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その17

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<ランプゴーレム。生成:7MP、稼働2MP>

<電池ゴーレム。:生成:10MP、稼働0MP>

「うーむ……」

 わたくしはできたばかりのゴーレムを見て、そのコストを考える。

 自分とリンクして動かすタイプのものより、MPがかかるようだ。
 まあ、全体とすれば微々たる量だが、割と気になる点でもある。

 何度かの試行錯誤を経て、量産に適応したものとなった作品。
 とりあえず10個ほど作ったものを、マギーたちが梱包している。

「まずはお得意様への贈り物として、サンプルを配ってみましょう」

 マギーはそう提案し、色々準備をしてくれた。

「お金持ち向けに、もうちょっと見栄えに拘ったタイプもいるかもしれませんね」

「確かに、ちょっとこれは安っぽいデザインですわ」

 我が作品ながら、ちょっと困った点であった。弱点といってもよい。

「ところでこの電池型ってどれくらいもつんですか?」

 梱包しながらミクロカが尋ねてきた。

「つけっぱなしにして、2週間ぐらいですわね」

 ランプにセットする電池ゴーレムをいじりつつ、わたくしは答える。
 電池型は小さなカボチャヘッド型で、梅干しくらいの大きさだ。

 ああ、この世界にも何故か梅干しはある。
 アルコール度数高めの梅酒のようなものもあったりした。

「コンパクトにまとめたから、コストも逆に大きいのかしらん」

 わたくしは言ってから、あくびをする。

(そういえば電池やランプにかまけて、ボウガンタイプの開発を忘れてましたわ)

 アレができたらコレ。一つが出来たら次。
 ゴーレムの開発はまったくキリがない。しかし、楽しいから困る。

「本日はもう休んでくださいね。美容の敵です」

 最後の一つを梱包して、マギーはピシャリと言ってきた。

「はーい」

 わたくしは首をすくめる。

「そういえば、ステンノ―様は買い物とかなさらないんですか?」

 ちょっと不思議そうにミクロカが言った。

「は?」

「そういう小用は私らがやるんだ」

「いえ、日用品とかじゃなくって。服とか、娯楽的なものとか」

「……」

 言われて、気づく。

 思えばここに引っ越してきたから、ほとんど家を出ていない。

 日課として周辺を散歩するくらいで、遠出はまったくなし。
 公爵家だった頃は、よくドレスだの宝石だのを買ったものだが……。

「落ちぶれた身の上ですからね……」

「あ、すいません。いて……!」

 ばつの悪そうに謝るミクロカを、マギーが殴ったようだ。

「……ですが、贅沢もしていませんし。カボチャもよく売れるようになっているので、収入は安定しつつありますよ?」

 わたくしを慰めるようにマギーは言った。
 実際慰めてくれているのだろう。フォローと言っても良い。

「そうですか……」

「食材としては安いものですが、飼料としては大好評です。乳の出が良くなり、毛並みも嘘のように良くなったと」

「ほお」

 飽きそうで飽きない味だが、あのカボチャ、栄養価もバッチリらしい。

「そういうことなら、もう少し希望を持っても良いですわね」

「もちろんですとも」

 マギーはうなずき、ホッとした顔になった。

「と、すればあなたがたのお給金も増やさなければ」

「賃上げっすか? やったあ」

「いい気になるな」

 給金が上がるという言葉にいち早く反応したのはミクロカ。
 それをマギーが殴る。 

「では、ハイドラ? 明日の報告楽しみにしてますわよ」

「おまかせを」

 一人黙々と作業をしていたハイドラはすぐに返答し、頭を下げた。


 かくして、ハイドラたちはまた市にむかったわけだが――

「大好評です」

 帰ってすぐにハイドラは若干興奮して報告してきた。

 例のランプゴーレムは試作品を持っていっただけで注文が得られた、とのこと。
 得意先でも大いに喜ばれ、逆にお土産に農作物をもらってしまうという始末。

 これは張り切らねばならぬ。

 翌日からわたくしはすぐにランプを大量生成。
 ひとまずランプ100、電池を200個ほどを作って、持って行かせた。

 市場に直接出すのではなく、魔法アイテムの店に卸すというスタイル。

 結果、すごいお金になった。
 美術要素のない、あくまで実用品なので、魔法アイテムの割にそう高くない。

 だが、それを差し引いてもかなりの数が売れたのだ。
 好評が好評を呼び、あちこちに出荷されていった。

 わたくしは日夜量産を繰り返して、すっかり生成に慣れてしまう。
 今では息を吸うようにランプゴーレムを生成できるようになった。

 普通のランプよりも明るく、火事の心配がない。
 色んな所で使用され、我が家には大量の金貨がうなるようになったわけで。


「しかし、今のところ不自然というか歪な状態ですよね」

 売上報告と共に、マギーがそう意見を述べてきた。

 そうかもしれない。

 あっという間にお金持ちになってしまったが、お金は使っていない。 

 また、

「あんまり量産しすぎると値崩れするので、ほどほどに」

 というマギーの忠告を受け、近頃はわずかにしか作っていない。
 あちこち転売されて新品はかなりの値段になっているとか。

 これはよくない傾向かもとは思う。思うが、さてどうしたものか。
 お金が入ってきたので、色々と家畜も新しく購入できた。

 ついでに、わたくしのみならず、使用人の服も新調する。
 というか、布やら糸を買うと、

「機織り機も欲しいですね」

 珍しくマギーが頼むでこれも買うと、見事な服を作ってくれた。
 長い付き合いだが、こんな特技があるとは知らなかった。驚き。

「もう少し設備などを整える余裕があれば、養蚕のようなこともしてみたい、かも」

 そんなことも言っていたようだ。

「まあ、人もいないし、あまり手を広げすぎるのもよくありませんが」

 お金が入っても、ただ貯め込むばかりではいけない。

 それに、いつまでも領地に人がいないというのは考えものだ。

「どうすれば、人が来るものかしら」

 最近はゴーレム研究の合間に、そんなことばかり考える。

 何か人が来るようなものとか、施設とかあればいいのだろうが……。


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