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1086.【ハル視点】ウマの保護
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王家が、シュリを保護している…?
疑問に思ったのは俺だけじゃなかったようだ。
「えっと…ケイリーさん、それってどういう事…ですか?」
「父さま…それってどういう事?」
アキトとキースが揃って首を傾げながら尋ねれば、父さんはふふと楽し気に笑った。いつの間にかキースにもアキトの首を傾げる癖がうつっている事が、微笑ましかったんだろう。
「本来ならね、これは領主を務めている者とその妻しか知る事が出来ない、そんな話しなんだが…」
予想外の出だしに、俺は慌てて口を開いた。
「ちょっと待ってくれ、父さん!」
言われた通りに素直にそこで言葉を止めてくれた父さんは、ん?と言いたげに俺をじっと見つめている。どうして?って思ってる顔だけど、今聞き捨てならない事を言っただろう?
「もしその話しを聞いたせいで、二人に少しでも不利な事があるかもしれなら、気にはなるけどここで聞くのを止めるよ?」
「いやいや、さすがに何か問題があるなら私も話そうとはしないよ。そこはきちんと線引きするから、少しは信じてくれ」
苦笑を浮かべた父さんは、ただしこの制限には一部の例外があるんだよと続けた。
例外?
「人の言葉を話せるウマの方から声をかけられた人には、何を話しても良いっていう決まりがあるんだ」
アキトとキース、そして俺は、シュリと普通に会話をしている。だから、ここで詳しい事を知っても何の問題も無いらしい。
「ああ、なるほど。そういう事か…話しを遮ってすまなかった」
「いや、大事な人を守るためには、そういう確認も必要だからな」
むしろ俺達相手なら確認はどんどんすれば良いと、父さんは優しい笑顔でそう返した。
ここで何故俺の言葉を疑ったって怒らない所が、父の良い所だよな。母さんのためなら、俺達にも確認するからなという牽制でもあるんだろうが。
「えーとな、まず前提としてシュリのように人の言葉を喋れるウマは、かなり珍しい存在だ。だがこの世界に一頭しかいないとか、そういうレベルの希少性という訳じゃない。今は…たしかシュリを入れて六頭…だったかな?」
「うん、ろくとうだよー」
シュリのように人の言葉を喋れるウマが、六頭もいるのか。
「もちろん野生のウマの中にも喋れるウマはいるだろうし、喋る事を隠してどこかで誰かの相棒になっているウマもいたりすると思うんだが…とりあえず王家がいま保護してるのは、六頭だけなんだ」
ちなみに父さんの説明によると、人の言葉を喋れる馬は何故か珍しい魔法が使えたり、普通の馬と比べて力が強かったりするらしい。
そうか。シュリのあの気配を消す魔法も、もしかしたらそういう魔法だったのかもしれないな。アキトの魔力が無ければ、あそこにいる事にすら気づかずに通り過ぎる所だった。
「シュリくんの魔法も、すごかったもんねー!」
「へへ、ありがとう」
ニコニコ笑顔で褒めるキースに、シュリは照れくさそうにしつつも嬉しそうだ。
それにしても気になる事が一つだけある。普通のウマでもあれだけの強さがあるのに、それ以上の強さを持っている?
「普通のウマよりも強い…とは。それほど強いなら保護は必要無い…のでは?」
納得がいかずにそう尋ねれば、父さんはあっさりとまあそうだなと頷いた。
「シュリくんのような人の言葉を喋れるウマは、精霊に近い存在なんじゃないかと言われているんだよ」
俺の予想通り、強い存在だから特に保護が必要なわけではないらしいが、それでも大事にしたいからと王家が交渉して納得したウマだけを保護しているそうだ。
ちなみに保護なんて必要ないと、交渉が決裂するウマもやはりいるらしい。既に相棒を決めているウマや、自由に生きたいというウマもいるだろうからな。
その場合はそのウマの好きなように生きてもらうというのが規則らしい。ウマの意思が第一に優先されるのは、その強さが人に牙を剥かないようにか――と思うのは考えすぎだろうか。
「えっと…じゃあ母さまは、何をしてるの?」
「グレースは、不思議とウマに好かれる体質だからな。友人である王妃様に頼まれて、昔から定期的に保護施設まで足を運んでいるんだ」
なかでもシュリはかなり珍しい、人の言葉を話せるウマ同士のこどもらしい。
身を守る術の無い幼いシュリが人の言葉を話し始めた時、両親は一気に人を警戒するようになったそうだ。近づく人を端から威嚇してまわり、ウマだけで周りを固めていたらしい。
「そんな中でも、王妃様とグレース、そしてたった一人の世話役の人だけが近づけたんだ」
たくさんの人がいるだろう王宮で、たったの三人か。
「へー母さま、すごいね!」
「ああ、グレースはすごいんだよ!」
母さんを褒められて嬉しそうな父さんをちらりと見て、俺は考えた。
つまり近づく人すら制限するほど大事にしていたシュリを、どんな手段でかは分からないが盗賊団に連れ去られてしまったという事だよな。それはまず間違いなく両親が荒れただろう。今も必死になって探し回っているんじゃないだろうか。
「だから多分…シュリが攫われてしまったせいで暴れるウマを宥めるために、グレースは呼び出されているんだと思うんだ」
そのために呼び出された母さんも一緒になって、シュリを探し回っている気がするんだが。
「あー…」
「父さん、はやくシュリの両親に伝えた方が良いのでは?」
「ああ、この後、すぐに領主城に戻って魔道具で連絡するよ」
父さんはシュリも無事だったし、きっとグレースもすぐに帰ってくるなと笑みを浮かべた。
疑問に思ったのは俺だけじゃなかったようだ。
「えっと…ケイリーさん、それってどういう事…ですか?」
「父さま…それってどういう事?」
アキトとキースが揃って首を傾げながら尋ねれば、父さんはふふと楽し気に笑った。いつの間にかキースにもアキトの首を傾げる癖がうつっている事が、微笑ましかったんだろう。
「本来ならね、これは領主を務めている者とその妻しか知る事が出来ない、そんな話しなんだが…」
予想外の出だしに、俺は慌てて口を開いた。
「ちょっと待ってくれ、父さん!」
言われた通りに素直にそこで言葉を止めてくれた父さんは、ん?と言いたげに俺をじっと見つめている。どうして?って思ってる顔だけど、今聞き捨てならない事を言っただろう?
