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1062.【ハル視点】安堵

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 アキトの魔力だけを頼りに、俺はひたすらまっすぐにアキトを目指して走り続けた。森の中に当たり前にある枝や茂み、地面の凹凸などの障害物が、今だけは本当に鬱陶しい。

 苛立ちを感じながらも走っていくと、ようやくアキトの魔力を感じる場所が見える所まで辿り着いた。

 アキトの魔力は、間違いなくあそこの茂みの中から感じる。でも、こうして目視ができる距離になっても、何故か目には見えない。

 もしかしたらこれも色々な魔道具を持っているらしい牙蛇盗賊団の罠なのかもしれないが、それならそれで別に問題は無い。

 ただ、俺の持てる全力で叩き潰せば良いだけだ。

 何の躊躇も無く茂みの方へと飛び込めば、聞き覚えないの無い来るよという声が聞こえた。いったい誰だと少しだけ気にはなったが、今はそれどころではない。アキトに俺の気配を伝えているなら、少なくとも敵では無いだろう。

 さっと視線を巡らせれば、魔力を練り上げているアキトの姿が飛び込んできた。

「アキトっ!!」

 ああ、無事だった…アキトだ。

 それしか考えられずに反射的にそう叫んで名を呼べば、アキトはえ…と小さな声で呟いた。攻撃をするために構えていたのだろうアキトの手が、ゆっくりと下りていく。

「は…ハル?―――え、ほんもの?」
「うん、ほんものだよ」

 あまりにもいつも通りのアキトの様子にホッとして、思わず笑みがこぼれてしまった。

 キースはどこだい?と俺が尋ねようとするよりも前に、切り株の向こうからひょこりとキースが顔を出した。
 
「…え…ハル兄…?――ハル兄、本物のハル兄だ!」

 嬉しそうに叫んだキースは、大急ぎでこちらへと駆け寄ってきた。

「ああ、キースも無事だったか!良かった!」

 アキトとキースをぎゅっと両腕で抱きしめた俺は、はぁーと深い安堵の息を吐いた。さっと見た範囲ではあるが、アキトもキースも目立った怪我もなく普段通りの様子だ。

「二人が攫われたと聞いて、生きた心地がしなかったよ…無事で良かった」

 噛み締めるようにそう呟いた俺の両腕は、情けない事にプルプルと小刻みに震えていた。

「心配かけてごめん」
「僕も…ごめんなさい」
「謝らないで。二人は悪くないよ。悪いのは…卑劣な罠を使った盗賊団だからね…」

 二人を攫った盗賊団の事は絶対に許さないけどねと考えながら、俺はぼそりとそう答えた。

「あ、つい思いっきり抱きしめてしまったけど、二人とも怪我は無いかな?」
「うんっ!」
「二人とも怪我はしてないよ」

 顔を見たいからと抱きしめるのはやめたんだが、このまま二人から離れる気にはとてもなれなかった。俺は片手をアキトと、もう片手をキースの手と繋いだままにしたんだが、二人は嬉しそうに笑って受け入れてくれた。

「それにしても、どうしてここにいるの?」
「この森の奥に、盗賊団のアジトがあるという情報があったんだ。それで捜索隊を編成して向かっている所だったんだが…アキトの魔力を感じたからここに来たんだ」

 探索隊と、牙蛇盗賊団の討伐隊も兼ねているんだが、それはまあ説明しなくても良いだろう。

 アキトとキースはそれなら納得だと言いたげに頷き合っているんだが、俺も気になっている事を聞いても良いだろうか。

「キース、たしか気配を消す魔道具と防音結界の魔道具は…持っていなかったよな?」
「あー…うん、僕は持ってないよ」
「でも俺の気配探知に二人の気配は無かったし、声すら聞こえなかった」

 それはどうしてだと首を傾げた俺に、アキトとキースは困り顔で顔を見合わせた。

 説明したくないというよりも、いったい何から説明すれば良いんだろうと困っているような表情だな。

 もしかしてそれは、さっきのきたよと叫んだ声と関係しているんだろうか。

 あの声の感じからしてキースが出てきた切り株の辺りにいるんだと思うんだが、その気配も俺には気付けないんだよな。この距離で気配に気付けないなんてそうある事じゃない。

 そんな事を考えていると、切り株の向こうから小さな声が俺に話しかけてきた。

「あの…えっと…それはまどうぐじゃなくて、ぼくのまほうだよ」
「…きみは?」

 気配は感じないが、声は聞こえる。

「ぼくはシュレラーウ。シュリってよんで」
「わかった、シュリだな。俺はハル。アキトの伴侶候補で、キースの兄だ」

 まだこちらを警戒しているのか姿こそ見せてくれていないが、アキトとキースが困っているならと自分から声をかけてくれる相手だ。自然と声は優しくなった。

「あのね、ハル。シュリくんも攫われてきたんだ」

 慌てて盗賊の仲間じゃないよと口を挟んだアキトに、俺は分かってるよと答えた。

「もしシュリが盗賊の仲間なら、アキトとキースと一緒に逃げるためにこんな魔法を使ったりしないからね」

 あの気配の消し方は、盗賊たちどころかA級の魔物にすら感知できないほどのものだからな。
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