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1119.【ハル視点】心のこもった案内
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案内をしてくれている二人のメイドは、どうやら俺達を案内するルートを事前によく考えた上で計画を立ててくれていたようだ。
さっきから何度か角を曲がっているが、選ばれているのはさりげなく窓からの景色を楽しめるような廊下ばかりだ。
普通なら同じ建物の窓からの景色なんてそう変わらない筈なんだが、窓ごとに見える植物が全く違っている。庭師がここまでこだわっているとは、俺も知らなかったな。
アキトはというと、興味深そうに外の景色を眺めながら歩いている。繋いだ手の揺れ方から、アキトの楽しさが伝わってくるような気がする。
そこまで遠回りというわけでもないんだが、普段はあまり通らない廊下が多いな。見事な案内だなと感心しながら歩いていると、不意に前を歩いていたメイドたちが立ち止まった。
「アキト様、あちらの窓の向こう側の大きな木が見えますか?」
そう問いかけたメイドの視線は、窓の外へと向かっている。アキトはすぐにメイドの視線の先を見た。そこには真っ白な花をいくつも咲かせている大きな木があった。
ああ、見せたかったのはフルス―の木か。まだつぼみもあって満開というほどでは無いが、綺麗に咲いている。
「あの綺麗な白い花の木ですか?」
窓の外を指差しながらそう答えたアキトに、メイドたちは揃って笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、あの白い花のたくさん咲いている木です。あれはフルス―という名前の木なんですが、花ではなく葉っぱの香りがすごく良いんですよ」
「え…葉っぱの香り…ですか?」
ゆるりと首を傾げながら、アキトは不思議そうに尋ねた。メイドたちはアキトの素直な反応が嬉しかったのか、嬉しそうに口を開いた。
「そうなんです。初めて聞くと驚きますよね」
「あんなに綺麗なのに、花は何故かまったく香りがしないんですよ」
「え…香りがしない…?」
アキトは大きく目を見開いたまま、言葉を繰り返した。
そういえば俺も知識として聞いた時は、さすがにそれは嘘だろうと思ったな。香りが少ないならともかく、香りが無いなんてと考えた。実際に嗅いでみたら、たしかに全く香りが無くて驚いたのを覚えている。
本当に?と言いたげにちらりと俺の方を見たアキトに、俺は笑いかけてから口を開いた。
「フルス―の木の葉っぱは、まるで果物のような甘酸っぱい香りがするんだけど、花は本当に無臭だよ」
「えーそんな木があるんだ…」
俺が説明すると、アキトはあっさり納得してくれるんだな。信じてもらえている事が嬉しい。
「あの木は、ケイリー様がわざわざ他の領から取り寄せて植えたものなんです」
「へぇ、そうなんですか」
「最初のきっかけはキース様の一言でした」
ああ、あったな。
本でフルス―の葉っぱについて読んだキースが、一度で良いから本物を見てみたいと言いだした。だから父さんは、息子の希望を叶えるべく他の領主にも聞いて回って何とか入手した。
「その時入手して来たのは、葉っぱだけだったんです」
「ですが、その香りをとっても気に入った人が二人いらっしゃいました」
メイドたちがハロルド様も説明に参加しませんかと視線を向けて来たので、笑顔で続けた。
「その二人がキースと、母さんなんだ。しかもラスがこれは料理にも使えるかもしれないな…なんて言い出したんだ」
これはもう植える以外の選択肢がないなと、葉っぱを譲ってくれた領主と交渉して手に入れたんだと説明すればアキトは微笑ましそうにふふと笑みを浮かべた。
「フルス―の葉っぱの香り、嗅いでみたくなりました」
「興味を持って頂けて良かったです。案内させて頂く場所の近くにも、フルス―の木はありますのでよろしければぜひ」
ハロルド様なら場所はお分かりになりますと、メイドの一人はそう言って笑った。
たしかにフルス―の木がある場所はいくつか知っているな。そうか、今日の目的地はそのうちのひとつの近くにあるのか。
「それに…料理長から、今日の食事の中にフルス―の葉っぱを使ったものもある――と聞いています」
ああ、なるほど。
さっきからもっと珍しい植物もあったのに、それは説明しなかった。何故だろうと思っていたが、ラスの料理に使われているから説明をしたのか。
そんな所まで考えてルートを考えてくれているなら、本当に色々と気配りをしてくれたんだな。
「わー楽しみです!」
教えてくれてありがとうございますと笑顔で続けたアキトに、二人のメイドたちはふわりと笑みを浮かべて光栄ですと答えている。
「それではこちらへどうぞ」
まだ食事をする庭まではすこし距離があるからと、メイドたちはすぐに道案内を再開してくれたが、数歩も行かないうちに後ろから大きな声が聞こえてきた。
「おーい!アキトくーん!ハル兄ー!」
