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1075.報告会
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ラスさんはまるで嵐のようにやって来て、嵐のように去っていった。来た時と違って音もたてずに部屋のドアが閉められると、部屋の中は途端にしんっと静まり返った。
こんなにたくさんの人がいるとは思えないぐらい静かだ。
何だろうこの空気?と考えていると、不意にケイリーさんがふふと声を出して楽し気に笑った。自然と部屋にいるみんなの視線が、ケイリーさんへと集まっていく。
「まさか大事な料理の仕込み中に、あのラスが飛び出してくるなんてね。ラスは本当にアキトくんとキースの事が大事なんだなぁ」
どこか優しい声色で告げられた言葉に、周囲の使用人たちも遠慮がちに笑い出した。
「珍しく調理中もずっとそわそわしておりましたから…。領主様がお許しになるなら、私も別に今の行動を問題には致しませんよ」
執事長のボルトさんがはっきりとそう断言すれば、数人の使用人さんがホッと肩の力を抜いたのが分かった。
ああ、そっか。本来なら領主様の会話を使用人が遮るなんて、許される事じゃないんだろうな。ここではそういう身分差みたいなものを感じた事は無いけど、それでもやっぱり大丈夫だろうかと不安に思う人もいたんだろう。
それを察知した上で笑って流してみせたケイリーさんは、やっぱりすごい人だ。それを分かってすぐに言葉にしたボルトさんも。すごいよね。
「さて、それじゃあさっき途中だった、キースの活躍とやらを教えて貰おうか」
「はい!」
聞いてくれるならぜひと答えれば、ケイリーさんにハル、アキトくん、キースはこっちにおいでと声をかけられた。
言われるがままにシュリくんと馬さんのいる部屋の隅の方へと歩いていけば、ボルトさんがでは始めましょうと口を開いた。
え、と思う間もなく、使用人さんたちがきびきびと動き出す。
「ああ、アキトとキースの話しを聞きたい者は、誰でも参加を許可するよ」
ケイリーさんがそう言葉を付け足せば、部屋の中にいる使用人さんたちからもう一度歓声があがった。さすが領主様とか、これだからケイリー様は最高なんだよな、なんて声がそこここから聞こえてくる。
「アキト、安心して、今から部屋の用意をするだけだから」
笑顔のハルがそう教えてくれた。えっと、部屋の用意?
「それでは、必要なものは全てここに置きますので、みなさんは手分けをして移動をお願いします。そうですね…今回は晩餐会のCパターンで並べるように」
そう声をかけたボルトさんが取り出したのは、かなり無骨な見た目の鞄だった。
失礼だけど、あまり領主城の雰囲気には合ってない鞄だな。どちらかというと筋骨隆々の冒険者が持ってたり、ゲームの山賊とかが持ってそうな鞄って感じがする。
思わずじっと見つめていると、ボルトさんはにっこりと笑みを浮かべてから巨大なテーブルを鞄の中から取り出した。
そう、巨大なテーブルを。
「え、テーブル!?」
「ああ、あれはねうちの領で一番容量が大きい鞄なんだ」
ケイリーさんはそう言うと、執事長のボルトかメイド長のリモが管理してるんだけどねと教えてくれた。中にはそれはもう様々な大きさの各種家具や食器類が、みっちりと収められているらしい。
呆然と見つめている間に、今度は山のような椅子がずらりとその場に並べられていく。指示らしい指示も無いのに、使用人さんたちはその椅子をささっともってきびきびと動き回っている。
えーっと、たしか魔導収納鞄は容量が大きければ大きいほど、その値段も高くなるって聞いた事があったよな。と言う事は、あれはものすごいお値段がするものだって事だよね。
見た目が似合わないとか考えててすみませんでしたと、俺は誰にともなく心の中で謝ってしまった。
ぽんぽんと飛び出してくる家具の姿は、まるで手品みたいに見えてしまう。
「まあ、他の領なら、まず間違いなくこういう用途では使わないだろうな」
苦笑するハルに、ケイリーさんは便利なんだから良いだろうと笑っている。
なんかやっぱり好きだな、ハルの家族の考え方。
俺達がそうして話している間に、室内にはずらりと椅子とテーブルが並べられた。さっきまで何も無かった部屋が、すっかり晩餐会の会場のようになっている事に素直に驚いてしまう。
「お待たせしました。みな様、どうぞこちらへ」
ボルトさんに呼ばれてぞろぞろと移動すれば、部屋の真ん中に位置する一際豪華なテーブルへと案内された。ケイリーさんは慣れた様子で一番最初に腰を下ろすと、みんなも座ってと声をかけている。
「飲み物をご用意して参りました」
