生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1094.【ハル視点】自慢の弟

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 母であるグレースは、昔から本当にウマに好かれる人だった。あの裏表のない性格と遠慮のない距離の詰め方が、何故かウマに気に入られるんだよな。

 アキトとはまた違う好かれ方だから、母のようだと思った事はなかった。

「それでね、ウマくんのおかげでアジトからは逃げれたんだけど…」

 キースの話しを興味深く聞いていたんだが、そこで不意にアキトがハッと顔をあげた。いったいどうしたんだろうと思う間もなく、アキトはガタッと音を立てて立ち上がった。

 揺れた椅子の音とアキトの動きに、部屋中の視線が一気に集まる。話しをしていたキースも、驚いたのか大きな目でじっとアキトを見つめて固まっている。

「あ、えっと…」

 珍しくもアキトは慌てた様子で、うろうろと視線を彷徨わせている。何を言えば良いのか悩んでる感じかな。そう思いながら、俺はそっとアキトに声をかけた。

「どうしたのアキト、何か話したい事でもあるの?」

 周囲の視線を感じながらも優しい声を意識しつつ笑顔でそう尋ねれば、アキトはへにゃりと笑みを浮かべた。そのまま肩の力を抜いて、ホッとした顔で俺を見る。

 その笑顔だけで信頼してくれてるんだなーと実感できてしまうな。

「ほら、まずは座って」

 片手で椅子を整えつつ促せば、うんと頷いたアキトはすぐにしっかりと椅子に座りなおした。

 固まったまま静かに俺達のやりとりを見守っていたキースは、我に返るなり申し訳なさそうにアキトを見つめながら口を開いた。

「ごめんね、アキトくんも話したかったよね。僕ばっかり話してて…」
「ううん、そうじゃないんだ!キースくんが話してくれて助かってるし、話すの上手だから俺もうんうんって聞いてたんだけどね…でも」
「でも…?」

 話しの続きを聞き出そうと首を傾げた俺をちらりと横目で見てから、アキトはぐっと力を込めて言い放った。

「キースくんの活躍を、しっかりと話したいなと思っただけなんだ!」
「えっ…」

 驚きの表情を浮かべたキースは、次の瞬間には慌てた様子でそんなの良いよと口にしたが、すぐに周りから止められた。

「俺もキースの活躍、ちゃんと聞きたいな」
「私も聞きたい」

 俺と父さんにそう言われたキースは、でもと言葉を濁した。

「私もぜひ知りたいです」
「アキト様、どうぞ!」
「キース様の活躍を、どうか教えてください」
「私も聞きたいです!」

 ここぞとばかりに、周囲のテーブルの使用人たちも口々にそう主張し始めた。

 見た感じ、キースは照れくさそうだが、本気で嫌がっているわけじゃなさそうだな。これなら話しても良いんじゃないか?

 壁の所に立ってるボルトに至っては、さっとノートと魔導具のペンを取り出して構えている。しっかりキースの活躍を書き留めて、後でここにいない使用人たちと、それに母に報告するつもりなんだろうな。

「キースくん…話しても良い?」

 ここで本人にきちんと許可を得ようとするあたりが、アキトだよな。もしここで駄目だと言われれば、活躍してくれたんですよって言うだけで済ませるつもりなんだろう。

「えっと…」

 アキトの控え目な質問に、キースは恥ずかしそうにしながらもこくりと頷いた。

「まずキースくんの知識にびっくりしたのは、捕まっていた部屋から脱出する…前でした。キースくんは鳥の声だけで、ここがウェルマール領内だって気づいて教えてくれたんです」
「鳥の声で…?」
「ディーセルプ…だね?」

 思わずその鳥の名前を口にすれば、アキトはハルも知ってるの!?と言いたげにキラキラと目を輝かせた。可愛い反応についつい笑みがこぼれてしまう。


「そう!」

 アキトはうんうんと頷いてくれた。

「その鳥の声がするからって教えてくれたんだ」

 たしかにディーセルプは鳴き声も特徴的ではあるが、領民でも知らない人は多いだろう。そもそも鳥の鳴き声を判別しようとする人は、そう多くない。

 知ってさえいれば、便利なんだがな。

「でも…それはただ…たまたま知ってただけで…」

 だからそんなにすごくないと恥ずかしそうなキースに、アキトは珍しくもそれは違うよとすぐさま言い返した。

「知っててもキースくんが黙ってたら、俺は知らないままだったよ」

 キースは何が言いたいのかが分からなかったのか、不思議そうに首を傾げた。そんなキースの姿を見て、アキトはふわりと優しい笑みを浮かべた。

「俺を安心させるためにそれをわざわざ教えてくれたのが、すっごく嬉しかったんだ」

 そうだな。普段の日常生活でならともかく盗賊に攫われたその状況下で、アキトを安心させたいという思いでわざわざ説明してくれたんだ。それはもっと褒められるべき事だと、俺も思う。

「そうだよ、キース。アキトを安心させてくれてありがとう。キースが一緒で良かったよ」

 そっと伸ばした手で優しく頭を撫でれば、キースはへへと嬉しそうに笑みを浮かべた。
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