生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

１０９８．夕食会

　今日は使用人も一緒にみんなでご飯を食べようというケイリーさんの提案は、すぐさま領主城の使用人さんたちに広められたらしい。

　後で聞いたんだけど、何でもその勢いはすごくて、緊急連絡なみの素晴らしい速度で広まったらしいよ。

「失礼いたします」
「領主様のお心遣いに感謝します」
「あの伝令は本当ですか？」
「ケイリー様、ありがとうございます！」

　そんな事を口々に言いながら、部屋にいなかった人たちがぞくぞくやって来たんだ。

　最終的には現在仕事中の人たち以外の、ほぼ全ての使用人さんがこの部屋の中に集まる事になった。

　室内にはかなりの人がいる状態だけど、テーブルや椅子の配置をささっと変えてくれたからかそれほど狭くは感じないな。

　俺はというと、ハルに付き添われてどんどん変わっていく部屋の隅に立っている。

　さっきからシュリくんの食事のために、ここで魔力を練ってたんだ。ある程度吸収すると、シュリくんは無言のまま俺の手にすりっと頭を寄せてくれた。

　きっともういらないって意思表示なんだろうな。それにしても俺とハルと、それに馬さんしか近くにいないのに、言葉を話さない事を徹底できてるシュリくんってすごいと思う。

　うっかり喋ったりしないんだ。俺だったら油断してぽろっと喋っちゃいそうな気がする。

　食事を終えたシュリとそれを見守っていた馬さんは、ギュームさんという馬の世話係の人に連れられて部屋から出ていった。あれだけ馬が好きですって態度の人だと、安心して送り出せるよね。

　しばらくすると、ラスさんが数人の料理人たちを連れて部屋に戻ってきた。手にはそれぞれカートのようなものを押している。あれって、魔道具のやつだよね。

「手が空いている者は、手伝ってくれ」

　そんなラスさんの声かけでみんながささっと動いた結果、驚くほど短時間で食事の用意まで終わってしまった。

「もう料理が終わっているなら、ラスも一緒に食べないか？」

　ケイリーさんの呼びかけに、ラスさんは確かに料理は終わったが…と言葉を濁した。

「俺も一緒でも良いのか？」

　尋ねた視線の先にいるのは、ハルだった。

「もちろん。アキトもキースも喜ぶよ」
「そうか…二人も良いか？」

　今度は俺とキースくんに視線が向けられている。

「もちろん！」
「嬉しい！ラスと一緒に食事なんていつぶりだろ」

　キースくんのニコニコ笑顔に、俺も嬉しいねーと笑顔で答える。ラスさんは照れくさそうに笑いながらも、俺達のテーブルに座ってくれた。

「よし、それではみんな」

　ケイリーさんの声に、部屋の中はしんっと静まり返った。

「キースとアキト、二人の無事な帰還に」

　乾杯とグラスを持ち上げたケイリーさんに、周りのみんなもそっとグラスを掲げた。



　静かな乾杯から穏やかに始まったかと思ったみんなでの夕食会だったけど、意外にも部屋の中はすぐにわっと賑やかになった。

「わ、今日は肉料理が多いな？」
「いや、待て。見たことないパンもあるぞ」
「すごい種類だな」
「うわー今日も美味しそう！」
「しかも絶対いつもの料理より品数が多いよな」
「ラスさんの料理は久々じゃないか？」
「あ、見て！私の好きな果物まであるー！」

　そんな嬉しそうな会話や笑い声が、あちこちから聞こえてくる。

　みんな楽しそうで俺としてはすごく好きなリラックスした雰囲気なんだけど、あまりにも急に変わった雰囲気にちょっと驚いてしまった。さっきまでの感じだと静かに食事を楽しむのかなーって思ってたからね。

　思わずキョロキョロと周りの様子を伺っていると、ハルがクスクスと笑いながら声をかけてくれた。

「アキト、びっくりした？」
「あ、うん。急に賑やかになったから…ちょっとね」

　あれ、もしかしてこの言い方だと、賑やかになったのが嫌だったって誤解されるかな。口に出してからそう思った俺は、慌てて言葉を続けた。

「いや、俺はこの賑やかな感じは、すごく好きな雰囲気なんだけどね！」

　責められたわけでもないのに急に言い訳めいた言葉を口にしてしまったけど、ハルはふふと笑ってから答えた。

「うん、こういうのがアキトが好きな雰囲気だっていうのは、俺は知ってるよ。それにびっくりはしてたけど、さっきも表情は嬉しそうだったからね」

　ここにいる誰もきっと誤解なんてしないよと、ハルは優しく声をかけてくれた。

「なら良かった」

　へへーと照れ笑いを浮かべた俺に、同じテーブルに座っている皆も笑みをみせてくれた。