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1058.【ハル視点】住民からの声援
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今俺が浮かべているこの曖昧な笑みには、きちんとした理由がある。
これから訓練に向かうような演技をしろと言われて、俺が最初に思ったのは『無理だ』だった。
普段の俺なら、何も考えずにすぐにその指示に従っただろう。ただ表情を取り繕えば良いだけなら、普段の俺にとってはそう難しい事でも無いからな。
だが今の精神状態では、そんな事をするだけの心の余裕が無い。
「兄さん、今の俺には、細かい演技はできないかもしれない…感情の制御が上手くいかないんだ」
ウマに乗る前にと、俺はファーガス兄さんにこっそりと近づいてそう告げたんだ。
怒られる覚悟の上での言葉だったんだが、ファーガス兄さんからはあっさりとそれは仕方ないという答えが返ってきたのには少し驚いた。
「仕方ないって…」
「俺達は弟が二人攫われているという感覚なんだが…お前は伴侶候補と弟が攫われているんだからな。感情の制御が上手くいかないのは、当たり前だろう」
むしろ俺からすれば、お前は十分冷静に対応できてる方だと思うよと、ファーガス兄さんはそう続けた。
「そうかな…。うん、ありがとう」
「とりあえずハルは盗賊への殺意を顔に出さずに、笑みを浮かべてさえいれば良いさ」
そう言われたから、俺は今も少しぎこちない笑みを浮かべたままウマを走らせている。
ウマに乗ったままゆっくりと道を進んでいくと、たくさんの住民達が集まっている場所へと辿り着いた。
集まっているといっても、俺達が進んでいる主街道の上にいるわけじゃない。俺達の邪魔にならないようにと配慮してくれたのか、脇道や路地にたくさんの住民たちが詰まっているような状態だ。
たくさんの人でごった返しているような混雑状態にも関わらず、誰一人として俺達へと文句を言う人はいなかった。むしろ俺達に向かって、口々に応援の声をかけてくれる。
「いってらっしゃーい!」
「訓練がんばれー!」
「無事の帰りを待ってるよー!」
そんな温かい応援の声に混じって、格好良いとかあんな風になりたいなどの可愛らしいこどもたちの感想も聞こえてくる。
「声援をありがとう」
大きな声でそう答えたファーガス兄さんに、脇道や路地からまるで悲鳴のような歓声があがった。
うん、ああやって注目を集めてくれるのは有難いな。これだけファーガス兄さんに注目が集まっていれば、俺の笑顔が多少ぎこちない事になんて誰も気づかないだろう。
ぶんぶんと手を振ってくれる住民達に手を振り返しながら、俺たちはゆっくりと大門前へと進んで行った。
今日の大門警備を担当していた衛兵たちは、俺達の姿を見るなり騎乗で出入りするための大きな扉を開け放ってくれた。事前に通達が入っていたにしても、驚くほどの素早い開門だった。
「お気をつけて」
そう声をかけてくれた衛兵たちに、ファーガス兄さんは片手をあげて答えるとそのまま扉を通り抜けた。
街道をまっすぐに進んでいけば、早朝から依頼に向かう冒険者や旅人たちがちらほらと見えてくる。ここにも先ぶれが走った後なのか、冒険者や旅人たちもみんな街道から少し外れた所を歩いてくれているようだ。
「協力に感謝するっ!」
「気にすんなー!」
「頑張ってこーい!」
そんな冒険者たちの明るい声を聞きながら、俺達は少しだけ速度を上げてさらに先へと進んでいく。
冒険者や旅人の姿もかなり減ってきた頃、不意にファーガス兄さんが声を張り上げた。
「ここからは一気に速度をあげるぞ!今日は訓練とはいえ、有事の際には全速力でウマを駆るのも必要な事だ!各自、力を振り絞れ!」
おおーと雄たけびのような声が返るのを、居合わせた数名の冒険者達が驚きの表情で見つめている。
ああ、なるほど。なんで急にそんな事をわざわざ声に出したのかと思ったが、ここから急に速度をあげる理由を、あの冒険者達に分かりやすく伝えたかったのか。
それこそ何も言わずに一気に速度をあげたりすれば、何か非常事態が起きたのかと疑われるかねないからな。本当に非常事態なら噂になろうが別に構わないんだが、必要が無いのに住民を不安にさせたくは無い。
