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その16
しおりを挟む「ガスコンロみたいなもの、できたりします?」
水道が完成し、水洗トイレで快適となった数日後。
その日は、明日市場にカボチャを持っていくために色々準備をしていた。
ハイドラがゴーレムを指揮して、積み込みを作業をしている間――
「こういうことも、ちゃんとできないと困る」
というわけで、ミクロカはお茶の準備をしていた。
まあ、ハッキリ言って手際は悪い。お茶を淹れるも下手くその一言。
とはいえ、下手だからと言ってほっといたら下手なままだ。
「30点」
わたくしなりに甘めの評価を下してから、上記の台詞をミクロカが言った。
「何、急に?」
「いえ、お湯を沸かすのに色々手間がかかるなと思いまして」
そりゃあ日本と比べれば、ここは何かと不自由だろう。
もっとも、わたくしはみんな使用人に任せきりなので、つい忘れがちだが。
「あるいは、電気ケトルとか」
「ほお」
言われて思い出す。そういえば前世にはそういう便利なものがあった。
しかし、そうなると発熱とかそのへんのことも考慮する必要があるか。
「ま、考えておきますわ」
「は、はい。どうかお願いしますね?」
「わかったから。あなたはハイドラにお茶を淹れて持っていきなさいな」
「はーい」
ミクロカは明るく言って、すぐに走ってった。
いつも怒られているマギーより、不愛想だが怒鳴らないハイドラ。
そっちのほうに、若干懐いている感はある。
まあ、本人がどう思っているのは知らないが。
「それにしても、コンロかあ…………」
わたくしはつぶやき、お茶を一口飲んでから思案にふけった。
コンロ。
木炭を使うものなら、この世界にもある。
しかし、電気コンロのようなもの、ましてや電気ケトルみたいな……。
ああいう感覚で使用できるものはなかったと思う。
どこかにあるものかもしれないが、少なくともわたくしは知らない。
可能性としては魔法のアイテムだが。
そも、基本高級品である魔法アイテムを買えるような家で使うか?
使用人にやらせたほうが手っ取り早い。第一安くつく。
「光……熱……」
わたくしは今まで独学+研究資料の情報を考えつつ、お茶を飲む。
そして、カップを空にしてから、思い立った。
「照明器具と、ポット。これでいきましょう」
一人部屋でつぶやいた後、またも自室にこもる。
最近こんなことばかりしてていて、ちょっと不健康かもしれない……。
これが片付いたら、ゆっくり散歩でもしようっと。
それから、わたくしは資料やノートを調べ、それらしき項目を発見。
ノートも研究資料もたくさんあるので、なかなか全体が把握しづらい。
やはり何度も読み返すしかないようだ。
結果、半透明にしたゴーレムによる発光機能というのがまとまる。
光るのは良いとしても、透明な素材は難しい。
一晩中生成実験を繰り返し、結果失敗のままダウン。
半日眠りこけた後、またもマギーに説教されてしまった。
自分が悪いので、反論できず。
「やるのは結構ですが、寝食もないがしろにするのだけはおやめください!」
お体にさわります、とマギーに言いつけられ――
ランプゴーレムの開発は、マギーのスケジュール管理されてしまった。
朝昼晩で合計8時間。
その間に食事や散歩、雑務などを行い、睡眠は8時間。
健康的と言えば健康的だが、実に窮屈だった。
とはいえ、自分がゴーレムいじりにはまりやすいのはわかっている。
なので、マギーに逆らうのはよろしくない。
これも一種の健康管理、体調管理である。
決して怒ったマギーが怖いわけではないのだ。
しばらくそんな日々が続いた後、どうにかランプゴーレムは完成した。
一定の魔力を吸収し、発行する機構を備えた半透明の新型くん。
天井から吊るしたり、廊下に設置したりと用途は多数。
「まるで、昼間のような明るさですね……」
「魔法の灯明……」
「はー、電気の明かりみたいだ」
マギー、ハイドラ、ミクロカはそれぞれ感想を述べる。
「ですが、これは売り物になりそうですよ。あのオレンジカボチャよりも」
完成品を見て、マギーは確信したように言った。
「売るって……」
「まあ、一種の魔法アイテムとしてですがね」
「ふーん。すると、まだ色々改良しなければなりませんわね……」
できたものはわたくしとリンクしており、魔力も自動的に補給可能。
またオンオフもこっちの命令一つ。
「明暗のスイッチと、魔力をタンク式にして外からも補給できるように……」
と、わたくしがブツブツ言いながら考えていると、
「使い捨ての電池みたいにすればいいんじゃないですかあ?」
あっさりと、ミクロカが言った。
簡単に言ってくれる。
「そういう風にするには、また改良に改良を続けないといけないんです。魔力の電池も開発をせねばならないし……」
またもやることができてしまった!
「本当にもう! 気楽に言ってくれちゃって、もう!」
わたくしはプリプリしながら、またも研究開発が続くのだと思い知らされる。
「ステンノ―様……」
「なに?」
横からささやくハイドラに、わたくしは振り向く。
「お顔が笑っていますが……」
「……。え?」
わたくしはハッと自分の顔を触り、立ち止まる。
「ホントに?」
「はい」
「マギー……?」
「さあ、私はよそ見をしておりましたので……」
マギーに聞いても、困った顔で目を背けるばかり。
「うーん……」
笑っていたのかあ。
わたくしは腕組みをして、考え込んでしまう。
どうやら、自分で自覚する以上に、わたくしははまりこんでしまったらしい。
まさかこんなマッドサイエンティストみたくなってしまうとは。
かといって生活の直結するだけに、やめるわけにもいかないのだ。仕方ないね。
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