーレムを見ながら、マギーは感動した顔だった。

<ケトルゴーレム。生成:5MP、稼働0MP>

 こんなサイズでも、荷車ゴーレムと同じくらいのMPだ。
 やっぱり精密機械みたいなタイプはコストが高めか……?

「これもランプと同じ電池ゴーレムで使えます。売れますかしら」

「売れると思います。ただ……」

 ハイドラがうなずいた。

「ただ……?」

「このデザインはどうかと」

「ああー……」

 わたくしは思わず、苦笑した。

 ランプゴーレムもそうだが、どうも自分には美術的センスはないらしい。
 実用は問題ないのだけれど、芸術的・美術的に美しいゴーレムは無理だった。

「まあ、これはなかなか解決しにくい点ですわ」

 軽く咳払いをして、わたくしは椅子に座り直した。

「これは大型のものにすれば、風呂も沸かせるのでは?」

 マギーがお茶を淹れながら、何気なく言った。

「できるでしょうね。あ……」

 言ってわたくしは膝を打った。
 すでに水道も家では完備しているのだ。ということは――

「給湯設備やシャワーなんかもできますわね」

 よりいっそうお風呂ライフが良いものになりそうだ。
 現状のお風呂は、薪で沸かすというこの世界では普通のもの。

 もっとも、薪はゴーレム生成の過程で出来るものだが。
 いちいち森などに採りに行くよりも早いし、楽なのだ。

「今度は新しいお風呂を作りましょう!」

 わたくしはそう宣言し、ホホホと笑ってしまった。

 これで毎日の入浴がもっと気楽になるというもの。


「何だかどんどん私たちの仕事がなくなってくるんですが……」

「あら、マギーたちには商売のことで忙しく働いてもらっているでしょう?」

 最近ではハイドラかマギーのどちらかが家を空けることが多い。
 ミクロカも二人のお供として一緒に行く場合が多い。

 なので、家の雑務はほとんどゴーレムにやらせている。
 操っているのはわたくしだから、半分自分でやっているようなものだ。

「それはそうですが、何となく変な気分です」

 こうしてお茶を淹れていると妙にホッとするほど――と、マギーは付け加える。

「まあ、確かにマギーの入れてくれるお茶は美味しいけれど」

「ありがとうございます」

 言いながら、マギーは湯気の立つ茶器をそっとわたくしの前に置いた。

「ところでステンノ―様、例のかぼちゃは蔓や葉っぱもヤギの餌になりますよ」

「え?」

 ハイドラが急にそんなことを言ってきた。

「肥料にでもしようかと思って集めていた葉っぱだの茎を、美味しそうに食べました」

「それ、大丈夫なの?」

「元々ヤギは粗食にも耐えますが、人間でも食べられます。けっこういけますよ」

「……食べてみたの?」

「はい。今日の昼に」

 すごいチャレンジ精神である。

 あるいはきっちりとした性分というやつなのだろうか?

「はああ」

「それに以前から、家畜……特に牛馬の餌に草類もあると良いのにと、意見をもらったこともあります」

「なるほどねえ……。しかし、大丈夫かしら?」

「だから、うちのヤギで試してみます」

「ほとんど捨ててたけど、葉っぱにも使い道があったわけか…………」

 つぶやき、わたくしは考えてしまう。
 やはり、人というか知識というか、そういうモノが足らない。

 今後の発展のためにも、ゴーレムとうまく併用できるような知識とか技術――

 そういうものを持つ人材が欲しい。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...