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1084.【ハル視点】待ち伏せ

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 ルティルーの森の入口までアキトとキース、そしてシュリと一緒に戻っていけば、そこには置いていかれたたくさんのウマ達が自由に動き回っている所だった。

 気ままにうろうろと歩き回って散策しているウマや、近くにある花の香りを楽しんでいるウマ、退屈だったのか座り込んで眠っているウマもいる。

 馬が好きなアキトは、キラキラと目を輝かせてその様子を見守っている。

「ハロルド様、何か問題が…?」

 心配そうな表情で駆け寄ってきたのは、ウマの世話を頼んでいた騎士のうちの一人だった。これだけのウマが自由にしている今の状態でも、常に気配探知をしていたんだな。

 感心しながら答えようとしたが、それよりも前に別の騎士が声をあげた。

「いや待て…キース様だ!」
「おお、ご無事で何よりです!」
「アキト様もご一緒だ!」
「ああ、ありがとう。自分たちで逃げてきてくれたんだ」
「それはすごい!さすがお二人だ!」

 見張りの騎士達は、良かった良かったと心から喜んでくれた。

「俺達は先に帰って良いと、ファーガス兄さんから許可が出たんだ」

 俺の独断で勝手に帰ろうとしているわけじゃないという事は、一応はっきりと言っておかないとな。ちなみに他の人たちはそのまま盗賊退治に向かったと告げれば、騎士達は納得顔で頷いてくれた。

 俺たちが話し込んでいる間に、どうやらシュリは近くにいるウマに挨拶に行っていたようだ。

 会話がひと段落して背後を振り返ってみれば、そこには他のウマから優しく毛づくろいをされているシュリの姿があった。

 明らかに嬉しそうな表情をしているシュリも可愛いんだが、そんな姿を見たキースとアキトが可愛い可愛いと喜んでいる姿もとても可愛いかった。

 ここから先の領都までの移動にはもちろんウマを使うんだが、誰も乗っていない荷物も積んでいないウマを連れて戻るのは非常に目立つ。

 そこでシュリには体格的に釣り合うキースに乗ってもらい、アキトは俺と一緒に大人のウマに乗ってもらう事に決めた。

「キース、シュリ、領都まで頼んだよ」

 騎士達の目が無い間にこっそりとそう声をかければ、キースもシュリも誇らし気にキリリとした顔で頷いてくれた。

 予想外だったのは、数頭のウマがシュリと一緒に帰ると言いたげな素振りを見せた事だ。

 ここにいるのは相棒と呼べる相手がいるウマか、もしくは決まった相手で無くても乗せてくれるような穏やかな気性のウマばかりだ。

 ここに来る事に納得したウマしかいない筈なのにと驚きながらも、きちんと皆を乗せて帰ってきてくれと言葉にして頼む。

 丁寧にそう要望を伝えれば、ウマ達はしぶしぶと諦めてくれた。



 街道はウマに乗って走り抜ければ、何の危険も無かった。まだ魔物が多くなる時間帯では無い事、そして冒険者たちが移動を始める時間帯であった事がうまく作用したんだろう。

 あっという間に大門が見える場所まで辿り着いた俺達は、その場ですぐにウマから下りた。ここから先は騎士や衛兵でないと騎乗したままでの移動はできないからな。

 アキトとキースは街歩き用の派手では無い服だし、俺も森で着替えた冒険者装備だからそれほど目立たずに門を通れそうだ。

 領都に入るために並んでいる待機列の後ろに並び、俺達は大門から領都の中へと入った。

 待ちかねているだろう父さんと使用人たちに、早く二人の無事を伝えたい。すぐさまウマを引いたまま領主城へ向かうつもりだったんだが、移動を開始するよりも前にこっそりと近づいてきた若い衛兵から声をかけられた。

「ハル様、お連れ様と共にこちらへ起こし頂けますか?」
「問題は無いが…できれば早く父に会いに行きたいんだが…」

 小さな声でだがしっかりと要望を伝えた俺に、若い衛兵は明らかに困り顔で答えた。

「それがその…領主様ご本人が…こちらに来られていまして…領主城に向かわれてもご不在なんです…」

 なるほど。それはこっそりと声をかけに来る筈だな。待ちかねてここまで来てしまったという事か。俺は片手で頭を押さえてから、衛兵に答えた。

「……あー…そうか。それは父が迷惑をかけてすまなかったな…」
「いえ、そんな。迷惑などとんでもないです」

 慌てた様子で衛兵はそう答えてくれたが、領主本人がいきなり尋ねてきたらまず間違いなく緊張するだろう。

 特に今は、領主相手でも物怖じしないようなベテラン衛兵は揃って探索隊に参加しているからな。若手しかいない中での領主の訪問は、確実に迷惑だ。

「案内を頼めるか?」
「はい、すぐにご案内します」

 ホッとした様子の若い衛兵の案内で、衛兵詰所の建物内にある広い部屋へと向かった。

 外と一枚のドアで繋がっているこの部屋は、遠征に出発するための準備をするための部屋だ。だから馬も一緒に入って良いと説明されて、アキトは驚いた様子だった。

 もしこの部屋以外に案内されるようなら、あの部屋にしてくれと言うつもりだったんだが。父さんはシュリの事は知らないが、もし帰ってくるなら俺のウマと一緒だからという判断だったんだろうな。

 部屋の中にはぽつんと用意された豪華な椅子と、そこに腰かけた父さんの姿があった。ドアを開けて中に入ったアキトとキースの姿に、父さんは大きく目を見開いた。

「…っ!アキトくん、キース!」

 そう叫んだ次の瞬間、父さんは椅子を蹴り倒すような勢いで立ち上がるとすぐさまこちへと駆け寄ってきた。そのままの勢いで、ガバッとアキトとキースを両腕に抱きしめる。

「ああ、二人とも無事に帰ってきてくれてありがとう!おかえり!」

 助けるためにアジトへと向かうよりも、ただ帰ってくるのを待っているだけの方がきっとつらい。珍しくも取り乱した様子の父さんに、アキトとキースは嬉しそうに笑みをこぼした。

「父さま、ただいま!」
「ただいま戻りました、ケイリーさん!」

 二人の返事を聞いて帰ってきた実感が湧いたのか、ふふと笑った父さんは嬉しそうに二人を抱きしめる両腕に力をこめた。
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