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その6

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 フッと頭の隅に情報が浮かぶ。

<ハイドラ、帰還する>

 目をこすりながら窓を開けると、すっかり草の刈られた道をハイドラが歩いてくる。
 何かを担いでいるので、どうやら獲物はあったらしい。

「おーい」

 わたくしが声をかけると、ハイドラは手を挙げて応えた。
 どうやらカボチャばかりの食事にも他の色が添えられるらしい。

 そして、戻ってきたハイドラを出迎えたわけだけど。

「リス?」

「はい」

 ハイドラが獲ってきたのは、3匹ほどのリス。
 リスといえば小さいものを想像したけど、けっこう大きい。

 ヒツジやヤギ、それも豚。あと贅沢品だが牛も食べたけど……。

「リスというのは、初めてですわねえ?」

「田舎のほうでは割とよく見られますよ。貴族でも狩猟をされるかたはけっこう召し上がりと聞きます」

 マギーはそう言って、嬉しそうに笑う。

「とはいうものの、さてどう料理しますか」

「それは私にお任せください」

 トンとハイドラは軽く胸を叩いた。

 こういうサバイバルに強い部下がいるのは心強い。
 せっかくなので、調理しているところを見学してみた。

 するすると皮を剥いでいき、内臓を取る。
 こうなるともう完全に食材で、可愛いリスの面影はない。

 大きな骨はとるが、細かい骨は肉ごと砕いていく。

 気づけばカボチャの入ったシチューに、肉団子が投下された。

「手際が良いですわねえ」

「素人料理ですが」

 それでもハイドラは嬉しそうに応え、シチューを煮込み続ける。

 しばらく後。

 ようやく火が消され、あつあつのシチューが皿によそわれた。
 実に、良い匂いである。

 よく見るとカボチャと肉団子の他の香草のようなものも。

「このハーブが良いですわね! 素晴らしいですわ!!」

 思わぬ美味。
 わたくしは舌鼓を打ってハイドラを称賛した。

「なるほど。良い味です。ニワトリやウサギはよく食べましたけど、これはまた一風変わって味わい深し……。リスも美味しいものですね」

「もう少し他の調味料や材料も欲しかったのですが、今はこれだけで」

 褒められながらも、ハイドラは自分の仕事に不満げでもあった。

「できるだけ早いうちにヤギでも買い入れましょう。あとニワトリなども欲しいですね」

「向上心は良いけど、あんまり手を広げても人手が――」

「ゴーレムに家畜が世話できるか。試してもよいですわねえ」

 マギーの声を受けて、わたくしは言った。

「そういえば人手になるものがありましたか」

 マギーは苦笑して、

「裏に物置小屋がありましたが、そのうち家畜用の小屋も新設の必要アリですね」

「簡単なものならば私でもどうにかなりますが、きちんとしたものはやはり相応の職人などの手が要りますね。少なくとも設計図があったほうが良いかと」

「ハイドラ、あなただけじゃ無理だと」

「馬の世話をしていましたし、厨の整備もやってはいましたが、やはり……」

 わたくしが言うと、ハイドラは少し苦い顔でうなずいた。

「まあまあ、ハイドラ。今となっては我らは都落ちの身です。あまり完璧なものを求めるのはよろしくない。まずはほどほどのところで安定しないと」

 マギーはハイドラの肩を軽く叩いた。

「ともあれ。明日から何をするか決めておいた方が良さそうですわ」 

「ですれば、まず街道となる道の整備をすべきでしょうね。今のままでは、私たちの使う道も不自由していますから」

「なるほど。それもゴーレムがどの程度できるか調べませんとね。少なくとも人並みのことはできるとわかったらいいけど」

「ただ働きぶりを見るに、あまり腕力はないようですね。まあ、せいぜい人並みです」

「仕方ないですわ。力のない所は数でカバーしましょ。今出してる分で足りる?」

「かなりの規模をやらねばなりませんから、多ければ多いほど良いでしょうが……」

 大丈夫ですか? と、マギーは付け足した。

「とりあえず、100体までやってみますわ」

「そんなに!?」

「消費するのは一体につき1ポイントですから。何とかなるでしょ」

 総MPは999万9999なのだから。

 そういうわけで。

 夜にまでわたくしはゴーレムを100まで作り続けた。
 というか、時間にして1時間もかからなかったのだけど。

 なので、余った時間は食用カボチャを増産し、ゴーレムに整理させた。

「売るにしても食べるにしても、多すぎです……」

 カボチャの山を見たハイドラは珍しく感情を露わにして感想を言う。

「まだ売りに行けるまで日にちがあるのに……。まあ日持ちする野菜ですけど」

「いっそ、宣伝に使ってはどうですの?」

「せんでん?」

 わたくしの提案に、二人は顔を見合わせる。

「見本というかサンプルとして、あちこちに配るんですわ。今度良かったら買ってくださいという感じで。評判が良ければ次の買い手がつくかもしれません」

「大手の商家がたまにそんなことをやると聞いたことはありますが……」

 マギーは思案顔だ。

「じゃあ野菜ではわたくしたちが最初かしら」

「もしかしたら、大口の取引先が作れるかもしれませんね」

 ハイドラはどちらかというと賛成の様子。

「じゃあ、そういうことで……」

「ですが、その前に荷馬車と輸送用の馬も買わないといけません」

「それかあ……」

 忘れていた。
 わたくしはどうもゴーレムに夢中になり、色々見落としていたらしい。

「ここに乗ってきた馬車はちょっと使えませんしねえ。さて、割と大きな出費だ……」

「いっそゴーレムたちに持たせて移動させましょうか?」

「目立ちすぎますよ。ろくなことになりません」

 即座にマギーは否定した。

「化け物の集団かと思われかねません」

 ハイドラも首を振る。

「他にも売るあてがないか、もう少し考えてみましょう」

 マギーは手を開いて、問題を先送りに。
 とはいえ、わたくしにもどうこうできるアイデアなどなし。

「いっそ、馬や馬車もゴーレムの要領で造れればねえ……」

「そこまで望みすぎかと」

 わたくしにつぶやきに、マギーは苦笑した。


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