生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1137.【ハル視点】ハーレの料理は

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 もし生野菜嫌いを勝手に暴露したのが俺やファーガス兄さんだったなら、ウィル兄はニコニコ笑顔のまま怒りつつ、何故勝手に話してしまったのかと厳しく問い詰めてくるだろうな。

 想像しただけでもすこし怖いな。ウィル兄は笑顔のまま怒っている時が、一番怖いんだよ。

 キースはさすがに兄の生野菜嫌いを知っているから問題は無いんだが、アキトの前では何も言わずに食べていたぐらいだからな。それだけアキトには隠しておきたかったんだろう。

 まあジルさんによって明らかにされたなら、ウィル兄が後で拗ねるぐらいで特に問題もないか。ジルさんがアキトに詳しく説明をしている隣で、俺はそんな事を考えていた。

「あれ…?」

 不思議そうに呟いたアキトの声に、俺はさっと視線をあげた。一体何があったのかとアキトの視線の先を辿れば、そこでは無言のままじっと自分のサラダを観察しているキースの姿があった。

 何故何も言わないんだろうと思わず三人で顔を見合わせてしまったが、キースは無言のままもう一度サラダを口に運んだ。

 二口目もじっくりと味わってから、キースは今度は不思議そうに首を傾げた。

「でも、このサラダ…こんなに美味しいのにね?」

 なんでだろう?と言いたげなキースの心底不思議そうな反応に、俺達は揃って笑みを浮かべた。

「ええ、私たちには美味しいサラダですよね」
「ああ、いつかこの良さがウィル兄にも分かるかもしれないぞ」
「そうかな?そうだと良いなー」

 むしろキースのこの笑顔を見せたら、ウィル兄は無理をしてでも食べるようになるかもしれないな。そう思ってしまうぐらいの、可愛らしい笑みだった。

 ジルさんも俺と同じ事を思ったのか、何やら考えているみたいだ。これはもしかしたらキースの笑顔に背中を押されたウィル兄が、生野菜を食べられるようになる日も近いかもしれない。

 頑張れウィル兄と心の中で応援の声を送りつつ、俺はアキトに声をかけた。

「アキト?」
「ん?どうしたの?ハル」
「このハーレの料理はもう食べた?」

 何を食べているかをずっと見ていたわけでは無いからただの予想だが、大好きなハーレの料理を食べていたとしたらアキトはきっと何か感想を言っていただろう。そう思って尋ねてみた。

「ううん、まだだよ」

 俺の予想は、どうやら当たっていたらしい。

「さっき食べてみたんだけど、きっとアキトはこれ、大好きな味だよ」

 もしお腹がいっぱいになってから食べたら、もっと早く食べるべきだったと後悔するかもしれない。そう心配になってしまったぐらい、ハーレが特別大好物なわけじゃない俺が食べても美味しい料理だった。

「そうなんだ?それは楽しみー俺も食べてみるね」

 そう答えながら、アキトは自分の皿の上に乗せたハーレの料理へと視線を向けた。

 ラスがこだわって作ったのだろうこの料理は、食べやすいように串に刺して提供されている。庭で食べるからと気を使ってくれたんだろうが、この料理は切り分けて食べたら美味しさが半減する気がするんだよな。

 これは一口で食べた方が美味しい料理なんじゃないか?ラスはそこまで考えているんだろうかと考えていると、アキトはじっくりと観察をしてからパクリと口に放り込んだ。

 もぐもぐと口を動かしたアキトは、パッと表情を変えた。目をキラキラとさせながら、んーと嬉しそうに声を漏らす。

「…っ!美味しいっ!すごい!これ!」

 アキトは本当に美味しいものを食べると、咄嗟に言葉が出なくなるんだよな。そういう所も可愛いし、もっとたくさん美味しいものを食べて欲しいと思うんだが。

 あまりにも幸せそうなアキトの姿に、この姿をラスにも見せてやりたかったなと思った自分に、すこしだけ驚いてしまった。俺の中で、ラスはすっかりアキトの祖父枠らしい。

「ああ、ハーレはアキトさんの好物なんでしたね」
「美味しそうに食べるね」

 ジルさんとキースはそう言って微笑ましそうに笑みを浮かべている。

「どう?アキトの好きな味だっただろう?」

 そう尋ねた俺にコクコクと頷きを返しつつ、アキトはパッとジルさんとキースの方を見た。

「あの、キースくんもジルさんも、良かったらこれ食べてみてください」

 さっきのアキトの表情で興味を持っていたらしい二人は、躊躇う事なくさっとハーレの料理を手に取った。

「わ!とろとろだ!…んー美味しいね!」
「ね、美味しいよね!」
「これは確かに…癖になる味です」

 二人からそう言ってもらったアキトは、ラスさんはすごいねと言って幸せそうに笑みを浮かべた。
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