生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1091.【ハル視点】収納鞄の活用法

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 ラスはまるで嵐のようにやって来て、嵐のように去っていった。来た時と違って音もたてずに部屋のドアが閉められると、部屋の中は途端にしんっと静まり返った。

 急に変わった部屋の空気に、アキトとキースは不思議そうに首を傾げている。

 不意に父さんが、ふふと声を出して楽し気に笑った。自然と部屋にいるみんなの視線が、父さんへと集まっていく。

「まさか大事な料理の仕込み中に、あのラスが飛び出してくるなんてね。ラスは本当にアキトくんとキースの事が大事なんだなぁ」

 俺も同じ事を思っていたよ。あのラスが?ってね。

 俺もだが、周りの使用人たちも控え目に笑いだした。確かにと頷いている人もいれば、びっくりしたなと笑っている人もいる。

「珍しく調理中もずっとそわそわしておりましたから…。領主様がお許しになるなら、私も別に今の行動を問題には致しませんよ」

 ボルトがそう明言すれば、数人の使用人がホッと肩の力を抜いたのが分かった。

 まあ普通に考えてドアをすごい勢いで開けて入ってきた上に、領主の言葉を遮るっていうのはどう考えても問題行動だとおもうよな。

 うちの領ではそんな事は気にしないんだが、ラスを慕っているからこそ大丈夫だろうかと心配になったんだろう。

 笑って流した父さんは、ああ、そうしてくれと笑顔で続けた。

 部屋の中の空気が、一気に和やかなものになったな。

「さて、それじゃあさっき途中だった、キースの活躍とやらを教えて貰おうか」
「はい!聞いてくれるならぜひ!」

 アキトは嬉しそうに、元気にそう答えた。

「ハル、アキトくん、キースはこっちにおいで」

 父さんはシュリとウマのいる部屋の隅の方へ向かって歩きながら、そう声をかけてきた。

「では始めましょう」

 俺達の移動を待ってから、おもむろに口を開いたのはボルトだった。

 不思議そうなアキトが見つめるなか、使用人たちはきびきびと動き出す。

「ああ、アキトとキースの話しを聞きたい者は、誰でも参加を許可するよ」

 父さんがそう言葉を付け足せば、部屋の中にいる使用人たちからもう一度歓声があがった。さすが領主様とか、これだからケイリー様は最高なんだよな、なんて声がそこここから聞こえてくる。

 ここで使用人を追い出すような事は、しないと思っていたよ。それよりも俺は戸惑っているアキトが気になった。

「アキト、安心して、今から部屋の用意をするだけだから」

 笑顔で声をかければ、アキトはゆるりと首を傾げた。部屋の用意って何?と顔に書いてあるな。言葉のままの意味なんだが、さてどう説明しようか?

「それでは、必要なものは全てここに置きますので、みなさんは手分けをして移動をお願いします。そうですね…今回は晩餐会のCパターンで並べるように」

 そう声をかけたボルトが取り出したのは、かなり無骨な見た目の鞄だ。ああ、あれか。

 ボルトはアキトの視線に気づくと、にっこりと笑みを浮かべてから巨大なテーブルを鞄の中から取り出してみせた。

「え、テーブル!?」
「ああ、あれはねうちの領で一番容量が大きい鞄なんだ」

 父さんはそう言うと、執事長のボルトかメイド長のリモが管理してるんだけどねとさらりと説明した。あの中にはそれはもう様々な大きさの各種家具や食器類が、みっちりと収められている。

 魔導収納鞄は、見た目より何より収納できる量で値段が変わる。おそらくこれも売りに出せばきっとすごい値がつくんだろう。

 うちの領では、数代前の領主がダンジョンで偶然入手してからずっとこうして便利に使われているわけだが。

 今度は山のような椅子がずらりとその場に並べられていき、使用人たちはその椅子をささっともってきびきびと動き回っている。

 最初に晩餐会のCパターンと告げられているから、細かい指示が必要無いんだよな。よくよく見れば晩餐会のパターンに詳しくない侍従とメイド以外の使用人は、邪魔にならないように壁際に避難している。

「すご…」

 思わずといった様子のアキトの声に、俺は苦笑しながら答えた。

「まあ、他の領なら、まず間違いなくこういう用途では使わないだろうな」
「便利なんだから良いだろう」

 父さんはそう言って笑った。

 まあそうだな。俺もそう思うよ。



 俺達がそうして話している間に、室内にはずらりと椅子とテーブルが並べられた。さっきまで何も無かった部屋は、今では晩餐会の会場に早変わりだ。

「お待たせしました。みな様、どうぞこちらへ」

 ボルトに呼ばれて再びぞろぞろと移動すれば、部屋の真ん中に位置する一際豪華なテーブルへと案内される。父さんは慣れた様子で一番最初に腰を下ろすと、みんなも座ってと声をかけた。

「飲み物をご用意して参りました」

 腰を下ろすなり近づいてきたワゴンを押したメイドは、何が良いかを聞きながらいそいそと飲み物を配ってくれた。

 これは何というか、たくさんお話してくださいという圧を感じるな。
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