生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
1,105 / 1,179

1104.商業ギルド

しおりを挟む
 そっか。その盗品の鑑定に立ち会ってるから、ケイリーさんはいま執務室にいないのか。もしかしたらそういう場には一番偉い人が立ち会うとか、そういう決まりがあったりするのかな。

 そんな事を何となく考えていると、不意にハルが口を開いた。

「ボルト。探索隊は明け方に帰って来たばかりと言ったよね」
「はい、その通りです」

 ボルトさんはすぐさま姿勢を正して、はっきりとそう答えた。ハルは納得がいかないという表情で質問を続ける。

「…それなのに、もう商業ギルドの鑑定魔法士が…来てるのか?」
「はい、既に鑑定作業に入っていますよ」
「普段なら来るまでにもっと時間がかかるのに―――今日はすいぶんと早くないか?」

 ああ、そうか。鑑定魔法が使える人は基本的に大忙しなんだって、前にハルから聞いた事があるな。特に腕が良ければ良いほど忙しいって言ってたはず。商業ギルドに抱え込まれてるような人は特に凄腕だって聞いてるから、それだけ忙しいって事だよね。

 そんな商業ギルドの鑑定魔法士さんが既に来てる事に、ハルは驚いてるのか。

 不思議そうに首を傾げながらのハルの質問に、ボルトさんはにっこりと笑みを返した。

「キース様とアキト様がお戻りになった時点で、商業ギルドには数日中には盗賊団を潰せるだろうと一報を入れておきました」

 つまりボルトさんが素早く根回ししてくれていたから、商業ギルドもすぐに動いてくれた…って事なのかな?

 ボルトさんはすごいなと俺は感心したんだけど、ハルはまだ首を傾げている。

「それにしても…やっぱり早すぎないか?」
「アキト様とキース様、お二人の行方についての調査に当たっていた陰護衛組から、最近の牙蛇盗賊団は商人を主に狙っていたようだという報告がありました」
「そうなのか?」
「ええ、ですので、商業ギルドには被害にあった商人の品がわずかでも取り戻せるかもしれないという情報も、しっかりとお伝えしておきましたよ」

 なるほどと、ハルは面白そうに笑った。

 なんでもハルによると商業ギルドというのは、商人を守るために存在していると公言している組織らしい。だからこそ、分かりやすく商人の利になると分かれば、他の何よりも優先して動いてくれる事があるらしい。

 そう言う事かと聞いていると、ボルトさんが横から口を開いた。

「それに…どうやら商業ギルドには、牙蛇盗賊団の被害にあったという商人からの届け出がいくつも来ていたらしいのです。ですがその情報を、わざと隠していたようなんですよ」

 衛兵の調査によると、ただでさえ危険だと言われている辺境に来てくれる商人を、これ以上減らしたくなかったとそう言っていたらしい。

 えー、そういう問題なの?って言いたくなるよね。どこが商人を守るために存在してる組織なんだろうって、疑問に思ってしまう返答だ。

「それはひどいな」
「私も全ての情報を一般市民に広く公開しろとまでは言いませんが、衛兵隊にも騎士団にも、そして領主様一家にも一切情報を回していなかったのには問題があるでしょう?」

 にっこり笑顔のボルトさんだけど、目は全く笑ってない。衛兵隊と騎士団にはともかく、領主様一家にぐらいは伝えておけって怒ってる顔だ。

 まあでも、ボルトさんの気もちは分かる。

「もしもっと早く商業ギルドが情報を回してくれていたら、もっと早く盗賊団に対処できていたかもしれないですもんね…被害にあう人も減ったかもしれない…」

 思わずぼそりとそう呟いた俺に、ハルもボルトさんもそうだなと言わんばかりに頷いてくれた。

「それに…もっと早く対処できていたら、アキトもキースも攫われていなかったかも…だよね」

 あ、ハルが悪い笑みを浮かべている。

「そこの所は、領主様がきっちりと抗議をしてくださいましたよ」

 久しぶりに本気で怒ったケイリー様を拝見しましたと、ボルトさんは楽しそうに笑っている。

「それで鑑定魔法士を回してもらったんだな」
「ええ、鑑定が遅くなると、その分報告書の処理も遅くなりますからね」
「少しでも早く事件を終わらせるためだな」
「ええ、その通りです」

 ケイリーさんは王都にある商業ギルドの本部にも、今回の一件をきちんと報告したらしい。情報の隠蔽にあたるから、さすがに隠すわけにはいかないんだって。

 でも領主としては処罰は求めないとして、その代わりにと鑑定魔法士を回してもらったそうだ。

「もし鑑定に興味がおありなら、ハロルド様とアキト様なら鑑定の場に顔を出しても問題は無いですが…」
「アキト、興味はある?」
「え、ううん?」

 持ち主の元にちゃんと戻ると良いねとは思うけど、逆に言えばそれぐらいの興味しかない。

「俺も興味は無いな。鑑定魔法士を睨んでしまいそうだし…やめておこう」
「かしこまりました」

 すっとお辞儀をしたボルトさんは、食事の用意はラスに頼んでありますので応接室へどうぞと教えてくれた。

 今度こそ、朝ごはん…いや昼ごはんかな。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...