生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1109.ピクニッ…ク?

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 曲がりくねったリームの小道を抜けた先、周囲を色とりどりの花々と大小さまざまな木々に囲まれた美しい庭園の中に、その場所は用意されていた。

「こちらが、料理長と庭師が、最もお勧めしていた場所でございます」
「他の場所が良いとのご希望があれば、他にもいくつか候補を聞いておりますが…」

 どうされますか?と声をかけてくれたメイドさんの声にも反応できないぐらい、俺は目の前の光景に驚いてしまっていた。

 うーん、これは…俺の想像してた庭でご飯とは――あまりにもかけ離れてるね。

 俺が想像してた庭でご飯っていうのは、庭の景色を楽しみながら布を敷いて食事を楽しむいわゆるピクニック――とか、何なら花見とかそういうのだったからね。

 でも目の前のこれは、ガーデンパーティーとかそういうやつじゃないのかな。

 まあ今までの人生でガーデンパーティーに参加した経験なんてたったの一度もないから、ただの俺の勝手な想像なんだけどね。でも、そう間違ってない気がする。

「わー!すごい!僕はここ、好きだよ!」

 キースくんが無邪気に喜ぶ声が、隣から聞こえてくる。

 うん、確かにガーデンパーティー会場としては、すごくお洒落だし良い場所だよね。

 心の中だけでこっそりと同意した俺は、改めて周りをぐるりと見回してみた。

 ここには本当にたくさんの種類の花々が、美しく咲き誇っている。

 種類が多ければ多いほど、色が多ければ多いほど、まとまりが無くなりそうなものなんだけどね。そこもきっちりと計算して配置されているのか、どの花も惹き立てあっていてすごく綺麗だ。

 あ、よく見れば、あそこにリームの花もあるな。

 圧倒的なのは、周りの植物だけじゃない。

 ここの地面には、白地に青い模様の入った陶器のようなタイルがずらりと敷き詰められている。

 あのーこれってこのまま靴で踏んで良いやつですか?それとも土足厳禁でしょうか?と思わず敬語で聞きたくなるぐらいに、細やかな模様が描きこまれたそれは美しいタイルだ。

 そしてその踏むのも怖いと思ってしまうタイルの上には、これまた繊細な彫刻が施された青色の木製テーブルと四つの椅子が並んでいる。ちゃんと庭用の物なのか、領主城の中では一度も見た事のないスタイルのテーブルと椅子だ。

 それにしても、キースくんとジルさんの参加が決まって人数が増えたのはほんのすこし前なのに、ちゃんとここに既に四人分の椅子が用意されてるっていうのもすごいよね。

 まあこれはこの場所がすごいっていうよりも、使用人さんたちがすごいんだけど。

「ああ、俺も嫌いじゃないが…こんな場所、前からあったか?」

 不思議そうにぽつりとそう呟いたハルに、ジルさんはいいえとすぐに首を振って答えた。

「ここは私も初めて見ましたね。ただ庭で工事をしているという報告は五日ほど前から来ていましたから、おそらく最近になってからこっそりと作ったんでしょう。見事な場所ですね」

 領主城内の、そういう細かい事もしっかりと把握してるんだ。

 さすがジルさんだと感心しながら、俺は今度はそっと空を見上げた。

 今日は起きた時からずっと雲一つない快晴で、リームの花を見ている時もじりじりと肌を焼くような日差しは感じてた。

 日陰にいればそこまで暑い時期ってわけでも無いんだけど、さすがに直射日光を浴びていると多少は暑く感じる。

 でもここではそれも関係無いんだよね。だって、きっちりと対策が取られているから。

 周囲にある背の高いいくつかの木を上手に利用して、太陽の日差しを遮るためなんだろう薄い布がまるで屋根のように張られているんだ。

 いや、周囲にある木をうまく利用してるってわけじゃないか。たぶんこのためだけに、不自然にならないように計算した上で背の高い木をあえて配置してるんだと思う。

 庭師さんって本当にすごいな。

「アキトは?ここ、気に入った?」

 あまりにも反応をしない俺を気にしてか、ハルが控え目にそう声をかけてくれた。慌てて視線をあげれば、ハルとジルさん、キースくんに、メイドさんたちまでがじっと俺を見つめていた。

 あ、そういえば、さっきから俺だけ何も感想を言ってなかったな。あまりにも予想外だったからついつい観察してた。

「え、俺?うん。俺もすごく気に入ったよ」

 あまりの豪華さにピクニック気分ではいられなくなったけど、初のガーデンパーティーって事で気分を切り替えていこう。

「それは良かった―――みんな気に入ったようなので、ここで頼むよ」

 代表してハルがそう声をかければ、メイドさんたちはかしこまりましたと流れるような所作で礼をした。

「しばらくは周りの景色をご堪能ください」

 そう前置きをしたメイドさんたちは、てきぱきと食器を取り出して並べ始めた。
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