生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
1,079 / 1,179

1078.感謝の気持ち

しおりを挟む
 うーん、そう言われてみれば…グレースさんとは色んな事を話してきたけど、馬についての話しをした事はまだ一度も無かったな。

 そもそもグレースさんが馬に好かれる体質だって事すら、さっき教えて貰って知ったばっかりだからね。

 でもシュリくんと会うのをご両親から許してもらえたって事は、きっとグレースさんも馬が好きなんだと思うんだ。馬嫌いな人を大事な息子と会わせたりしないだろうから。

 王都からグレースさんが帰ってきたら、そういう話しもしてみたいな。

「それでね、馬くんのおかげでアジトからは逃げれたんだけど…」

 キースくんの話しをみんなと一緒になってうんうんと聞いていた俺は、そこである事に気づいてハッと顔をあげた。

 キースくん、さっきから俺とシュリくんの事はいっぱい話してるのに、自分の活躍は全然説明してない!

 これは駄目だと思わずガタッと音を立てて立ち上がれば、部屋中の視線を集めてしまった。特に話しをしていたキースくんは、びっくりしたのか大きな目でじっとこちらを見上げている。

 わー話しを遮っちゃってごめんね。すっごい罪悪感が湧いてくる。

「あ、えっと…」

 キースくんのすごかった話しも聞いて欲しいですって、いったいどう話しを切り出せば良いんだろう。

 ここにいるのは名前までは知らなくても、全員顔見知りの人ばかりだ。そんな状況でも、これだけたくさんの視線が集まってくると、さすがにちょっと焦ってしまう。

 あわあわと言葉を選んでいると、不意に隣から声がかかった。

「どうしたのアキト、何か話したい事でもあるの?」

 どこまでも優しいハルの問いかけに、俺はそっと肩の力を抜いた。ありがとう、ハル。俺が困ってると絶対に気づいてくれるのが、さすがハルだよね。

 ほらまずは座ってと促されて座りなおせば、キースくんが申し訳なさそうに俺を見つめていた。

「ごめんね、アキトくんも話したかったよね。僕ばっかり話してて…」
「ううん、そうじゃないんだ!キースくんが話してくれて助かってるし、話すの上手だから俺もうんうんって聞いてたんだけどね…」
「でも…?」

 不思議そうに首を傾げるハルを横目で見ながら、俺はぐっと力を込めて言い放った。

「キースくんの活躍を、しっかりと話したいなと思っただけなんだ!」
「えっ…」

 びっくり顔を浮かべたキースくんは、次の瞬間には慌てた様子でそんなの良いよと口にしたけど周りから止められている。

「俺もキースの活躍、ちゃんと聞きたいな」
「私も聞きたい」

 ハルとケイリーさんにそう言われたキースくんは、でもと言葉を濁した。

「私もぜひ知りたいです」
「アキト様、どうぞ!」
「キース様の活躍を、どうか教えてください」

 口々にそう言う使用人さんたちは、本当にキースくんの事が大好きなんだろうな。キースくんは照れくさそうだけど、すっごく嫌だーって表情じゃなさそうだ。

 あ、壁の所に立ってるボルトさんに至っては、さっとノートと魔導具のペンを取り出して構えている。しっかり書き留めるつもりみたいだ。

「キースくん…話しても良い?」

 どうしても駄目って言われたら諦めないと駄目かなと聞いてみれば、キースくんは恥ずかしそうにしながらもこくりと頷いてくれた。

 よし、許可は貰ったぞ。

「まずキースくんの知識にびっくりしたのは、捕まっていた部屋から脱出する…前でした。キースくんは鳥の声だけで、ここがウェルマール領内だって気づいて教えてくれたんです」
「鳥の声で…?」

 不思議そうに首を傾げながらそう呟いている人もいれば、ああ、あれかと言いたげに頷いている人、さすがキース様と涙ぐんでいる人もいるね。

「ディーセルプ…だね?」

 あ、やっぱりハルはあの鳥の鳴き声も知ってるんだね。

「そう、その鳥の声がするからって教えてくれたんだ」
「でも…それはただ…たまたま知ってただけで…」

 恥ずかしそうなキースくんに、俺はそれは違うよと首を振った。

「知っててもキースくんが黙ってたら、俺は知らないままだったよ」

 ん?どういう意味?と首を傾げたキースくんに、俺は笑顔で答えた。

「俺を安心させるためにそれをわざわざ教えてくれたのが、すっごく嬉しかったんだ。キースくん教えてくれてありがとう」

 しかも自分も攫われてるあんな状況で、だからね。

「そうだよ、キース。俺からも…アキトを安心させてくれてありがとう。キースが一緒で良かったよ」

 伸ばした手で優しく頭を撫でられたキースくんは、へへと笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...