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1085.【ハル視点】父さんとシュリ
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しばらくしてからようやくアキトとキースを両腕から解放した父さんは、俺がしたのと全く同じような質問を次々にし始めた。
怪我はしてないのかい?という質問にしてないよと答えたアキトに、今度はそれは今は回復してるって意味か、それとも一度も怪我はしなかったという意味かとまで尋ねている。
あー…まあ気になる事が一緒なのは仕方ないと思うんだが、それにしてもそれだけ被っているとさすがに恥ずかしいな。
呆れているかなとこっそりと視線を向けたけれど、アキトとキースは顔を見合わせてからふふっと笑みを浮かべた。うん、少なくとも呆れられてはいないみたいだな。
「どうしたんだい?」
何故笑われたのかが分からずに不思議そうにそう尋ねた父さんに、アキトは楽しそうに答えた。
「すみません。ハルにも同じ事を聞かれたんです」
「そうなのか」
質問の内容まで一緒だったよと嬉しそうなキースに、父さんは苦笑を浮かべた。
「あー…父さん、そろそろ報告をしても良いかな?」
「ああ、取り乱してすまなかったな。報告を聞こう」
俺はこくりと頷いてから口を開いた。
「その前に…まず最初に紹介したいんだが…」
「紹介?」
「実は二人と一緒にあの盗賊のアジトから逃げてきた子がいるんだ」
「なんだって?」
「このウマなんだけどね…」
突然この子は人の言葉を話せるウマなんだなんて説明をしても、すぐに理解はして貰えないだろう。まずはシュリが人の言葉を喋る事ができるウマだとは言わずに、普通のウマとして紹介する。それから納得してもらえるまで、ゆっくりと説明をしよう。
そう決めた俺は背中に隠れるようにして立っているシュリに、そっと前へ出るように促した。
おずおずと顔を出したシュリを見た父さんは、驚いた様子で大きく目を見開いた。しかもそのままの状態で、無言でシュリを凝視している。
言葉も発さずにあまりにもまじまじと見つめる父の姿に、アキトとキースは不安そうだ。いったいどうしたっていうんだ?
「あのね、この子がいなかったら、僕たち逃げて来れなかったんだよ!」
キースは慌てた様子でシュリの事を説明しようとしていたが、それよりも前に父さんが口を開いた。
「違っていたらすまないんだが…もしかして君はシュレラーウ…シュリじゃないのか?」
「えっ…?」
何故父さんが、まだ紹介すらしていないシュリの名前を知っているんだ?シュリの方はと視線を向けてみれば、不思議そうに首を傾げている。
「…えっと…父さまは…シュリくんの事を、知ってるの?」
「ああ、実際にこうして会うのは初めてなんだが、噂は色々と聞いているからよく知ってるよ」
父さんはふわりと笑みを浮かべて、シュリに優しく声をかけた。
「グレースの友人…なんだろう?」
「は…?」
どうしてそこで母さんの名前が出てくるんだ?しかも母さんの友人?
あまりに予想外な言葉に、思わず驚きの声を洩らしてしまった。
「もし良ければ、私とも普通に話してくれると嬉しいんだが…駄目かな?」
シュリに向かってそう尋ねるという事は、つまり人間の言葉が話せる事も知っていたって事になるよな。最初は驚いた様子だったシュリも、次の瞬間には笑みを浮かべて口を開いた。
「うん!ぼくとグレース!ともだち!」
キースは不思議そうにこてりと首を傾げた。
「シュリくんは、母さまの事を知ってるの?」
「グレース、キースのかあさま?」
「うん、そうだよ」
「そっか。えっとね、まどうぐのないかべをやぶればいい!っておしえてくれたの、グレースだよ」
その答えを聞くなり、アキトとキースは大きく目を見開いて固まってしまった。
あー、何となくだが、母が言った事が理解できてしまったな。
きっと魔道具は頑丈でもその横の壁は頑丈じゃないとか、そういう類の事をシュリくんに教えたんだろう。実際に俺も母からそういう話しを聞いた事があるし、役に立った事もあるしな。
そしてそれが、脱出の時に役立ったと見た。
同じ結論に辿り着いたらしい父さんは、グレースらしいと楽し気に笑みを浮かべた。
「そうか…シュリと呼んでも?」
「いいよ」
「私の事はケイリーと呼んでくれ」
「わかった、ケイリー」
「シュリ、ひとつ聞きたいんだが、いつ頃攫われて来たのか分かるかい?」
「えっとねーたぶんだけど…にしゅうかんぐらい、まえ?」
答えを聞いた父さんは、なるほどと頷いた。
「グレースが王家に呼び出されている理由が、今分かったよ」
「グレース、おうけによばれてるの?」
「ああ、そうなんだ」
会いたかったなと少し寂しそうに呟いたシュリに、父さんはすぐに会えるさと笑顔で答えている。
「あの…父さん、母さんが呼び出されている理由って…?」
