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1060.【ハル視点】森の中へ
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歩きやすいが罠のある街道は通らずに、俺達は急ぎ足で森の中を進んでいく。これほどの集団での移動だとは思えないほど、ここまでの移動は全てうまくいっている。
周りの様子や気配を伺いながら採取地であるルティルーの森を進んでいけば、自然とたくさんの素材が目に入ってくる。
ああ、アキトが喜びそうな素材や、キースが喜びそうな素材がたくさんあるな。ここに二人がいれば、採取していこうかと声をかけるんだが。
そんな事を考えながら前へ前へと進んでいると、前を歩いていたジルさんが不意に口を開いた。
「もしここの廃墟が当たりの場所だとしたら…この辺りにはあまり詳しくないアキトさんが一人きりで捕まったのではなく、キースくんが一緒にいるのは良い事かもしれませんね」
いつもならこういう場ではあまり喋らずに控えている事が多いジルさんが、珍しくもそう呟いた事に少しだけ驚いてしまった。
「ねージル。それって…どういう意味ー?」
不思議そうに顔を覗き込みながら尋ねたウィル兄に、ジルさんはあっさりと答えた。
「この鳥の鳴き声ですよ」
「鳥…?」
「…この甲高い声か?」
不思議そうに口にしたファーガス兄さんに、耳を澄ませていたマティさんが答えた。
「ああ、これは…ディーセルプの鳴き声だな?」
そういえば、マティさんは鳥が好きなんだったか。ジルさんはマティさんの言葉に、ええそうですとすぐに頷いた。
「ディーセルプというと…ヴァコクの木の蜜を吸う鳥だな」
そう呟けば、ああそうだなとマティさんが答えてくれた。
「もし捕らわれている場所からこの鳥の鳴き声が聞こえたとしたら、キースくんならそれだけでここが辺境領だと気づきます。最近一番お気に入りの本が、辺境の生物と植物という図鑑ですから」
誇らし気にそう言ったジルさんは、それにと言葉を続けた。
「もし自力で二人が脱出できたとしても、キースくんなら確実にこのキャルの花に気づくでしょう」
そう言ってジルさんが指差したのは、淡い緑色をした小さな花だった。
「ああ、そうか、ここにはキャルの花があったな」
「この森にしか咲かない花…か」
そしてこの森から持ち出せない花――でもあるんだよな。
これも精霊の悪戯なんだろうかと言われているんだが、この森から一歩出た瞬間、魔導収納鞄に入れていても手に握りしめていても一気に枯れるというなかなかに面倒な素材だ。
「キャルの花に気づけばここがルティルーの森だとすぐに気づいてくれるでしょう。もちろんキースくんはルティルーの森の街道の罠も知っていますから、きっとうまく回避してくれます」
ここ出身でないアキトさんがまだこの辺りに詳しくないのは、仕方がない事ですからねと、ジルさんはここにはいないアキトのフォローまでさらりとしてくれた。
別にアキトを侮っているとは思わなかったんだが、配慮までしてくれるとは。本当にジルさんは優しい人だ。
「さすが俺達の弟だな」
「うんうん、さすがだよねー」
「いや、キースももちろんすごいんだが、それを告げられても一瞬で受け入れて従ってくれるだろうアキトくんもすごいと思うんだが」
マティさんはそう言ってアキトの事まで褒めてくれた。
うん、そうだな。アキトはこどものいう事なんて信じられないとは、何があっても絶対に言わないだろう。キースくんすごいと言いながら、喜んで従ってくれると思う。
「まあこれは、あくまでも二人が同じ場所に捕まえられていたらという前提があっての話し…なんだがな」
嫌そうにそう呟いたファーガス兄さんに、ウィル兄も嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「あーそっか、二人がバラバラに捕らえられてる可能性もあるのかー」
「…言っていて腹が立ってきたな」
「奇遇だなファーグ、私も腹が立ってきたよ」
ぼそりと呟いたファーガス兄さんに、マティさんも低い声で同意を返した。
「あーうん、俺も」
「私もですね」
ウィル兄はともかく、珍しくもジルさんまでが険しい目をしてそう呟いた。
うん、そうだな。俺ももちろん抑え込んでいた怒りが込み上げてきたよ。
「よし、この怒りは牙蛇盗賊団にぶつけるか」
ファーガス兄さんが迫力のある笑みでそう呟く。
「いいねー賛成ー」
ウィル兄は物騒に笑いながら同意を返す。
「そうだな、ぜひともそうしよう」
マティさんは腰につけた剣を撫でながら獰猛に笑った。
「ええ、思いっきりぶつけましょう」
ジルさんは目が笑っていない笑みで、さらりとそう答えた。