さすがの気配りだなと感心しながら、ぐんぐんと速度をあげていくファーガス兄さんとマティさんに遅れないようにと俺も速度をあげていった。
これから訓練に向かうような演技をしろと言われて、俺が最初に思ったのは『無理だ』だった。
普段の俺なら、何も考えずにすぐにその指示に従っただろう。ただ表情を取り繕えば良いだけなら、普段の俺にとってはそう難しい事でも無いからな。
だが今の精神状態では、そんな事をするだけの心の余裕が無い。
「兄さん、今の俺には、細かい演技はできないかもしれない…感情の制御が上手くいかないんだ」
ウマに乗る前にと、俺はファーガス兄さんにこっそりと近づいてそう告げたんだ。
怒られる覚悟の上での言葉だったんだが、ファーガス兄さんからはあっさりとそれは仕方ないという答えが返ってきたのには少し驚いた。
「仕方ないって…」
「俺達は弟が二人攫われているという感覚なんだが…お前は伴侶候補と弟が攫われているんだからな。感情の制御が上手くいかないのは、当たり前だろう」
むしろ俺からすれば、お前は十分冷静に対応できてる方だと思うよと、ファーガス兄さんはそう続けた。
「そうかな…。うん、ありがとう」
「とりあえずハルは盗賊への殺意を顔に出さずに、笑みを浮かべてさえいれば良いさ」
そう言われたから、俺は今も少しぎこちない笑みを浮かべたままウマを走らせている。
ウマに乗ったままゆっくりと道を進んでいくと、たくさんの住民達が集まっている場所へと辿り着いた。
集まっているといっても、俺達が進んでいる主街道の上にいるわけじゃない。俺達の邪魔にならないようにと配慮してくれたのか、脇道や路地にたくさんの住民たちが詰まっているような状態だ。
たくさんの人でごった返しているような混雑状態にも関わらず、誰一人として俺達へと文句を言う人はいなかった。むしろ俺達に向かって、口々に応援の声をかけてくれる。
「いってらっしゃーい!」
「訓練がんばれー!」
「無事の帰りを待ってるよー!」
そんな温かい応援の声に混じって、格好良いとかあんな風になりたいなどの可愛らしいこどもたちの感想も聞こえてくる。
「声援をありがとう」
大きな声でそう答えたファーガス兄さんに、脇道や路地からまるで悲鳴のような歓声があがった。
うん、ああやって注目を集めてくれるのは有難いな。これだけファーガス兄さんに注目が集まっていれば、俺の笑顔が多少ぎこちない事になんて誰も気づかないだろう。
ぶんぶんと手を振ってくれる住民達に手を振り返しながら、俺たちはゆっくりと大門前へと進んで行った。
今日の大門警備を担当していた衛兵たちは、俺達の姿を見るなり騎乗で出入りするための大きな扉を開け放ってくれた。事前に通達が入っていたにしても、驚くほどの素早い開門だった。
「お気をつけて」
そう声をかけてくれた衛兵たちに、ファーガス兄さんは片手をあげて答えるとそのまま扉を通り抜けた。
街道をまっすぐに進んでいけば、早朝から依頼に向かう冒険者や旅人たちがちらほらと見えてくる。ここにも先ぶれが走った後なのか、冒険者や旅人たちもみんな街道から少し外れた所を歩いてくれているようだ。
「協力に感謝するっ!」
「気にすんなー!」
「頑張ってこーい!」
そんな冒険者たちの明るい声を聞きながら、俺達は少しだけ速度を上げてさらに先へと進んでいく。
冒険者や旅人の姿もかなり減ってきた頃、不意にファーガス兄さんが声を張り上げた。
「ここからは一気に速度をあげるぞ!今日は訓練とはいえ、有事の際には全速力でウマを駆るのも必要な事だ!各自、力を振り絞れ!」
おおーと雄たけびのような声が返るのを、居合わせた数名の冒険者達が驚きの表情で見つめている。
ああ、なるほど。なんで急にそんな事をわざわざ声に出したのかと思ったが、ここから急に速度をあげる理由を、あの冒険者達に分かりやすく伝えたかったのか。
それこそ何も言わずに一気に速度をあげたりすれば、何か非常事態が起きたのかと疑われるかねないからな。本当に非常事態なら噂になろうが別に構わないんだが、必要が無いのに住民を不安にさせたくは無い。
さすがの気配りだなと感心しながら、ぐんぐんと速度をあげていくファーガス兄さんとマティさんに遅れないようにと俺も速度をあげていった。
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