「おそらくこの子が攫われてしまったから、それを公にしないために王家に呼ばれたんだろう」
「えっと…?」
「シュリは王家が保護しているウマの子だからね」
怪我はしてないのかい?という質問にしてないよと答えたアキトに、今度はそれは今は回復してるって意味か、それとも一度も怪我はしなかったという意味かとまで尋ねている。
あー…まあ気になる事が一緒なのは仕方ないと思うんだが、それにしてもそれだけ被っているとさすがに恥ずかしいな。
呆れているかなとこっそりと視線を向けたけれど、アキトとキースは顔を見合わせてからふふっと笑みを浮かべた。うん、少なくとも呆れられてはいないみたいだな。
「どうしたんだい?」
何故笑われたのかが分からずに不思議そうにそう尋ねた父さんに、アキトは楽しそうに答えた。
「すみません。ハルにも同じ事を聞かれたんです」
「そうなのか」
質問の内容まで一緒だったよと嬉しそうなキースに、父さんは苦笑を浮かべた。
「あー…父さん、そろそろ報告をしても良いかな?」
「ああ、取り乱してすまなかったな。報告を聞こう」
俺はこくりと頷いてから口を開いた。
「その前に…まず最初に紹介したいんだが…」
「紹介?」
「実は二人と一緒にあの盗賊のアジトから逃げてきた子がいるんだ」
「なんだって?」
「このウマなんだけどね…」
突然この子は人の言葉を話せるウマなんだなんて説明をしても、すぐに理解はして貰えないだろう。まずはシュリが人の言葉を喋る事ができるウマだとは言わずに、普通のウマとして紹介する。それから納得してもらえるまで、ゆっくりと説明をしよう。
そう決めた俺は背中に隠れるようにして立っているシュリに、そっと前へ出るように促した。
おずおずと顔を出したシュリを見た父さんは、驚いた様子で大きく目を見開いた。しかもそのままの状態で、無言でシュリを凝視している。
言葉も発さずにあまりにもまじまじと見つめる父の姿に、アキトとキースは不安そうだ。いったいどうしたっていうんだ?
「あのね、この子がいなかったら、僕たち逃げて来れなかったんだよ!」
キースは慌てた様子でシュリの事を説明しようとしていたが、それよりも前に父さんが口を開いた。
「違っていたらすまないんだが…もしかして君はシュレラーウ…シュリじゃないのか?」
「えっ…?」
何故父さんが、まだ紹介すらしていないシュリの名前を知っているんだ?シュリの方はと視線を向けてみれば、不思議そうに首を傾げている。
「…えっと…父さまは…シュリくんの事を、知ってるの?」
「ああ、実際にこうして会うのは初めてなんだが、噂は色々と聞いているからよく知ってるよ」
父さんはふわりと笑みを浮かべて、シュリに優しく声をかけた。
「グレースの友人…なんだろう?」
「は…?」
どうしてそこで母さんの名前が出てくるんだ?しかも母さんの友人?
あまりに予想外な言葉に、思わず驚きの声を洩らしてしまった。
「もし良ければ、私とも普通に話してくれると嬉しいんだが…駄目かな?」
シュリに向かってそう尋ねるという事は、つまり人間の言葉が話せる事も知っていたって事になるよな。最初は驚いた様子だったシュリも、次の瞬間には笑みを浮かべて口を開いた。
「うん!ぼくとグレース!ともだち!」
キースは不思議そうにこてりと首を傾げた。
「シュリくんは、母さまの事を知ってるの?」
「グレース、キースのかあさま?」
「うん、そうだよ」
「そっか。えっとね、まどうぐのないかべをやぶればいい!っておしえてくれたの、グレースだよ」
その答えを聞くなり、アキトとキースは大きく目を見開いて固まってしまった。
あー、何となくだが、母が言った事が理解できてしまったな。
きっと魔道具は頑丈でもその横の壁は頑丈じゃないとか、そういう類の事をシュリくんに教えたんだろう。実際に俺も母からそういう話しを聞いた事があるし、役に立った事もあるしな。
そしてそれが、脱出の時に役立ったと見た。
同じ結論に辿り着いたらしい父さんは、グレースらしいと楽し気に笑みを浮かべた。
「そうか…シュリと呼んでも?」
「いいよ」
「私の事はケイリーと呼んでくれ」
「わかった、ケイリー」
「シュリ、ひとつ聞きたいんだが、いつ頃攫われて来たのか分かるかい?」
「えっとねーたぶんだけど…にしゅうかんぐらい、まえ?」
答えを聞いた父さんは、なるほどと頷いた。
「グレースが王家に呼び出されている理由が、今分かったよ」
「グレース、おうけによばれてるの?」
「ああ、そうなんだ」
会いたかったなと少し寂しそうに呟いたシュリに、父さんはすぐに会えるさと笑顔で答えている。
「あの…父さん、母さんが呼び出されている理由って…?」
「おそらくこの子が攫われてしまったから、それを公にしないために王家に呼ばれたんだろう」
「えっと…?」
「シュリは王家が保護しているウマの子だからね」
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