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1064.【ハル視点】シュリの可愛さ

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 いったいどうしたんだろうと見守っていると、シュリは瞬きを止めるなりしみじみと呟いた。

「…ハルは、すごいね?」
「ん?何がすごいんだ?」

 どうして突然そんな事を言われたんだ。意味が分からない。思わず問い返せば、シュリは楽しそうにはずむ声で答えた。

「うまあいてに、まじめにあたまをさげるひとは…そういないよ。それにおれいをいってくれるひともね」
「…そうなのか?大事な人を二人も助けてもらったんだ。頭を下げるぐらいは普通の事だと思うんだが」

 それにもしシュリが人の言葉を喋れないウマだったとしても、俺はきっと礼を言ってたぞとさらりと続ける。

 相変わらずのウマに好かれるアキトの体質にちょっとだけ複雑な心境にはなるかもしれないが、それでも礼を言わないという選択肢は無い。

「他の生き物でもそうするとは思うんだが…特にウマはな。人の言葉を理解してるなと思う瞬間が何度かあったからな」
「え、そうなの?」

 本当に?と尋ねてくるシュリに、俺は苦笑しながら答えた。

「ああ、視線だけで色々と訴えられたりもしたよ…とにかくアキトがウマに好かれるからな…」

 特にあのトライプール付近でよく出逢うウマには、本当に色々と訴えられた。思い出しながらそう告げれば、シュリは納得した様子でひとつ頷いた。

「へーそうなんだ。たしかにアキトは、いいまりょくだしね」
「…そうか。やっぱりアキトの魔力が関係してるのか?」
「うん、きれいなまりょく、うまはみんなすき」

 魔力を褒められちゃったと嬉しそうに笑っているアキトに、キースは誇らし気に笑いながら声をかけている。

「綺麗な魔力だって、アキトくんすごいね!」
「ありがとう」

 ああ、アキトとキースが仲良く話している姿は、いつ見ても良いものだな。

「ああ、なるほど。シュリのおかげでずっと不思議に思っていた謎がひとつ解けたよ。教えてくれてありがとう」

 アキトの魔力が特別綺麗だから、あんなにウマに好かれるんだな。つまりこれからもアキトはウマに好かれ続けるって事だろう。アキト本人はウマに好かれると嬉しそうにしているから、これはもう俺が慣れるしかなさそうだな。

 そんな事を考えながらぽつりとそう答えた俺をじっと見つめて、シュリはふふと嬉しそうに笑った。

「どうかした?」
「…ううん、ぼくハルもすきだなーとおもっただけだよ」
「それは光栄だな。シュリは…これからどうするつもりなんだ?」

 二人を助けてくれたお礼に行きたい場所があるならそこまで連れていくぞと、俺はそうシュリに声をかけた。もしそれが他国だろうと、ダンジョンの中だろうと、伝手を駆使して連れていってやる。

「うん。えっとぼくのとうさまとかあさまが、へんきょうりょうのいちばんえらいひとは、しんらいできるっていってたの」

 シュリの両親は、父さんを知っているという事か。

「そうか。それじゃあまずはうちまで一緒に帰るか?」
「うん、そうしたい。でもしゃべれるってことは、かくさないとだめなんだ」

 シュリは少し申し訳なさそうにしながらも、そう条件をつけた。嫌がられるかなと心配しているようだが、俺にとっては何の問題もない。むしろそうしてくれた方が有難いぐらいだ。

「ああ、そうしてもらった方が安全だろうな。ただ俺の家族にはシュリがひとの言葉を喋れると伝えたいんだが…それは大丈夫なのか?」
「うん。とうさまとかあさまがしんらいできるひとの、かぞくだもん」
「ありがとう」
「ううん、ぼくもありがとう」

 少し話しただけなのに、何だか俺もすっかりシュリを気に入ってしまったな。アキトとキースを助けてくれたというだけでも好感を持ったのに、さらにこの素直な性格と幼い喋り方が可愛く見えてくる。

 そんな事を考えている俺の隣では、アキトとキースが良かったねーと笑い合っている。

 ああ、でも先にこれだけは言っておくべきだろうな。

「早速で悪いんだが…ここからしばらくの間は人の言葉が喋れないふりをしてもらっても良いか?」
「うん、だいじょうぶだよ」
「もし移動中に何か伝えたい事があれば、俺かアキト、キースを鼻でつついて欲しい」
「わかった!」
「あ、そっか。騎士や衛兵の人達も一緒に探しに来てくれたって言ってたよね」

 ハッと顔をあげたアキトの言葉に、俺はこくりと頷いた。

「ああ、そうなんだ。だから人が多くてね」
「…ちょっと待って?」
「どうした?」
「ハル兄、まさか…一人で勝手に抜け出してここにきたの?」

 大きく目を見開いたキースからの質問に、俺はそっと視線を反らしながら答えた。

「アキトの魔力を感じたから、つい必死で…」
「え、じゃあ今頃、捜索隊の人たち大騒ぎなんじゃない!?」

 キースが慌てている理由に思い至ったらしいアキトも、大慌てで俺を見つめてくる。

「そうだよ、ハル兄もいなくなるなんてって大騒ぎになってるよね!?」

 そう叫んだキースは、ほら急いで戻ろうと俺の手を引いて歩き出した。ううん、頼りになる弟だな。
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