生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1108.リームの花

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 みんなで一緒に庭で食事ができるのがよっぽど嬉しかったのか、キースくんはニコニコと笑顔を振りまきながら歩いている。

 弾むような足取りのキースくんを微笑ましく見守りつつ、俺達はメイドさんの案内でまた廊下を歩き出した。

「ハルさん、アキトさん、今回の探索隊の報告はもう受けましたか?もし詳細が知りたいようなら、簡単になら説明させて頂きますが…」

 ゆっくりと歩きながら、ジルさんは小さな声で俺達に声をかけてくれた。俺達が探索隊の事を気にしてるだろうと考えて、わざわざ自分からそう提案してくれるんだから優しいよね。

「俺達の事を気にかけてくれてありがとう。さっきボルトの報告を聞きに行ってきた所なんだ。だから報告は大丈夫だよ」
「ああ、そうでしたか」
「ジルさん、俺からもありがとうございます」

 横からお礼の言葉をかければ、ジルさんはふわりと笑ってくれた。

 

 あれこれと話しながら歩いていると、不意にメイドさんたちがひとつのドアの前で立ち止まった。隣を歩いていたキースくんと二人、思わず顔を見合わせる。

「こちらです」
「どうぞ」

 そう声をかけながら、メイドさんは両側からそっとドアを開いた。

――あれ?ここまでは先導してくれたのに、ここからは俺達が先に行くの?

 少しだけ不思議には思ったけど、言われるがままに外へと出る。途端に隣にいたキースくんが、嬉しそうに歓声をあげた。

「うわー!すごい!綺麗ー!」
「わー!本当だ、すごく綺麗だね!」

 思わず俺も一緒になって、はしゃいだ声をあげてしまったよね。

 俺とキースくんが見つめる先には、まるで庭の一角を埋め尽くすかのように薄い紫色の小ぶりな花がみっしりと咲いている。

 ひざ丈ほどの高さだから、それほど大きな花ってわけじゃない。でも存在感がすごい。水やりをした後なのか、小さな水滴が花についてるみたいなんだけど、それが太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

 思わず見惚れてしまうぐらいに綺麗な光景に、なるほどメイドさんたちはこれを俺達に見せたかったんだなとすぐに理解できた。

「これはまた…見事なものだな」

 驚いた様子で、ハルもぽつりとそう呟いた。

「ええ、ここまでまとまって咲いているリームの花は、私も初めて見ましたね」
「皆さまにそう言って頂けると、庭師たちが喜びます」

 俺達の後ろに控えていたメイドさんは本当に嬉しそうにそう言うと、すぐにこの花について詳しく説明してくれた。

 ジルさんも言ってた通り、この植物の名前はリームというらしい。咲いている期間はわずか三日ほどで、今日はちょうど三日目にあたるんだって。

「ああ、そういう事か」
「ん?どういう事?」
「わざわざラスまで巻き込んで花を見て欲しいと庭師たちが言うなんて、滅多にあることじゃないんだ」

 普段はかなり珍しい花が咲いた時でも、良ければ見てくださいぐらいの事しか言わないんだよとハルは続けた。

「そうですね。きっとどうしても見て欲しかったんでしょう」
「あ、そうか。俺達が攫われた日に咲いた花だから…?」

 だからどうしても見せたかったって事か。思いついた事をぽつりと呟けば、メイドさんたちはこくりと頷いてくれた。

「実はキース様にも、夕方までに何とかこちらに来ていただこうと使用人たちで計画しておりました」
「そうなの?」
「はい。まさかお二人に揃って見て頂けるとは思っていませんでしたが…」
「キース様とジル様がいらっしゃった時は、私たちは内心ドキドキしてました」

 ぜひご一緒にと私たちの方から言いそうでしたと恥ずかしそうな笑顔を見せてくれたメイドさんたちに、俺達も揃って笑顔を返した。

 リームの花をゆっくりと堪能した後、こちらへどうぞと案内されたのはリームの花の間を通る小道だった。

「こんな所に道があったんだ…」

 思わずそう呟けば、キースくんも僕も気づかなかったよと同意してくれた。

「全然見えなかったよね」
「これはきっと、わざと分かりにくいように作っているんでしょうね」

 興味深そうに小道を観察しながら、ジルさんもそう答える。

「だろうな。きっと庭師も楽しんで全力を出したんだろう」

 ハルの笑いまじりの声に、メイドさんたちも苦笑しながら頷いた。
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