生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
1,073 / 1,179

1072.後を追って

しおりを挟む
 ケイリーさんと護衛の騎士さんたちが出て行ったのを確認した俺達は、しばらく待ってから揃って衛兵詰所を出発した。メンバーは俺とハルにキースくんとシュリくん、そして大人の馬の3人と2頭だ。

 うっかり途中で追いつかないように気をつけないといけないなーと思ってたんだけど、どうやらそんな心配はいらなかったみたいだ。

「わー領主様だー!」
「ケイリー様ぁ!」
「カッコいいー!!」
「おお、手を振って下さったぞ!」

 そんな住民たちの歓声が、俺たちが進む道の先の方からずーっと聞こえてくるんだ。その歓声のおかげで、今どのあたりにケイリーさん達がいるのかがすぐに分かるんだよね。距離も測りやすくてすっごく助かってる。

 ちなみにキースくんは父様はすごいと誇らしげに、ハルはあまりに盛大な歓声にちょっと苦笑しながらも無言で歩き続けている。

「いやー今日は領主様を見れるとか、すっげぇ良い日だな!」
「そうだなー今日は良い日だ!」

 そんな事を笑顔で言い合っている人たちの声が聞こえてきたかと思えば、運悪く会えなかった人たちの嘆きの声も聞こえてくる。

「は?領主様がここを通ったのか?」
「ああ、確かに通ったぞー!この目でばっちり見たからな!」
「はー嘘だろ?嘘だって言ってくれよ!俺たったいま来たから見れてねぇ!」
「それは残念だったな」
「今朝の合同訓練に出発するファーガス様とマチルダ様の姿は見たんだが…」
「え、俺はそっちを見れてない!良いなー!」

 大声でお互いを羨むような会話している冒険者たちの隣をそっとすり抜けて、俺たちはさらに足を動かした。どうやら領主様を一目みたいと、ケイリーさん達と一緒に人波が移動しているみたいだ。そのおかげで、この辺りはそこまで混雑してないのがすごくありがたい。

 馬さんとシュリくんもこういう状況には慣れているのか、落ち着いた様子で人の隙間を進んでくれている。

 それにしても、こうして改めて見てみると街中でも馬を連れて歩いてる人って結構多いんだな。

 ウェルマール領都の街中を騎乗したままで移動できるのは騎士や衛兵、または非常事態の時だけらしいから、今見える範囲にいる馬はみんな紐を引かれている状態だ。

 そのおかげで特に目立つ事もなく移動できているのが、すごくありがたい。

 そんな事を考えながらすれ違った馬を何気なく目で追っていると、不意にハルが心配そうに声をかけてきた。

「アキト…どうかした?」
「あ、ごめん。ただ馬を見つめてただけ」
「ああ、確かに街中にウマが入れる場所はそう多くないもんね」

 ハルからそう言われて、俺はやっと目の前の光景が珍しいものである事に気がついた。

 そういえばトライプールでもその他の街でも、馬が集まっている場所はどこも必ず壁の外だったな。トライプールだと壁の外にある馬車乗り場のところに、連れてきた馬が預けられるって聞いたけど、たしかに領都の中ではみかけた事がなかった。

「もしかして…他の街は禁止されてたの?」
「ああ、そこも説明してなかったか」

 俺の説明不足だなと反省し始めたハルに、俺は慌ててそんな事は無いよと声をかけた。

「というか…ここは馬が入っても良いんだね?」
「ああ、ウェルマール領都はウマの出入りを一切禁じてないんだ」

 他の場所から来た旅人ですら、街中に馬を連れて入る事ができるらしい。

「まあ、さすがに怒ってるウマとか、今にも暴れそうなウマは入り口で止めて落ち着かせるけどな」
「あ、僕もいちどだけ見た事があるんだけど、衛兵のおじいちゃんが飛び乗ってねーそのまま外に走りに行ってたよ」

 え、そういう落ち着かせ方なんだ。驚いて思わずハルに視線を向ければ、ハルは苦笑しながら答えた。

「ああ、走り足りなくて暴れたい気持ちのウマには、それが一番良い手だからな」

 気が済むまで走りきれば自然と自分で街に帰ろうとするからなーと、ハルはあっさりとそう言って笑みを浮かべた。

 ううん、やっぱりここの領の人ってすごいな。おおらかで大胆で、でも人として魅力的だと思う。

「あ、そろそろ森の入口だね」

 キースくんの声で視線を向ければ、確かに遠くの方に森の入口が見えた。

 ここまでついてきていた住民たちも、森に入ればそれ以上は追わないという暗黙のルールがあるらしい。それぞれが自由に去っていくのを見守ってから、俺達はゆっくりと森に足を踏み入れた。

 ひたすら森を歩いていけば、やがて木々の間から立派な領主城が見えてくる。

 お城を見た瞬間、やっとここに帰って来れたと思った自分に笑ってしまった。

 俺とキースくんが攫われてからここに帰ってくるまで、まだ二日も経ってないのにね。そう考えたらすっごいスピード解決なんだけど、何だかホッとしてしまった。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...