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1092.【ハル視点】キースの活躍
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部屋の中にいるほぼ全員が、期待を込めた目でじーっとアキトを見つめている。気弱な人なら視線の圧力に耐えられそうにないような状況だが、アキトは特に気にした様子もなくじっとシュリとウマの方を見ている。
食事は済んでいると伝えたからか、二頭の前にはそれぞれの体格に合わせた台が置かれており、ちょうどそこにメイドが水を運んでいる所のようだ。
アキトはそれを見て、嬉しそうにふわりと笑みを浮かべた。
シュリたちにもきちんと飲み物が用意されていた事が、よっぽど嬉しかったんだな。水を運んでいたメイドは誇らし気に胸を張っているし、他の使用人たちも自然と笑みを浮かべている。
微笑ましい可愛さに癒されていると、不意にアキトが顔をあげて口を開いた。
「あの魔道具で俺とキースくんがアジトへと飛ばされた時、気絶してたのか眠ってたのか…とにかく意識が無かったんです」
アキトがそう言った瞬間、部屋の温度が数度下がった気がした。使用人たちは表情こそ笑顔のままだが、器用に殺気を放っている。
まあ、そう言いながら、俺も思いっきり盗賊団への殺意を抱いたわけだが。
人の伴侶候補と弟を罠にかけて、しかも気絶させたのか?と問い詰めたくなるな。
「目を覚ましたのはキースくんの方が早かったんですけど、まず嘘の名前で話しかけてくれたんですよ!すごくないですか?」
「えーと…嘘の名前で…?」
それにはどういう意味があるんだ?と父さんは不思議そうに繰り返した。
「そうなのか?キース」
俺も不思議に思ったから、キースに直接聞いてみる事にした。
「あーえっとね、アキトくんと僕の名前から、もしかして身元がバレちゃうかもしれないなと思って…」
まあただの思いつきだったんだけどと苦笑したキースに、父さんと使用人たちはぶんぶんと首を振った。
「それは素晴らしい機転だよ、キース」
父さんがしみじみと褒めるのを聞いてから、俺も口を開いた。
「ああ、賢い弟で何よりだ」
アキトが目覚めるまで、キースも不安だった筈だ。そんな状況で機転を利かせられたんだから、もっともっと褒められるべきだと思う。
「素晴らしいです!」
「さすがキース様だ!」
使用人たちからも口々に褒められたキースは、照れくさそうにへへーと笑みを浮かべている。うん、俺の弟は今日も可愛いな。
「ちなみにその嘘の名前っていうのは何だったんだい?」
「僕がキルトで、アキトくんがアル兄だよ。兄弟が一番一緒にいて不自然じゃないかなーと思って。名前は僕とハル兄と、アキトくんの名前を混ぜたんだ」
すこしだけ自慢げに、キースはそう続けた。
なるほど、それは良い名前だな。アキトとキースの名前だけでなく、俺の名前も混ぜてくれていたのがとても嬉しい。
「慣れてない人が任務とかで仮の名前を使う時は、できるだけ一文字目を一緒にした方が良いんだって…ジルさんが前に教えてくれたんだ」
キースもすごいが、ジルさんもすごいな。そういう事もキースに教えておいた方が良いと、思いつきすらしなかった。
アキトはそういうものなの?と言いたげに首を傾げている。なぜ一文字目を一緒にするのか、馴染みがないときちんと説明されないと分からないよな。
俺はそっと耳元に顔を寄せると囁いた。
「その方が、うっかり本名を呼びそうになってもバレないからね」
「ああ、そういう事か」
偽名の一文字目を一緒にしておけば、会話の不自然さが減るからな。逆に任務に慣れた者になると、あえて一文字目も全く違う物にするんだが。初心者にそれを求めるのは無理があるからな。
「それからは二人で情報収集したんだよね」
アキトくんも落ち着いててすごかったんだよーと、キースは笑顔で教えてくれた。
「食べ物は与えられたかい?」
「はい、パンと果実水をもらいました」
そう言ったアキトは、何故か眉間にしわを寄せている。
「…何か嫌な事があった?」
心配になってそっと顔を覗き込めば、アキトは慌てて首を振った。
「ううん、えっとね…パンを貰ったから思わず…そのお礼を言ったら…普通は礼は言わないってすっごく笑われたんだ」
「でもあれで見張りの人達の警戒心が減ったから、すごく良かったよ?」
そのおかげで僕もお礼を言うだけで顔は似てないけど似たもの兄弟って言ってもらえたしと、キースは嬉しそうだ。
あまり顔は似ていないが、それでも似ている兄弟だと思わせられたという事か。
「そのパンと果実水は、ちゃんと僕の持ってる魔道具で鑑定したよ」
「ああ、祖父から贈られてきたあの魔道具か!キースが持っていてくれて良かったよ」
「俺は魔導収納鞄も持ってなかったので、本当に助かりました」
父の言葉に、アキトは嬉しそうにそう答えた。そういえば、魔導収納鞄がどうなったかは説明していなかったな。
「あ、そうだ、アキト。アキトの魔導収納鞄は無事に届いてるよ」
「そうなの?良かったー!護衛の人が付いてきてくれてるなら、何かあったって分かるかなーって手放したんだけど…」
ちゃんとあの行動も役に立ったんだと笑顔を浮かべたアキトに、俺は苦笑して答えた。
「それが…色々あって届けてくれたのは護衛じゃないんだけどね」
「え、そうなの?」
「ああ、たまたま見かけたっていうレイさんが届けてくれたよ」
「え、レイさんが!?」
