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1141.【ハル視点】ギューム
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「俺の名前はアキト。トライプールの冒険者で、ハルの伴侶候補で、そして馬を見るのが大好きな人間です」
アキトはにっこりと笑顔を浮かべながら、ギュームに向かって自己紹介をした。世間一般的に考えれば、使用人相手には考えられないぐらいに丁寧な挨拶だ。
そんな挨拶をされたギュームはというと、ふるふると震えたかと思うとまた涙目になってしまった。
アキトは大慌てで、バッと俺の方を振り返った。俺のせい?と言いたそうな表情で俺を見つめてくるが、たぶんこれはただ感動しているだけだろう。
俺はうっすらと笑いながら、ゆるりと首を振ってみせた。
アキトはじゃあどういう事?とそっと首を傾げている。その反応も可愛いな。
「ギューム、どうしてそんなに涙目なんだ?」
ギュームの目の前で説明するよりも、ここは本人の口から説明して貰った方が良いか。そう考えた俺は、あえてギュームに尋ねてみた。
「お叱りを受ける、または処罰を受ける覚悟までしていたのに、あっさり許して頂けた上に、きちんと自己紹介を返してまで頂けるなんてっ…!」
私はとても嬉しいですと、ギュームは涙目のままにこにこと笑いながらそう続けた。
いや、そもそもきちんと名乗らなかったからなんてくだらない理由で、使用人を叱るような厳しい家じゃないからな、うちは。
使用人に対して処罰なんて、盗賊を手引きしたとか情報を横流ししたとかのよほどの事態で無い限りあり得ない。
それにアキトは自己紹介をされたのに、相手が使用人だからと無視をするような人じゃないからなとか――言いたい事は色々とある。
まあそれを言う前に、ギュームが話し出してしまったんだが。
「しかもウマが好きなんて!なんて素晴らしい!ウマは本当に素敵な生き物ですからね!まず見た目の美しさも良いんですが、私は何と言っても、あの力強さが好きなんです。後はやっぱり走る姿の美しさが素晴らしいと思います!」
熱く語り始めたギュームに、俺は苦笑しながらアキトをちらりと見た。
とりあえず涙目の理由は分かっただろう?と視線で告げれば、アキトからはこくりと頷きが返ってきた。
「アキト様は、馬のどんな所が好きですか」
ギュームの唐突な質問に、アキトはえっとと考えながら答えた。
「俺も馬の走る姿は好きですね。後は目が優しい所も好きです」
「目が優しい!それが言える人は相当のウマ好きですよ!」
ああ、そうだな。普通は、ウマの目は怖いとか得体が知れないとか言われるからな。
一気に元気になったギュームはまだまだ馬について語り合いたいようだったが、そこは止めに入らせてもらった。
俺達は、シュリに会うために来たんだからな。
「ギューム、そこまでにしよう。アキトもウマ好き仲間が欲しいと言っていたから、その話は後日改めてゆっくりして欲しい」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
アキトもこくりと頷きを返せば、ギュームはパァァッと笑顔になった。
「最高です!いつなら予定が空くか、確認してきますから、しばらくお待ち下さいっ!」
そう言うなり、ギュームは振り返りもせずに勢いよく駆けていってしまった。
あー…後になって俺達を放置して来てしまったと、反省する事にならないと良いんだが。すこしだけ後の反応が心配だったが、俺はじっとギュームの背中を見つめていたアキトに声をかけた。
「あー…アキト、何というか…すまない」
「あのね、ギュームはね、取り乱した時はいつもこんな感じだよ。後、ウマへの気持ちを語り出した時も」
キースも、すこし困り顔で笑いながらアキトにそう教えている。
「別に大丈夫だよ。馬の話しは、俺も出来たら嬉しいし…」
そう答えたアキトに、俺とキースは声を重ねて続けた。
「「でも普段のギュームはもう少ししっかりしてるからね」」
そう、今はウマの話が出来る相手だと興奮しているだけで、普段はあれでなかなかに頼りになる人なんだよ。
「重ね重ね失礼をしてしまって…すみません…でした」
しばらくしてから手帳を片手に歩いて戻ってきたギュームは、まるで別人のように大人しく、恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。部屋まで戻って手帳を探している間に、我に返ったんだろうな。
幸いにも二回目の全力謝罪になるほどでは無かったようで、何よりだ。
「すみません、取り乱してしまった時と、ウマ関係だとすこし暴走する癖がありまして…」
恥ずかしそうなギュームは、アキトに向かって丁寧にそう説明を始めた。
「いえ、気にしないでください」
さきほども取り乱してしまってと、ギュームは小さな声で続けた。
「次にお会いできたら、お詫びと自己紹介をしないとと思っていましたから…つい…」
「ギューム、それはもう良いよ」
「そうそう、アキトくんは怒ってないからね」
俺とキースの二人からの声かけで、ギュームはようやく、はいとひとつ頷いてくれた。
「そういえば、あなた方は何かご用があってこちらに来られたんですか?」
今になって気づいたと言いたげなギュームの質問に、俺は笑って答えた。
「昨日二人の恩人…いや恩ウマか?の世話を頼んだだろう?」
「はい。丁重にお世話をさせて頂きました」
「アキトとキースがその子に会いたいというから、こちらへ来たんだ」