腰を下ろすなり近づいてきたワゴンを押したメイドさんは、何が良いかを聞きながらいそいそと飲み物を配ってくれた。
ケイリーさんとハルはお茶、俺とキースくんは果実水をお願いしたよ。
こんなにたくさんの人がいるとは思えないぐらい静かだ。
何だろうこの空気?と考えていると、不意にケイリーさんがふふと声を出して楽し気に笑った。自然と部屋にいるみんなの視線が、ケイリーさんへと集まっていく。
「まさか大事な料理の仕込み中に、あのラスが飛び出してくるなんてね。ラスは本当にアキトくんとキースの事が大事なんだなぁ」
どこか優しい声色で告げられた言葉に、周囲の使用人たちも遠慮がちに笑い出した。
「珍しく調理中もずっとそわそわしておりましたから…。領主様がお許しになるなら、私も別に今の行動を問題には致しませんよ」
執事長のボルトさんがはっきりとそう断言すれば、数人の使用人さんがホッと肩の力を抜いたのが分かった。
ああ、そっか。本来なら領主様の会話を使用人が遮るなんて、許される事じゃないんだろうな。ここではそういう身分差みたいなものを感じた事は無いけど、それでもやっぱり大丈夫だろうかと不安に思う人もいたんだろう。
それを察知した上で笑って流してみせたケイリーさんは、やっぱりすごい人だ。それを分かってすぐに言葉にしたボルトさんも。すごいよね。
「さて、それじゃあさっき途中だった、キースの活躍とやらを教えて貰おうか」
「はい!」
聞いてくれるならぜひと答えれば、ケイリーさんにハル、アキトくん、キースはこっちにおいでと声をかけられた。
言われるがままにシュリくんと馬さんのいる部屋の隅の方へと歩いていけば、ボルトさんがでは始めましょうと口を開いた。
え、と思う間もなく、使用人さんたちがきびきびと動き出す。
「ああ、アキトとキースの話しを聞きたい者は、誰でも参加を許可するよ」
ケイリーさんがそう言葉を付け足せば、部屋の中にいる使用人さんたちからもう一度歓声があがった。さすが領主様とか、これだからケイリー様は最高なんだよな、なんて声がそこここから聞こえてくる。
「アキト、安心して、今から部屋の用意をするだけだから」
笑顔のハルがそう教えてくれた。えっと、部屋の用意?
「それでは、必要なものは全てここに置きますので、みなさんは手分けをして移動をお願いします。そうですね…今回は晩餐会のCパターンで並べるように」
そう声をかけたボルトさんが取り出したのは、かなり無骨な見た目の鞄だった。
失礼だけど、あまり領主城の雰囲気には合ってない鞄だな。どちらかというと筋骨隆々の冒険者が持ってたり、ゲームの山賊とかが持ってそうな鞄って感じがする。
思わずじっと見つめていると、ボルトさんはにっこりと笑みを浮かべてから巨大なテーブルを鞄の中から取り出した。
そう、巨大なテーブルを。
「え、テーブル!?」
「ああ、あれはねうちの領で一番容量が大きい鞄なんだ」
ケイリーさんはそう言うと、執事長のボルトかメイド長のリモが管理してるんだけどねと教えてくれた。中にはそれはもう様々な大きさの各種家具や食器類が、みっちりと収められているらしい。
呆然と見つめている間に、今度は山のような椅子がずらりとその場に並べられていく。指示らしい指示も無いのに、使用人さんたちはその椅子をささっともってきびきびと動き回っている。
えーっと、たしか魔導収納鞄は容量が大きければ大きいほど、その値段も高くなるって聞いた事があったよな。と言う事は、あれはものすごいお値段がするものだって事だよね。
見た目が似合わないとか考えててすみませんでしたと、俺は誰にともなく心の中で謝ってしまった。
ぽんぽんと飛び出してくる家具の姿は、まるで手品みたいに見えてしまう。
「まあ、他の領なら、まず間違いなくこういう用途では使わないだろうな」
苦笑するハルに、ケイリーさんは便利なんだから良いだろうと笑っている。
なんかやっぱり好きだな、ハルの家族の考え方。
俺達がそうして話している間に、室内にはずらりと椅子とテーブルが並べられた。さっきまで何も無かった部屋が、すっかり晩餐会の会場のようになっている事に素直に驚いてしまう。
「お待たせしました。みな様、どうぞこちらへ」
ボルトさんに呼ばれてぞろぞろと移動すれば、部屋の真ん中に位置する一際豪華なテーブルへと案内された。ケイリーさんは慣れた様子で一番最初に腰を下ろすと、みんなも座ってと声をかけている。
「飲み物をご用意して参りました」
腰を下ろすなり近づいてきたワゴンを押したメイドさんは、何が良いかを聞きながらいそいそと飲み物を配ってくれた。
ケイリーさんとハルはお茶、俺とキースくんは果実水をお願いしたよ。
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