生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1068.ケイリーさん

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 ルティルーの森の入口まで三人と一頭で一緒に戻れば、そこにはたくさんの馬達が自由に動き回っていた。

 気ままにうろうろと歩き回って散策している馬や、近くにあるお花の香りを楽しんでいる馬、退屈だったのか座り込んで眠っている馬もいた。

 馬が好きな俺は、思わず目を輝かせてしまったよね。

「ハロルド様、何か問題が…?」
「いや待て…キース様だ!」
「おお、ご無事で何よりです!」
「アキト様もご一緒だ!」

 馬の世話のために残ってくれていた数人の騎士さん達は、良かった良かったとまるで自分の事のように全力で喜んでくれた。

「ああ、ありがとう。自分たちで逃げてきてくれたんだ」
「それはすごい!さすがお二人だ!」
「俺達は先に帰って良いと、ファーガス兄さんから許可が出たんだ」

 俺たちが話し込んでいる間に、どうやらシュリくんは近くにいる馬さんたちに挨拶に行っていたみたいだ。会話がひと段落してくるりと背後を振り返ってみれば、そこには他の馬から優しく毛づくろいをされているシュリくんがいた。

 明らかに嬉しそうな表情をしてるのが、すっごく可愛いな。

 ちなみにここからはキースくんがシュリくんに乗って、俺はハルと一緒に大人の馬に乗せてもらう事になったよ。

 シュリくんの可愛さは馬にも伝わったのか、一緒に帰ると言いたげな馬がたくさんついてこようとしたのにはちょっとびっくりした。

 ハルがきちんと皆を乗せて帰ってきてくれって頼んだら、しぶしぶ諦めてくれたんだけどね。

 この世界の馬たちっやっぱりてすごく賢いんだなー。



 街道は馬に乗って走り抜ければ、何の危険も無かった。あっという間に大門が見える場所まで辿り着いた俺達は、その場で馬から下りた。

 ハルはちゃんと森の入口の所で冒険者っぽい装備に着替えてるから、それほど目立たずに門を通れそうだ。

 領都に入るために並んでいる人たちの後ろに並んで、俺達は普通に大門から領都の中へと入った。

 このまますぐに馬を引いたまま領主城へと向かうのかなと思ったんだけど、それよりも前にそーっと近づいてきた若い衛兵さんから声をかけられた。

「ハル様、お連れ様と共にこちらへ起こし頂けますか?」
「問題は無いが…できれば早く父に会いに行きたいんだが…」

 小さな声で要望を伝えたハルに、若い衛兵さんは明らかに困り顔で答えた。

「それがその…領主様ご本人が…こちらに来られていまして…領主城に向かわれてもご不在なんです…」

 ハルは困り顔で頭を押さえてから、衛兵さんに答えた。

「……あー…そうか。それは父が迷惑をかけてすまなかったな…」
「いえ、そんな。迷惑などとんでもないです」

 慌てた様子で衛兵さんはそう答えてくれたけど、領主様本人がいきなり尋ねてきたらそれはもう緊張するだろうな。

 特にこんなに若い人達しか残ってないなら、余計にそうだと思う。

「案内を頼めるか?」
「はい、すぐにご案内します」

 ホッとした様子の若い衛兵さんの案内で、衛兵詰所の建物内にある広い部屋へと向かった。

 外と一枚のドアで繋がっているこの部屋は、なんでも遠征に出発するための準備をしたりするための部屋なんだって。だから馬も一緒に入って良いと言われたのには、俺はちょっとだけ驚いた。

 ハルとキースくんは慣れた様子で頷いてたから、知ってる人には当然の事なのかな。

 そんな事を考えながらキースくんと二人で中へと足を踏み入れれば、そこにはぽつんと用意された豪華な椅子に腰かけたケイリーさんの姿があった。

「…っ!アキトくん、キース!」

 そう叫んだケイリーさんは、椅子を蹴り倒すような勢いで立ち上がるとすぐさまこちへと駆け寄ってきた。そのままの勢いで、ガバッと俺とキースくんを両腕に抱きしめた。

「ああ、二人とも無事に帰ってきてくれてありがとう!」

 いつものケイリーさんなら絶対にしないようなすこし乱暴なその抱き寄せ方が、心配してくれてた証拠みたいでなんだかすごく嬉しい。

「おかえり!」

 優しい声でかけられた言葉に、俺とキースくんは思いを込めて答えた。

「父さま、ただいま!」
「ただいま戻りました、ケイリーさん!」

 ふふと笑ったケイリーさんは、嬉しそうに俺達を抱きしめる両腕にぎゅっと力を入れた。
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