「そうだな、それが良い」
そうして二人を助け出すんだ。
決意を胸に怒りと殺意を滲ませながら、俺達は森の奥へ奥へと進んで行った。
周りの様子や気配を伺いながら採取地であるルティルーの森を進んでいけば、自然とたくさんの素材が目に入ってくる。
ああ、アキトが喜びそうな素材や、キースが喜びそうな素材がたくさんあるな。ここに二人がいれば、採取していこうかと声をかけるんだが。
そんな事を考えながら前へ前へと進んでいると、前を歩いていたジルさんが不意に口を開いた。
「もしここの廃墟が当たりの場所だとしたら…この辺りにはあまり詳しくないアキトさんが一人きりで捕まったのではなく、キースくんが一緒にいるのは良い事かもしれませんね」
いつもならこういう場ではあまり喋らずに控えている事が多いジルさんが、珍しくもそう呟いた事に少しだけ驚いてしまった。
「ねージル。それって…どういう意味ー?」
不思議そうに顔を覗き込みながら尋ねたウィル兄に、ジルさんはあっさりと答えた。
「この鳥の鳴き声ですよ」
「鳥…?」
「…この甲高い声か?」
不思議そうに口にしたファーガス兄さんに、耳を澄ませていたマティさんが答えた。
「ああ、これは…ディーセルプの鳴き声だな?」
そういえば、マティさんは鳥が好きなんだったか。ジルさんはマティさんの言葉に、ええそうですとすぐに頷いた。
「ディーセルプというと…ヴァコクの木の蜜を吸う鳥だな」
そう呟けば、ああそうだなとマティさんが答えてくれた。
「もし捕らわれている場所からこの鳥の鳴き声が聞こえたとしたら、キースくんならそれだけでここが辺境領だと気づきます。最近一番お気に入りの本が、辺境の生物と植物という図鑑ですから」
誇らし気にそう言ったジルさんは、それにと言葉を続けた。
「もし自力で二人が脱出できたとしても、キースくんなら確実にこのキャルの花に気づくでしょう」
そう言ってジルさんが指差したのは、淡い緑色をした小さな花だった。
「ああ、そうか、ここにはキャルの花があったな」
「この森にしか咲かない花…か」
そしてこの森から持ち出せない花――でもあるんだよな。
これも精霊の悪戯なんだろうかと言われているんだが、この森から一歩出た瞬間、魔導収納鞄に入れていても手に握りしめていても一気に枯れるというなかなかに面倒な素材だ。
「キャルの花に気づけばここがルティルーの森だとすぐに気づいてくれるでしょう。もちろんキースくんはルティルーの森の街道の罠も知っていますから、きっとうまく回避してくれます」
ここ出身でないアキトさんがまだこの辺りに詳しくないのは、仕方がない事ですからねと、ジルさんはここにはいないアキトのフォローまでさらりとしてくれた。
別にアキトを侮っているとは思わなかったんだが、配慮までしてくれるとは。本当にジルさんは優しい人だ。
「さすが俺達の弟だな」
「うんうん、さすがだよねー」
「いや、キースももちろんすごいんだが、それを告げられても一瞬で受け入れて従ってくれるだろうアキトくんもすごいと思うんだが」
マティさんはそう言ってアキトの事まで褒めてくれた。
うん、そうだな。アキトはこどものいう事なんて信じられないとは、何があっても絶対に言わないだろう。キースくんすごいと言いながら、喜んで従ってくれると思う。
「まあこれは、あくまでも二人が同じ場所に捕まえられていたらという前提があっての話し…なんだがな」
嫌そうにそう呟いたファーガス兄さんに、ウィル兄も嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「あーそっか、二人がバラバラに捕らえられてる可能性もあるのかー」
「…言っていて腹が立ってきたな」
「奇遇だなファーグ、私も腹が立ってきたよ」
ぼそりと呟いたファーガス兄さんに、マティさんも低い声で同意を返した。
「あーうん、俺も」
「私もですね」
ウィル兄はともかく、珍しくもジルさんまでが険しい目をしてそう呟いた。
うん、そうだな。俺ももちろん抑え込んでいた怒りが込み上げてきたよ。
「よし、この怒りは牙蛇盗賊団にぶつけるか」
ファーガス兄さんが迫力のある笑みでそう呟く。
「いいねー賛成ー」
ウィル兄は物騒に笑いながら同意を返す。
「そうだな、ぜひともそうしよう」
マティさんは腰につけた剣を撫でながら獰猛に笑った。
「ええ、思いっきりぶつけましょう」
ジルさんは目が笑っていない笑みで、さらりとそう答えた。
「そうだな、それが良い」
そうして二人を助け出すんだ。
決意を胸に怒りと殺意を滲ませながら、俺達は森の奥へ奥へと進んで行った。
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