「もしその話しを聞いたせいで、二人に少しでも不利な事があるかもしれなら、気にはなるけどここで聞くのを止めるよ?」
「いやいや、さすがに何か問題があるなら私も話そうとはしないよ。そこはきちんと線引きするから、少しは信じてくれ」
苦笑を浮かべた父さんは、ただしこの制限には一部の例外があるんだよと続けた。
例外?
「人の言葉を話せるウマの方から声をかけられた人には、何を話しても良いっていう決まりがあるんだ」
アキトとキース、そして俺は、シュリと普通に会話をしている。だから、ここで詳しい事を知っても何の問題も無いらしい。
「ああ、なるほど。そういう事か…話しを遮ってすまなかった」
「いや、大事な人を守るためには、そういう確認も必要だからな」
むしろ俺達相手なら確認はどんどんすれば良いと、父さんは優しい笑顔でそう返した。
ここで何故俺の言葉を疑ったって怒らない所が、父の良い所だよな。母さんのためなら、俺達にも確認するからなという牽制でもあるんだろうが。
「えーとな、まず前提としてシュリのように人の言葉を喋れるウマは、かなり珍しい存在だ。だがこの世界に一頭しかいないとか、そういうレベルの希少性という訳じゃない。今は…たしかシュリを入れて六頭…だったかな?」
「うん、ろくとうだよー」
シュリのように人の言葉を喋れるウマが、六頭もいるのか。
「もちろん野生のウマの中にも喋れるウマはいるだろうし、喋る事を隠してどこかで誰かの相棒になっているウマもいたりすると思うんだが…とりあえず王家がいま保護してるのは、六頭だけなんだ」
ちなみに父さんの説明によると、人の言葉を喋れる馬は何故か珍しい魔法が使えたり、普通の馬と比べて力が強かったりするらしい。
そうか。シュリのあの気配を消す魔法も、もしかしたらそういう魔法だったのかもしれないな。アキトの魔力が無ければ、あそこにいる事にすら気づかずに通り過ぎる所だった。
「シュリくんの魔法も、すごかったもんねー!」
「へへ、ありがとう」
ニコニコ笑顔で褒めるキースに、シュリは照れくさそうにしつつも嬉しそうだ。
それにしても気になる事が一つだけある。普通のウマでもあれだけの強さがあるのに、それ以上の強さを持っている?
「普通のウマよりも強い…とは。それほど強いなら保護は必要無い…のでは?」
納得がいかずにそう尋ねれば、父さんはあっさりとまあそうだなと頷いた。
「シュリくんのような人の言葉を喋れるウマは、精霊に近い存在なんじゃないかと言われているんだよ」
俺の予想通り、強い存在だから特に保護が必要なわけではないらしいが、それでも大事にしたいからと王家が交渉して納得したウマだけを保護しているそうだ。
ちなみに保護なんて必要ないと、交渉が決裂するウマもやはりいるらしい。既に相棒を決めているウマや、自由に生きたいというウマもいるだろうからな。
その場合はそのウマの好きなように生きてもらうというのが規則らしい。ウマの意思が第一に優先されるのは、その強さが人に牙を剥かないようにか――と思うのは考えすぎだろうか。
「えっと…じゃあ母さまは、何をしてるの?」
「グレースは、不思議とウマに好かれる体質だからな。友人である王妃様に頼まれて、昔から定期的に保護施設まで足を運んでいるんだ」
なかでもシュリはかなり珍しい、人の言葉を話せるウマ同士のこどもらしい。
身を守る術の無い幼いシュリが人の言葉を話し始めた時、両親は一気に人を警戒するようになったそうだ。近づく人を端から威嚇してまわり、ウマだけで周りを固めていたらしい。
「そんな中でも、王妃様とグレース、そしてたった一人の世話役の人だけが近づけたんだ」
たくさんの人がいるだろう王宮で、たったの三人か。
「へー母さま、すごいね!」
「ああ、グレースはすごいんだよ!」
母さんを褒められて嬉しそうな父さんをちらりと見て、俺は考えた。
つまり近づく人すら制限するほど大事にしていたシュリを、どんな手段でかは分からないが盗賊団に連れ去られてしまったという事だよな。それはまず間違いなく両親が荒れただろう。今も必死になって探し回っているんじゃないだろうか。
「だから多分…シュリが攫われてしまったせいで暴れるウマを宥めるために、グレースは呼び出されているんだと思うんだ」
そのために呼び出された母さんも一緒になって、シュリを探し回っている気がするんだが。
「あー…」
「父さん、はやくシュリの両親に伝えた方が良いのでは?」
「ああ、この後、すぐに領主城に戻って魔道具で連絡するよ」
父さんはシュリも無事だったし、きっとグレースもすぐに帰ってくるなと笑みを浮かべた。
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