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1055.【ハル視点】使用人たち
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すっかりやる気の顔に変わった陰護衛組にそっと別れを告げて、俺は今度は使用人の集まる場所へと足を向けた。
使用人ばかりが集まる場所には、十五人程の使用人たちがずらりと並んでいた。
どうやらここだけは適当に集まっていたわけでは無く、きちんと整列していたようだ。
ゆっくりと近づいていけば、一番前に立っていた執事長のボルトがすぐに口を開いた。
「おはようございます、ハル様」
「おはようございます」
ボルトの背後に並ぶ使用人たちからも揃った声で挨拶をされた俺は、ああ、おはようとすぐに挨拶を返した。
「ハル様、私の後ろにいる者たちが、今回のお二人の探索隊への志願者となります」
「ボルトは行かないんだな?」
わざわざ後ろにいる者たちがと言うって事は、そういう事なんだろう。一応確認するべくそう尋ねれば、ボルトは一瞬だけ悔しそうな目をしてからすらすらと答えた。
「はい。職務上、私には領主城にいる必要がありますから…今回のこちらのとりまとめ役は、メイド長のリモとなります」
え、メイド長が?と驚いて視線を向ければ、確かにボルトの後ろに隠れるようにして立っているリモの姿があった。
いつも通りのメイド服のように見えるが、内側には色々な装備を仕込んでいるんだろうと思わせる立ち方だ。思わず周りの侍従やメイド達に視線を向けてしまったが、そちらもいつも通りの制服の下に、色々な装備を仕込んでいるようだ。
「我ら一同、お二人の救助のために全力を尽くします」
「ああ、ありがとう。ぜひ頼む」
そう答えながら、俺は並んでいる使用人たちにもう一度視線を向けた。
なんというか…想像していたよりも、集まっている人数はかなり少ないな。
アキトとキースを気に入っている人が一番多いのは使用人なんだから、てっきり一番多くなるのも使用人だと思っていたんだが。
すこしだけ不思議に思って眺めていると、ボルトがそっと声をかけてきた。
「ハル様。人数が思ったよりも少ない――と思われていますか?」
「あ、ああ。まあな」
「最初に志願方式でお二人の探索隊を作ると聞いた時には、ほとんど全ての使用人が手を上げた事はお伝えしておきますね」
「…そうなのか?」
「キース様の無邪気さや可愛らしさ、そして聡明さに日々癒されている使用人は多いですし――アキト様の分け隔ての無い素晴らしい対応とあの笑顔に、使用人は日々やる気を頂いておりますから」
ボルトがそう断言すれば、背後にいる使用人たちが揃ってコクコクと頷いた。
うん、使用人たちがアキトの事をすっごく気に入っている事は知ってるよ。アキトがあまりにも素晴らしいからと、何故かアキトをここに連れてきた俺の評判まで密かに上がってるって事もちゃんと知ってる。
まあアキトの素晴らしさが広まるのは嬉しいから、俺としては問題は無いんだが。
「ですが、ここに残る者も、当然ながら必要でしょう?」
もし使用人が一斉にいなくなってしまえば、領主城の色々な場所で問題が起き、業務に支障がでますからとボルトは続けた。
まあそうだろうな。大きな敷地を有する領主城を常に維持して生活を動かしていくためには、日々やるべき事が山のようにある。たくさんの使用人が雇われているのはそのためなんだから、一気に少なくなれば問題はたくさん起きるだろう。
「そう説明しても、自分だけは絶対に参加すると主張する者も多かったのですが…キース様とアキト様のお二人が帰って来られたその後の事も考えて、こちらで人選を行いました」
「志願者の中から、特に腕の立つ者を選んでおります」
ボルトの後ろに立つメイド長のリモも、そう言葉を足して教えてくれた。
「ああ、確かに並んでいるのは強い奴ばかりだな」
「恐れ入ります」
リモの言葉に呼応するように、並んでいる使用人たちは揃って頭を下げた。お世辞でも何でもなく、本当に強い奴ばかりだから口にしただけなんだがな。
ちなみに苦笑を浮かべたボルトによると、選抜はすぐに終わったが特に大変だったのは、その志願者たちに参加を諦めさせるための説得だったらしい。
「その中でも一番大変だったのは、絶対に自ら助けに行くというラスに諦めて貰う事でしたよ」
遠い目をしたボルトの言葉に、俺はそうだろうなとひとつ頷いた。
自由に志願方式で探索隊を作ると決めた時、きっとラスは参加するだろと俺ですら思っていたからな。
「お腹を空かせて帰って来られたキース様とアキト様に、適当な料理をお出しするのですかと言えば、ようやくしぶしぶ諦めてくれました」
