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1050.【ハル視点】落ち着くための

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 無言でじっと見つめれば、父さんは苦笑しながら口を開いた。

「ハロルド、大事な伴侶候補と弟が攫われたんだ。例え一人きりでも助けに行きたいと思うその気持ちは私にも分かる」

 私にとっても大事な息子が二人攫われたようなものなんだからなとさらりとそう続けた父さんは、一転して真剣な目で俺を見つめてきた。

「だがそれでも、お前一人を行かせる事はできない。魔物が活発になる夜の時間帯にお前ひとりが突っ走ってもし怪我でも負えば…それを知ったアキトくんはいったいどう思うだろうな?」

 それを言われてしまうと、何も言えなくなるな。

「アキトくんの性格からして、怪我を負ってまで助けに来てくれるなんて嬉しいっ!ハル大好きっ!とは言わないだろう?」
「ああ、アキトはそんな事は絶対に、言わないな」

 あまりにもアキトに似合わない言葉をあげられたせいで、思わず反射的に反論してしまった。というか父さんの声で大好きとか言われると、なんだか複雑な気持ちになるな。

 おかげで少しだけ、頭が冷えたような気がする。

 そっと周りを見回せば、そうだろうなと言いたげに兄さん達も頷いていた。俺より付き合いが短いみんなでも、それだけは無いと分かるぐらいにはあり得ない言葉という事だ。

「もしジルなら、俺が一人で怪我して現れたら、どうしてこんな事をしたんだって悲しむだろうなー」

 ウィル兄さんは、不意にぽつりとそう呟いた。想像しただけでもつらかったのか、その表情は明らかに悲し気だ。

「そうだな…マティなら、思いっきり怒るだろうな…」

 その場で剣を抜くかもしれないなと続けたファーガス兄さんは、まあそういう所も可愛いんだがとさらりと惚気てみせた。

 同意はできないが、ファーガス兄さんにとってはきっとそうなんだろう。

 俺達家族はいつもの事だと、ファーガス兄さんの言葉をあっさりと流した。ふと視線を感じて目を向ければ、クレットだけが驚きの表情を浮かべて俺達を見つめていた。

 驚かせてしまってすまないが、これが俺達家族の日常だから慣れてもらうしかないな。

「グレースはそもそも捕まっても、私が助けに行く前に相手を倒して出てくるからな…実際にそんな事があったんだよ。あの時は惚れ直したな」

 父さんは懐かしそうにしながら、そう教えてくれた。母さんも攫われた事があるのか。知らなかったな。

「さて、ハルの頭もだいぶ冷めた頃だろう?これからどうするかを考えようか」
「うん、そうだねー」
「そうしよう」

 やっぱりさっきの話しは、俺を落ち着かせるためか。

「ああ、止めてくれてありがとう」

 素直に感謝の言葉を口にすれば、三人からどういたしましての言葉が返ってきた。

「出発する時刻は、明日の早朝で良いか?」
「そうだな、魔物が減る早朝に出発するのが一番安全だろう」
「ルティルーの森までは少し距離があるからねー早い方が良いと思う」
「俺も賛成だ」

 明日の出発時刻は、全員一致であっさりと決まった。

「…問題はアキトとキースの探索のための隊に、どれだけの人数を集めるか…だな…」
「牙蛇盗賊団だからな…隠し洞窟にいた分もその廃墟に集まっているとすれば、人数は多い方が良いだろう」

 それじゃあ騎士と衛兵と…と真剣な表情で相談している三人に、俺はそっと声をかけた。
 
「それなんだが…探索に参加するように命令するんじゃなく、参加したいと希望した人だけで探索隊を作るのは駄目か?」
「いや…問題は無いが…何故だ?」
「アキトはまだ冒険者だっていう意識が強いからな、命令された騎士や衛兵に助けられると申し訳ないと言いそうだなと思ったんだ」

 俺の言葉に、三人はぴたりと動きを止めた。

「あー…うん、それは言いそうだね」

 最初に我に返ったウィル兄の言葉に、父さんも想像できてしまったと続けた。

「志願方式の探索隊なら、アキトとキースを助けたいと自分の意思で来てくれた人たちという事になるだろう。それならアキトはきっと受け入れてくれると思うんだ」
「なるほど」
「それはそうかもしれないな」
「うんうん、良いかもねー」

 もっと反対されるかと思っていたんだが、思いのほか皆乗り気だな。

「よし、それじゃあ明日の探索隊は志願方式とすると、領主城と衛兵、騎士、それに陰護衛組にも通達しておこう」
「集合は朝の五時で」
「分かった」
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