「ああ、わざわざ届けに来てくれたんだ。帰ったら顔を見せに来て欲しいって言ってたよ」
「うん、絶対行こう!ハルも一緒に行こうね!」
「ああ、もちろんだ」
もし一人で行くと言われても、絶対についていくよ。
食事は済んでいると伝えたからか、二頭の前にはそれぞれの体格に合わせた台が置かれており、ちょうどそこにメイドが水を運んでいる所のようだ。
アキトはそれを見て、嬉しそうにふわりと笑みを浮かべた。
シュリたちにもきちんと飲み物が用意されていた事が、よっぽど嬉しかったんだな。水を運んでいたメイドは誇らし気に胸を張っているし、他の使用人たちも自然と笑みを浮かべている。
微笑ましい可愛さに癒されていると、不意にアキトが顔をあげて口を開いた。
「あの魔道具で俺とキースくんがアジトへと飛ばされた時、気絶してたのか眠ってたのか…とにかく意識が無かったんです」
アキトがそう言った瞬間、部屋の温度が数度下がった気がした。使用人たちは表情こそ笑顔のままだが、器用に殺気を放っている。
まあ、そう言いながら、俺も思いっきり盗賊団への殺意を抱いたわけだが。
人の伴侶候補と弟を罠にかけて、しかも気絶させたのか?と問い詰めたくなるな。
「目を覚ましたのはキースくんの方が早かったんですけど、まず嘘の名前で話しかけてくれたんですよ!すごくないですか?」
「えーと…嘘の名前で…?」
それにはどういう意味があるんだ?と父さんは不思議そうに繰り返した。
「そうなのか?キース」
俺も不思議に思ったから、キースに直接聞いてみる事にした。
「あーえっとね、アキトくんと僕の名前から、もしかして身元がバレちゃうかもしれないなと思って…」
まあただの思いつきだったんだけどと苦笑したキースに、父さんと使用人たちはぶんぶんと首を振った。
「それは素晴らしい機転だよ、キース」
父さんがしみじみと褒めるのを聞いてから、俺も口を開いた。
「ああ、賢い弟で何よりだ」
アキトが目覚めるまで、キースも不安だった筈だ。そんな状況で機転を利かせられたんだから、もっともっと褒められるべきだと思う。
「素晴らしいです!」
「さすがキース様だ!」
使用人たちからも口々に褒められたキースは、照れくさそうにへへーと笑みを浮かべている。うん、俺の弟は今日も可愛いな。
「ちなみにその嘘の名前っていうのは何だったんだい?」
「僕がキルトで、アキトくんがアル兄だよ。兄弟が一番一緒にいて不自然じゃないかなーと思って。名前は僕とハル兄と、アキトくんの名前を混ぜたんだ」
すこしだけ自慢げに、キースはそう続けた。
なるほど、それは良い名前だな。アキトとキースの名前だけでなく、俺の名前も混ぜてくれていたのがとても嬉しい。
「慣れてない人が任務とかで仮の名前を使う時は、できるだけ一文字目を一緒にした方が良いんだって…ジルさんが前に教えてくれたんだ」
キースもすごいが、ジルさんもすごいな。そういう事もキースに教えておいた方が良いと、思いつきすらしなかった。
アキトはそういうものなの?と言いたげに首を傾げている。なぜ一文字目を一緒にするのか、馴染みがないときちんと説明されないと分からないよな。
俺はそっと耳元に顔を寄せると囁いた。
「その方が、うっかり本名を呼びそうになってもバレないからね」
「ああ、そういう事か」
偽名の一文字目を一緒にしておけば、会話の不自然さが減るからな。逆に任務に慣れた者になると、あえて一文字目も全く違う物にするんだが。初心者にそれを求めるのは無理があるからな。
「それからは二人で情報収集したんだよね」
アキトくんも落ち着いててすごかったんだよーと、キースは笑顔で教えてくれた。
「食べ物は与えられたかい?」
「はい、パンと果実水をもらいました」
そう言ったアキトは、何故か眉間にしわを寄せている。
「…何か嫌な事があった?」
心配になってそっと顔を覗き込めば、アキトは慌てて首を振った。
「ううん、えっとね…パンを貰ったから思わず…そのお礼を言ったら…普通は礼は言わないってすっごく笑われたんだ」
「でもあれで見張りの人達の警戒心が減ったから、すごく良かったよ?」
そのおかげで僕もお礼を言うだけで顔は似てないけど似たもの兄弟って言ってもらえたしと、キースは嬉しそうだ。
あまり顔は似ていないが、それでも似ている兄弟だと思わせられたという事か。
「そのパンと果実水は、ちゃんと僕の持ってる魔道具で鑑定したよ」
「ああ、祖父から贈られてきたあの魔道具か!キースが持っていてくれて良かったよ」
「俺は魔導収納鞄も持ってなかったので、本当に助かりました」
父の言葉に、アキトは嬉しそうにそう答えた。そういえば、魔導収納鞄がどうなったかは説明していなかったな。
「あ、そうだ、アキト。アキトの魔導収納鞄は無事に届いてるよ」
「そうなの?良かったー!護衛の人が付いてきてくれてるなら、何かあったって分かるかなーって手放したんだけど…」
ちゃんとあの行動も役に立ったんだと笑顔を浮かべたアキトに、俺は苦笑して答えた。
「それが…色々あって届けてくれたのは護衛じゃないんだけどね」
「え、そうなの?」
「ああ、たまたま見かけたっていうレイさんが届けてくれたよ」
「え、レイさんが!?」
「ああ、わざわざ届けに来てくれたんだ。帰ったら顔を見せに来て欲しいって言ってたよ」
「うん、絶対行こう!ハルも一緒に行こうね!」
「ああ、もちろんだ」
もし一人で行くと言われても、絶対についていくよ。
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