なるほど。美味しい料理を戻ってきた二人に食べさせるために、ラスは泣く泣く参加を諦めたのか。
「お前たちの志願に、心から感謝する」
そう声をかければ、全員が揃って頭を下げた。
使用人ばかりが集まる場所には、十五人程の使用人たちがずらりと並んでいた。
どうやらここだけは適当に集まっていたわけでは無く、きちんと整列していたようだ。
ゆっくりと近づいていけば、一番前に立っていた執事長のボルトがすぐに口を開いた。
「おはようございます、ハル様」
「おはようございます」
ボルトの背後に並ぶ使用人たちからも揃った声で挨拶をされた俺は、ああ、おはようとすぐに挨拶を返した。
「ハル様、私の後ろにいる者たちが、今回のお二人の探索隊への志願者となります」
「ボルトは行かないんだな?」
わざわざ後ろにいる者たちがと言うって事は、そういう事なんだろう。一応確認するべくそう尋ねれば、ボルトは一瞬だけ悔しそうな目をしてからすらすらと答えた。
「はい。職務上、私には領主城にいる必要がありますから…今回のこちらのとりまとめ役は、メイド長のリモとなります」
え、メイド長が?と驚いて視線を向ければ、確かにボルトの後ろに隠れるようにして立っているリモの姿があった。
いつも通りのメイド服のように見えるが、内側には色々な装備を仕込んでいるんだろうと思わせる立ち方だ。思わず周りの侍従やメイド達に視線を向けてしまったが、そちらもいつも通りの制服の下に、色々な装備を仕込んでいるようだ。
「我ら一同、お二人の救助のために全力を尽くします」
「ああ、ありがとう。ぜひ頼む」
そう答えながら、俺は並んでいる使用人たちにもう一度視線を向けた。
なんというか…想像していたよりも、集まっている人数はかなり少ないな。
アキトとキースを気に入っている人が一番多いのは使用人なんだから、てっきり一番多くなるのも使用人だと思っていたんだが。
すこしだけ不思議に思って眺めていると、ボルトがそっと声をかけてきた。
「ハル様。人数が思ったよりも少ない――と思われていますか?」
「あ、ああ。まあな」
「最初に志願方式でお二人の探索隊を作ると聞いた時には、ほとんど全ての使用人が手を上げた事はお伝えしておきますね」
「…そうなのか?」
「キース様の無邪気さや可愛らしさ、そして聡明さに日々癒されている使用人は多いですし――アキト様の分け隔ての無い素晴らしい対応とあの笑顔に、使用人は日々やる気を頂いておりますから」
ボルトがそう断言すれば、背後にいる使用人たちが揃ってコクコクと頷いた。
うん、使用人たちがアキトの事をすっごく気に入っている事は知ってるよ。アキトがあまりにも素晴らしいからと、何故かアキトをここに連れてきた俺の評判まで密かに上がってるって事もちゃんと知ってる。
まあアキトの素晴らしさが広まるのは嬉しいから、俺としては問題は無いんだが。
「ですが、ここに残る者も、当然ながら必要でしょう?」
もし使用人が一斉にいなくなってしまえば、領主城の色々な場所で問題が起き、業務に支障がでますからとボルトは続けた。
まあそうだろうな。大きな敷地を有する領主城を常に維持して生活を動かしていくためには、日々やるべき事が山のようにある。たくさんの使用人が雇われているのはそのためなんだから、一気に少なくなれば問題はたくさん起きるだろう。
「そう説明しても、自分だけは絶対に参加すると主張する者も多かったのですが…キース様とアキト様のお二人が帰って来られたその後の事も考えて、こちらで人選を行いました」
「志願者の中から、特に腕の立つ者を選んでおります」
ボルトの後ろに立つメイド長のリモも、そう言葉を足して教えてくれた。
「ああ、確かに並んでいるのは強い奴ばかりだな」
「恐れ入ります」
リモの言葉に呼応するように、並んでいる使用人たちは揃って頭を下げた。お世辞でも何でもなく、本当に強い奴ばかりだから口にしただけなんだがな。
ちなみに苦笑を浮かべたボルトによると、選抜はすぐに終わったが特に大変だったのは、その志願者たちに参加を諦めさせるための説得だったらしい。
「その中でも一番大変だったのは、絶対に自ら助けに行くというラスに諦めて貰う事でしたよ」
遠い目をしたボルトの言葉に、俺はそうだろうなとひとつ頷いた。
自由に志願方式で探索隊を作ると決めた時、きっとラスは参加するだろと俺ですら思っていたからな。
「お腹を空かせて帰って来られたキース様とアキト様に、適当な料理をお出しするのですかと言えば、ようやくしぶしぶ諦めてくれました」
なるほど。美味しい料理を戻ってきた二人に食べさせるために、ラスは泣く泣く参加を諦めたのか。
「お前たちの志願に、心から感謝する」
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