生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1118.【ハル視点】ラスからの提案

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 父さんの執務室を出ると、俺はすぐにアキトに向かってさっと手を差し出した。

 今日は出来る限りアキトと手を繋いでいたい。

 そんなまるでこどもみたいな我儘で差し出した手だが、アキトはじーっとその手を見つめると嬉しそうにへにゃりと笑みを浮かべた。すごく可愛い笑顔だが、出来れば早く繋いで欲しい。

 そういえばここにはカーゼとライがいたな。

 目の前で手を繋ごうとしている俺達に、カーゼとライは呆れているかな。そう思ってちらりと視線を向けてみたが、二人からは微笑ましそうに見守られているだけだった。

 まあそうか父と母もたまに手を繋いで歩いているし兄たちもそうだからな。おそらく見慣れているんだろう。

 アキトは嬉しそうに手を繋いでくれた。

 ここにアキトがいる事を確かめるようにきゅっきゅっと握りしめてみれば、アキトも答えるように同じリズムで握り返してくれた。ああ、手を繋ぐと安心するな。

「それじゃあ、行こうか」
「うん!」

 俺達は手を繋いだまま、ゆっくりと廊下を進んでいった。

 戻ってきた探索隊件でまだバタバタしてるのか、廊下を行き交う使用人たちも荷物を持っていたり、いつもよりも早歩きだったりと忙しそうだ。

 それでもみんな、俺達に気づくと立ち止まって笑顔で挨拶をしてくれる。俺達もその挨拶に笑顔で答えつつ、すっかり家族の食事の場として定番になった応接室へと向かった。



 辿り着いた部屋の前には、人の姿は無かった。中に家族の誰かはいないという事だな。そう考えながらそっとドアをノックをして部屋へと入れば、応接室の中には二人のメイドが控えてくれていた。

 ボルトが食事の手配をしてくれたと聞いた時から、俺は中に人がいるだろうなとは思っていた。だからノックしたんだが。

 だが、アキトはそうでは無かったようだ。

 部屋に入ったアキトは申し訳なさそうな表情で、メイド二人を見た。これは長い間待たせてしまったとか、考えているんだろうな。何か声をかけるべきかと考えていると、俺よりも先にメイドたちが動いた。

「「おはようございます」」

 今にも謝りそうなアキトを牽制するかのように、二人は揃って笑顔で挨拶をしてきた。

「ああ、おはよう」
「おはようございます」
「早速ですが、お食事の前にお伝えしたいラス料理長からの伝言があるのですが…」
「ラスさんからの伝言…ですか?」
「はい」

 どんな伝言だろうと不思議そうなアキトは、そのまま考えこんでしまった。俺は横から二人のメイドにそっと声をかける。

「聞かせてくれ」
「ラス料理長からの言葉を、そのまま伝えさせて頂きます」

 そう前置きをしたメイドによると、ラスからの伝言というのはもしよければ領主城の庭で食事をしないかという提案だった。

「庭師から少し珍しい花がちょうど綺麗に咲いている時期だと、そう聞いて思いついたそうなんです」
「今日の食事は庭でも食べられるようにと考えた料理を作っているとも、言っていました」
「料理長からは、もちろんお二人の気分にもよるだろうからとも言われています」
「このままこちらの室内で食事をされるようなら、私たちが盛り付けを担当させて頂きますが…」

 二人のメイドは、どちらを選んで頂いても良いんですよと控え目にアキトに声をかけた。

「どうする?アキト」

 俺は別に食べる場所が部屋の中でも庭でも、問題は無い。アキトが一緒にいてくれれば、それで良いからな。今はできるだけ離れたくない。

 んーと呟いたアキトは、しばらく考えた後にっこりと笑みを浮かべた。この雲一つない晴天に更に珍しい花が満開、そして更にラスの考えた外でも食べられる料理。これだけの条件が揃っているなら、アキトの答えは決まっているよな。

「俺は庭で食べたいな」
「うん、きっとそう言うんだろうなって、顔を見てただけで分かったよ」

 嬉しそうなアキトを見ていると、ラスに感謝しないとという気持ちが湧いてくるな。

 ふふと笑った俺は、楽しそうだから俺も庭が良いなとそう続けた。

「それではすぐにご案内しますので、少しだけお待ちください」

 てきぱきと動きだしたメイドたちは、部屋の中に置かれていたカゴをそれぞれの手にさっと取った。

 俺達がどちらを選んでも良いように、魔導収納になっているカゴに食事の用意をしていたようだ。

「ハロルド様、アキト様。お待たせいたしました」
「こちらへどうぞ」

 庭はかなりの広さがあるし、俺も全ての場所を把握しているわけじゃない。どこに案内されるんだろうなとぼんやりと考えながら、前を行くメイドの背を追って歩き出した。
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