上 下
1,070 / 1,103

1069.ハルの報告

しおりを挟む
 しばらくしてから俺達を両腕から解放したケイリーさんは、ハルにされたのと同じような質問をし始めた。

 怪我はしてないのかい?という質問にしてないよと答えれば、今度はそれは今は回復してるって意味か、それとも一度も怪我はしなかったという意味かと尋ねられたりね。

 心配してくれてるのに申し訳ないけど、あまりにもハルと同じ質問ばっかりするから、キースくんと顔を見合わせてふふっと笑ってしまったよね。

 最初は不思議そうにしてたけど、ハルにも同じ事を聞かれたんですと教えればケイリーさんも笑ってくれたよ。

「父さん、そろそろ報告をしても良いかな?」
「ああ、取り乱してすまなかったな。報告を聞こう」
「その前に…まず最初に紹介したいんだが…」
「紹介?」

 ハルはああとすぐに頷いた。

「実は二人と一緒にあの盗賊のアジトから逃げてきた子がいるんだ」
「なんだって?」
「このウマなんだけどね…」

 まずはシュリくんが人の言葉を喋れる馬な事は言わずに、普通の馬として紹介するつもりみたいだ。

 ハルは自分の背中に隠れるようにして立っているシュリくんに、そっと前へと出るように促した。

 おずおずと顔を出したシュリくんを見たケイリーさんは、驚いた様子で大きく目を見開いた。しかもそのままの状態で、無言でじーっとシュリくんを見つめている。

 あれ、ケイリーさんは別に馬が苦手とか聞いた事が無いんだけど、なんでこんな反応なんだろう。嫌がってるとか怖がってるとかじゃなくて、素直に驚いてる?それにしてもここまで反応が無くて無言のままっていうのもちょっと不安になる。

「あのね、この子がいなかったら、僕たち逃げて来れなかったんだよ!」

 どうやらキースくんも、俺と同じように不安になったみたいだ。慌てた様子でシュリくんの事を説明しようとしたけど、それよりも前にケイリーさんが口を開いた。

「違っていたらすまないんだが…もしかして君はシュレラーウ…シュリじゃないのか?」
「えっ…?」

 なんでケイリーさんがシュリくんの名前まで知ってるんだろう?

「…えっと…父さまは…シュリくんの事を、知ってるの?」
「ああ、実際にこうして会うのは初めてなんだが、噂は色々と聞いているからよく知ってるよ」

 どういう事と言いたげに不思議そうに首を傾げたシュリくんに、ケイリーさんはふわりと笑みを浮かべた。

「グレースの友人…なんだろう?」
「は…?」

 ハルも予想外だったのか、驚きの声を洩らした。

「もし良ければ、私とも普通に話してくれると嬉しいんだが…駄目かな?」
「うん!ぼくとグレース!ともだち!」

 嬉しそうにそう答えたシュリくんに、キースくんは不思議そうにこてりと首を傾げた。

「シュリくんは、母さまの事を知ってるの?」
「グレース、キースのかあさま?」
「うん、そうだよ」
「そっか。えっとね、まどうぐのないかべをやぶればいい!っておしえてくれたの、グレースだよ」

 あまりにも衝撃の事実に、俺とキースくんは思わず固まってしまった。

 あー、でもそう言われれば確かに納得もできてしまった。魔道具じゃない壁を破れば良いとか―――うん、グレースさんなら言いそうだだと思ってしまった。

 いや、すごく助かったし、そのおかげで俺達が逃げれたんだから感謝してるんだけどね。

「そうか…シュリと呼んでも?」
「いいよ」
「私の事はケイリーと呼んでくれ」
「わかった、ケイリー」

 うんっと嬉しそうに頷いたシュリくんの様子を見て、ケイリーさんは口を開いた。

「シュリ、ひとつ聞きたいんだが、いつ頃攫われて来たのか分かるかい?」
「えっとねーたぶんだけど…にしゅうかんぐらい、まえ?」

 え、そんなに前からあそこに攫われてきてたのか?

 ケイリーさんは驚いた様子もなく、なるほどと頷いている。

「グレースが王家に呼び出されている理由が、今分かったよ」
「グレース、おうけによばれてるの?」
「ああ、そうなんだ」

 会いたかったなと少し寂しそうに呟いたシュリくんに、ケイリーさんはすぐに会えるさと笑顔で答えている。

「あの…父さん、母さんが呼び出されている理由って…?」
「おそらくこの子が攫われてしまったから、それを公にしないために王家に呼ばれたんだろう」
「えっと…?」
「シュリは王家が保護しているウマだからね」
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

平凡モブの僕だけが、ヤンキー君の初恋を知っている。

天城
BL
クラスに一人、目立つヤンキー君がいる。名前を浅川一也。校則無視したド派手な金髪に高身長、垂れ目のイケメンヤンキーだ。停学にならないせいで極道の家の子ではとか実は理事長の孫とか財閥の御曹司とか言われてる。 そんな浅川と『親友』なのは平凡な僕。 お互いそれぞれ理由があって、『恋愛とか結婚とか縁遠いところにいたい』と仲良くなったんだけど。 そんな『恋愛機能不全』の僕たちだったのに、浅川は偶然聞いたピアノの演奏で音楽室の『ピアノの君』に興味を持ったようで……? 恋愛に対して消極的な平凡モブらしく、ヤンキー君の初恋を見守るつもりでいたけれど どうにも胸が騒いで仕方ない。 ※青春っぽい学園ボーイズラブです。

処理中です...