生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1123.【ハル視点】初めての場所

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「みなさま、大変お待たせいたしました」
「準備が整いました」

 メイドたちがそう声をかけてくるまで、俺達は揃って目の前にある庭園の景色を堪能した。

 まあ途中からは、周りの木や花を見ながら話す方が忙しくなっていたんだが。

 図鑑が好きなおかげで植物にかなり詳しいキースと、情報収集が得意で知識量も豊富なジルさん。そんな二人の知識に感心しながらも、つい張り合ってしまったからだ。

 ここに植えられている植物は、トライプール周辺には無かったものが多い。

 必然的に三人から一方的に知識を詰め込まれる事になってしまったわけだが、アキトは嫌がったり呆れたりはしなかった。

 むしろ嬉しそうにみんなの話しに耳を傾けてくれるから、ついつい三人揃って止めどころを見失ってしまった。

 花の名前や木の種類、素材にもなるものはその効能、使い道や生息地域まで説明したのは、さすがにやりすぎたかもしれない。

 アキトはずっと楽しそうだったが、反省しないとな。

「みなさま、どうぞこちらへ」
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「ありがとー」
「ありがとうございます」

 口々にお礼の言葉を返した俺達は、揃って勧められた椅子へと腰を下ろした。目の前のテーブルには白いテーブルクロスが敷かれていて、そこにたくさんの種類の食器が綺麗に並べられている。

 いつでも食事を始められる、完璧な食事会の準備状態だな。

 このまま給仕に取り掛かるのだと思っていたんだが、メイドたちは俺達に向き直って礼をするなり唐突に尋ねた。

「本日は、どのように料理をお出ししましょうか?」

 どのように料理をお出ししましょうかなんてメイドから尋ねられた事は、おそらく今までに一度も無い経験だ。

 予想外なメイドたちからの質問に、俺は思わずぐるりとその場にいる皆の顔を見回した。

 アキトは驚いた様子で目を大きく見開いていたが、ジルさんは納得顔でひとつ頷いていた。キースは特に気にした様子も無く、ニコニコの笑顔で聞いている。

 いや、おそらくだがこれもラスの提案か。それならきっと使用人の事を気にかけるアキトに、人目を気にせずにのびのびと食事を楽しんでもらうためだろうな。

 同じことに思い至ったから、ジルさんは納得顔で頷いていたんだろう。俺がそんな風に分析している間に、まず口を開いたのはジルさんだった。

「私は特に希望はありませんから、みなさんにおまかせします」

 次にはーいと元気に手をあげたのは、キースだ。

「僕もハル兄とアキトくんにまかせるよー」

 笑顔のキースに、俺はうっすらと笑みを浮かべながら頷きを返す。

「分かった。アキトは?二人に給仕をしてもらった方が良い?」

 まだすこし不思議そうなアキトにさらりと質問の意図を説明すれば、アキトはやっぱりそういう意味かと頷いてから口を開いた。

「えっと…俺もハルにおまかせで!」

 あれ?断らないんだな。

 以前、元の世界では給仕される事なんてそうそう無かったから、ちょっとだけ緊張するんだよねと話してくれた事がある。だからきっと断るんだろうと思っていたんだが、給仕は無しでとは言わなかった。

 いや、もしかしたら静かに答えを待っているメイドたちに対して緊張すると言うと、傷付けてしまうかもと考えているのかもしれないな。

 アキトは優しいから。

 メイドたちの方からわざわざそう尋ねたという事は、断っても何の問題も無いんだけどな。

「そうか、分かった」

 俺はアキトにそう答えてから、メイドたちに向かって声をかけた。

「みんなにまかされてしまったから…そうだな。今日はのんびりと食事を楽しみたいから、全て先に並べてもらえるかな」

 俺の希望だとはっきりとメイドたちに告げれば、アキトはキラキラと輝く目でこちらを見つめてきた。傷付けない言い方を考えられてすごいとか、思っていそうな表情だな。

 アキトにこういう目で見られると、ついつい調子に乗りそうになってしまうな。

 ありがとうと視線だけで伝えてきたアキトに、俺もどういたしましてと視線だけで答えた。
 
「かしこまりました。すぐにご用意いたしますね」



 メイドたちの手によってテーブルの上にずらりと並べられた料理は、どれもラスがこだわって作ったものばかりだった。いや、ラスが手抜きをした所なんて、俺は今まで一度も見た事が無いんだが。

 野菜や果物をたっぷりと使った色とりどりのサラダ。数種類のスープに、おそらく自作だろうパンの山。メインには魚料理と肉料理の両方が用意されている。その他にもアキトとキースが喜ぶだろう甘い物も数種類並んでいる。

 時間的に朝食と昼食の兼用になるだろうとはいえ、こういう手の込んだ菓子まで用意されているのは珍しいな。

 感心しながら料理たちを眺める俺達に、メイドの一人が声をかけてきた。

「こちらは魔道具となっております」

 そう言いながら、メイドはそっと小さなベル型の魔道具をテーブルの端へと置いた。これは初めて見る魔道具だな。思わずまじまじと観察してしまった。

「何かご用がある時にはこちらを鳴らしていただければ、すぐに誰かが参りますので」

 そう言い残したメイドたちは、すぐに失礼しますと小道を戻っていった。
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