上 下
1,083 / 1,112

1082.【ハル視点】探索隊

しおりを挟む
「良かったな、ハル!」

 そう言いながら俺の背中をバシバシと叩いてくるのは俺と同じ時期に騎士団に入った騎士だ。ありがとうと返している俺の姿を、ニコニコと笑顔を浮かべて見つめている騎士たちもいる。

 使用人たちは無事だと聞いてホッとした様子で、うっすらと笑みを浮かべて頷き合っていた。

 なかでも一番派手に喜んでくれているのは、衛兵たちだった。

「自分たちで逃げてくるなんてすげぇな」
「なーやるな、二人とも」
「いやー良かった良かった」
「階段を上りきったあの根性からして、すげぇやつだもんなー」

 ぽんぽんと大きな声で笑い合っているのは、辺境領に辿り着いた時に俺達と一緒に階段を登った衛兵たちだ。なかでも師匠からは、良かったなと言いたげに優しい目で見つめられてしまった。

 衛兵隊や騎士団の中にまぎれている陰護衛組は、まだ真剣な表情でじっと俺を見つめていた。自分の目で無事を確認したいんだろうな。

 さてそろそろ殺気は無くなってきたと思うんだが、シュリは出てきてくれるだろうか。もし出て来れなかった場合はどう言い訳をするかを考えていると、背後で茂みが揺れる音が聞こえた。

 くるりと振り返れば、全力で気配を消しているアキトと、キース、そしてシュリの姿があった。

 良かった。ちゃんと出てきてくれたんだな。

「キース、アキト!無事で良かった!」

 最初に俺の視線に気づいたのはファーガス兄さんだった。

「ファーガス兄さん、迎えに来てくれてありがとー!」
「ありがとうございます」
「本当に怪我はしていないんですか?」

 人が多い場所ではあまり進んで発言をしないあのジルさんが、すごい勢いでそう尋ねた。ウィル兄と隊員の皆が驚いているなか、アキトとキースは嬉しそうに笑みを浮かべて答えた。

「はい、二人とも無傷です!」

 その場にいた探索隊から良く戻ったとか無事で良かったとか声をかけられる度に、アキトとキースは笑顔で答えを返している。

 ああ、そうだ。今のうちにこの隊について説明しておくべきかな。

「アキト、キース。この探索隊は志願方式で参加を募ったものだから、それぞれが自分の意思で来てくれているんだよ」

 命令や無理強いで参加した者はいないと、はっきりと言いきれば二人は驚いた様子で周りを見回した。

「探索隊に志願してくれてありがとうございます」
「みんな、ありがとう」

 そんな風に律儀に一人ずつにお礼を言って回る二人の姿に、その場の空気が更に和んだ。



 わいわいと盛り上がった会話がようやく落ち着いた所で、ウィル兄がじーっとシュリを見つめながら口を開いた。

「えっと…そっちの…ウマはーどうしたの?」

 ウィル兄さんは、不思議そうに首を傾げてそう尋ねた。

 まあどこから現れたんだとは思うよな。

 説明をしようとするよりも前に、その場にいる全員の視線が一気にシュリに集まった。今は殺気が無いからか特に怯えた様子は無いが、これだけの人数で見つめられるのはまずいかもしれない。

 慌てて移動しようとしたけれどそれよりも先に、さっと移動したのはキースだった。まるでシュリを視線から庇うように、両手を広げて立ち塞がった。

 ううん、やっぱり兄のような気持ち――なんだろうか。体の大きさ的に隠しきれていないのが何とも微笑ましい。

 そんな事を考えながら、俺はすっとキースの前に立った。

「あまり怖がらせないでくれよ。二人がここまで逃げて来れたのは、捕まえられてたこのウマのおかげもあるんだから」

 ここで俺が主張すべき大事な事は二つ。

 シュリが盗賊の所有していたウマでは無く攫われてきた被害者である事、そして二人を助けてくれた大事な仲間である事だ。

 俺も認めているとはっきりと示すように言いきれば、周りの視線がすこしだけ和らいだ。

「ああ、そういえばアキトくんはウマに好かれるって言ってたねー」

 むやみに視線を集めてしまった詫びのつもりか、ウィル兄はいつも通りののんきな声でそう言って笑った。

「なんと、アキト様は、ウマに好かれる人なのか」
「でも大人しそうで可愛いウマだよな」
「うわーこれはウマの世話係をやってるギュームが喜びそうな可愛さだな」

 そんな言葉がぽんぽんと飛び交っている。ああ、ギュームならきっと嬉々として世話を焼くだろうな。間違いない。

 シュリは本当に好意的に、探索隊のみんなに受け入れられた。

 キースとアキトを乗せてくれてありがとうなーと礼を言う人や、嫌じゃなければ撫でても良いかな?と近づいていく人もいるほどだ。

 まあ野生のウマが気に入った人に自分の意思でついてきたりするなんて事も、たまにはある事だからな。そう不自然でもないし、母さんを見ているからそもそも耐性があるんだろう。

 心配し過ぎた?と言いたげなアキトとキースの、ホッとした表情は可愛かった。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...