「なるほど。そうでしたか、ではすぐにご案内しますね」
ニコニコ笑顔のギュームは、あの子は賢い子ですねぇと嬉しそうに続けた。
アキトはにっこりと笑顔を浮かべながら、ギュームに向かって自己紹介をした。世間一般的に考えれば、使用人相手には考えられないぐらいに丁寧な挨拶だ。
そんな挨拶をされたギュームはというと、ふるふると震えたかと思うとまた涙目になってしまった。
アキトは大慌てで、バッと俺の方を振り返った。俺のせい?と言いたそうな表情で俺を見つめてくるが、たぶんこれはただ感動しているだけだろう。
俺はうっすらと笑いながら、ゆるりと首を振ってみせた。
アキトはじゃあどういう事?とそっと首を傾げている。その反応も可愛いな。
「ギューム、どうしてそんなに涙目なんだ?」
ギュームの目の前で説明するよりも、ここは本人の口から説明して貰った方が良いか。そう考えた俺は、あえてギュームに尋ねてみた。
「お叱りを受ける、または処罰を受ける覚悟までしていたのに、あっさり許して頂けた上に、きちんと自己紹介を返してまで頂けるなんてっ…!」
私はとても嬉しいですと、ギュームは涙目のままにこにこと笑いながらそう続けた。
いや、そもそもきちんと名乗らなかったからなんてくだらない理由で、使用人を叱るような厳しい家じゃないからな、うちは。
使用人に対して処罰なんて、盗賊を手引きしたとか情報を横流ししたとかのよほどの事態で無い限りあり得ない。
それにアキトは自己紹介をされたのに、相手が使用人だからと無視をするような人じゃないからなとか――言いたい事は色々とある。
まあそれを言う前に、ギュームが話し出してしまったんだが。
「しかもウマが好きなんて!なんて素晴らしい!ウマは本当に素敵な生き物ですからね!まず見た目の美しさも良いんですが、私は何と言っても、あの力強さが好きなんです。後はやっぱり走る姿の美しさが素晴らしいと思います!」
熱く語り始めたギュームに、俺は苦笑しながらアキトをちらりと見た。
とりあえず涙目の理由は分かっただろう?と視線で告げれば、アキトからはこくりと頷きが返ってきた。
「アキト様は、馬のどんな所が好きですか」
ギュームの唐突な質問に、アキトはえっとと考えながら答えた。
「俺も馬の走る姿は好きですね。後は目が優しい所も好きです」
「目が優しい!それが言える人は相当のウマ好きですよ!」
ああ、そうだな。普通は、ウマの目は怖いとか得体が知れないとか言われるからな。
一気に元気になったギュームはまだまだ馬について語り合いたいようだったが、そこは止めに入らせてもらった。
俺達は、シュリに会うために来たんだからな。
「ギューム、そこまでにしよう。アキトもウマ好き仲間が欲しいと言っていたから、その話は後日改めてゆっくりして欲しい」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
アキトもこくりと頷きを返せば、ギュームはパァァッと笑顔になった。
「最高です!いつなら予定が空くか、確認してきますから、しばらくお待ち下さいっ!」
そう言うなり、ギュームは振り返りもせずに勢いよく駆けていってしまった。
あー…後になって俺達を放置して来てしまったと、反省する事にならないと良いんだが。すこしだけ後の反応が心配だったが、俺はじっとギュームの背中を見つめていたアキトに声をかけた。
「あー…アキト、何というか…すまない」
「あのね、ギュームはね、取り乱した時はいつもこんな感じだよ。後、ウマへの気持ちを語り出した時も」
キースも、すこし困り顔で笑いながらアキトにそう教えている。
「別に大丈夫だよ。馬の話しは、俺も出来たら嬉しいし…」
そう答えたアキトに、俺とキースは声を重ねて続けた。
「「でも普段のギュームはもう少ししっかりしてるからね」」
そう、今はウマの話が出来る相手だと興奮しているだけで、普段はあれでなかなかに頼りになる人なんだよ。
「重ね重ね失礼をしてしまって…すみません…でした」
しばらくしてから手帳を片手に歩いて戻ってきたギュームは、まるで別人のように大人しく、恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。部屋まで戻って手帳を探している間に、我に返ったんだろうな。
幸いにも二回目の全力謝罪になるほどでは無かったようで、何よりだ。
「すみません、取り乱してしまった時と、ウマ関係だとすこし暴走する癖がありまして…」
恥ずかしそうなギュームは、アキトに向かって丁寧にそう説明を始めた。
「いえ、気にしないでください」
さきほども取り乱してしまってと、ギュームは小さな声で続けた。
「次にお会いできたら、お詫びと自己紹介をしないとと思っていましたから…つい…」
「ギューム、それはもう良いよ」
「そうそう、アキトくんは怒ってないからね」
俺とキースの二人からの声かけで、ギュームはようやく、はいとひとつ頷いてくれた。
「そういえば、あなた方は何かご用があってこちらに来られたんですか?」
今になって気づいたと言いたげなギュームの質問に、俺は笑って答えた。
「昨日二人の恩人…いや恩ウマか?の世話を頼んだだろう?」
「はい。丁重にお世話をさせて頂きました」
「アキトとキースがその子に会いたいというから、こちらへ来たんだ」
「なるほど。そうでしたか、ではすぐにご案内しますね」
ニコニコ笑顔のギュームは、あの子は賢い子ですねぇと嬉しそうに続けた。
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