この声は、キースだな。アキトと二人で揃って振り返れば、まだ遠い廊下の先にぶんぶんと手を振っているキースと、そんなキースの姿を微笑ましそうに見守っているジルさんの姿があった。
さっきから何度か角を曲がっているが、選ばれているのはさりげなく窓からの景色を楽しめるような廊下ばかりだ。
普通なら同じ建物の窓からの景色なんてそう変わらない筈なんだが、窓ごとに見える植物が全く違っている。庭師がここまでこだわっているとは、俺も知らなかったな。
アキトはというと、興味深そうに外の景色を眺めながら歩いている。繋いだ手の揺れ方から、アキトの楽しさが伝わってくるような気がする。
そこまで遠回りというわけでもないんだが、普段はあまり通らない廊下が多いな。見事な案内だなと感心しながら歩いていると、不意に前を歩いていたメイドたちが立ち止まった。
「アキト様、あちらの窓の向こう側の大きな木が見えますか?」
そう問いかけたメイドの視線は、窓の外へと向かっている。アキトはすぐにメイドの視線の先を見た。そこには真っ白な花をいくつも咲かせている大きな木があった。
ああ、見せたかったのはフルス―の木か。まだつぼみもあって満開というほどでは無いが、綺麗に咲いている。
「あの綺麗な白い花の木ですか?」
窓の外を指差しながらそう答えたアキトに、メイドたちは揃って笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、あの白い花のたくさん咲いている木です。あれはフルス―という名前の木なんですが、花ではなく葉っぱの香りがすごく良いんですよ」
「え…葉っぱの香り…ですか?」
ゆるりと首を傾げながら、アキトは不思議そうに尋ねた。メイドたちはアキトの素直な反応が嬉しかったのか、嬉しそうに口を開いた。
「そうなんです。初めて聞くと驚きますよね」
「あんなに綺麗なのに、花は何故かまったく香りがしないんですよ」
「え…香りがしない…?」
アキトは大きく目を見開いたまま、言葉を繰り返した。
そういえば俺も知識として聞いた時は、さすがにそれは嘘だろうと思ったな。香りが少ないならともかく、香りが無いなんてと考えた。実際に嗅いでみたら、たしかに全く香りが無くて驚いたのを覚えている。
本当に?と言いたげにちらりと俺の方を見たアキトに、俺は笑いかけてから口を開いた。
「フルス―の木の葉っぱは、まるで果物のような甘酸っぱい香りがするんだけど、花は本当に無臭だよ」
「えーそんな木があるんだ…」
俺が説明すると、アキトはあっさり納得してくれるんだな。信じてもらえている事が嬉しい。
「あの木は、ケイリー様がわざわざ他の領から取り寄せて植えたものなんです」
「へぇ、そうなんですか」
「最初のきっかけはキース様の一言でした」
ああ、あったな。
本でフルス―の葉っぱについて読んだキースが、一度で良いから本物を見てみたいと言いだした。だから父さんは、息子の希望を叶えるべく他の領主にも聞いて回って何とか入手した。
「その時入手して来たのは、葉っぱだけだったんです」
「ですが、その香りをとっても気に入った人が二人いらっしゃいました」
メイドたちがハロルド様も説明に参加しませんかと視線を向けて来たので、笑顔で続けた。
「その二人がキースと、母さんなんだ。しかもラスがこれは料理にも使えるかもしれないな…なんて言い出したんだ」
これはもう植える以外の選択肢がないなと、葉っぱを譲ってくれた領主と交渉して手に入れたんだと説明すればアキトは微笑ましそうにふふと笑みを浮かべた。
「フルス―の葉っぱの香り、嗅いでみたくなりました」
「興味を持って頂けて良かったです。案内させて頂く場所の近くにも、フルス―の木はありますのでよろしければぜひ」
ハロルド様なら場所はお分かりになりますと、メイドの一人はそう言って笑った。
たしかにフルス―の木がある場所はいくつか知っているな。そうか、今日の目的地はそのうちのひとつの近くにあるのか。
「それに…料理長から、今日の食事の中にフルス―の葉っぱを使ったものもある――と聞いています」
ああ、なるほど。
さっきからもっと珍しい植物もあったのに、それは説明しなかった。何故だろうと思っていたが、ラスの料理に使われているから説明をしたのか。
そんな所まで考えてルートを考えてくれているなら、本当に色々と気配りをしてくれたんだな。
「わー楽しみです!」
教えてくれてありがとうございますと笑顔で続けたアキトに、二人のメイドたちはふわりと笑みを浮かべて光栄ですと答えている。
「それではこちらへどうぞ」
まだ食事をする庭まではすこし距離があるからと、メイドたちはすぐに道案内を再開してくれたが、数歩も行かないうちに後ろから大きな声が聞こえてきた。
「おーい!アキトくーん!ハル兄ー!」
この声は、キースだな。アキトと二人で揃って振り返れば、まだ遠い廊下の先にぶんぶんと手を振っているキースと、そんなキースの姿を微笑ましそうに見守っているジルさんの姿があった。
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