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1046.【ハル視点】理解できる絶望
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「クレットは幽霊になってから、色々な場所に行ってみたんだな」
怒られながらも何とかみんなとの橋渡しを終えた俺は、クレットに向かってそう声をかけた。
「はい。生まれつき体が弱かったので、何とか騎士には成れたものの常に体力不足で…それが幽霊になったらどこまで行っても疲れ知らずなのが、とにかく嬉しかったんです」
それで思いっきりはしゃいでしまった結果、以前から噂程度で聞いていた気になる場所をかたっぱしから見に行ってみたらしい。
それで盗賊のアジトを発見したり、犯罪の証拠を集めたりしていたそうだ。
この件が片付いたらぜひ報告したいですと言ってくれたクレットの言葉は、忘れずにちゃんと報告したよ。
「さすがクレットだな」
「ああ、ありがたいな…」
褒めちぎられたクレットは、照れくさそうに目線をキョロキョロとさせている。
「そこまで来たら、今度は情報を集めるのが楽しくなってきて…」
うん、わかるよ。
俺も幽霊になってすぐの頃は、リスリーロの噂話を拾い集めながら、色んな場所へと行ってみた。幽霊なら、魔物も、壁も、国境さえも何の問題も無く超えて行ける。行こうと思えばどこまででも行けるんだなと、感動したのを覚えている。
もしあそこで幽霊になっていなかったら、もしかしたら俺はリスリーロにはまだ辿り着けていないかもしれない。いや、もしかしたらじゃないな。きっとまだ辿り着けていないだろう。
あの不気味で危険な森の奥に、そこにあるという確信もない状況では挑まない。
発見した時は感動したんだよなと懐かしく思い出した。
まあその後で、その情報を伝える術がない事に気づいて、絶望したんだけどな。
「幽霊になれば、情報を集めるのはかなり簡単になるからな。魔物も壁も、国境も関係無いから」
「ええ、そうなんです。どこまででも行けて…でも、ハル様。よく分かりましたね?」
ああ、そうか。そういえばさっきは、死にかけて幽霊が見えるようになったとしか、説明していなかったな。
不思議そうにこちらを見ているクレットに向き直って、俺は苦笑しながら答えた。
「さっき死にかけていたと言っただろう?厄介な毒をもらってずっと眠っていたんだが、その間は俺も幽霊になっていてね。色んな場所に行ってたんだよ」
「え…そうなんですか?」
大きく目を見開いたクレットに、俺はこくりと頷いた。
「本当の話しだよ」
「いえ、疑っているわけではないんですが。無事に回復されたようで、何よりです」
うーん、ここで俺の回復を素直に喜べるのが、クレットのすごい所だよな。病とはいえ、何故俺はと言われても仕方ないと思うんだが。
「ありがとう。そうして幽霊として色んな場所を回って、リスリーロを見つけたんだ」
「…っ!あのリスリーロは、ハル様が見つけたんですね!」
あの花には私も感動しましたと、クレットはひどく興奮した様子で教えてくれた。
見た目も綺麗で癒されるとか、栽培場所は新しい観光名所にしたいぐらいの景色だとか、ポーションとしての効果も素晴らしいとか、とにかく言葉を尽くして思いっきり褒められてしまった。
これはわざわざ伝えなくても良いかとも思ったが、ウィル兄からクレットは何て言ってるの?と催促されてしまえば黙っているわけにもいかない。
結果として、その場にいる全員から褒められてしまった。
「そうか、ハル様は回復されたから…ご自身で伝えられたんですね…」
不意にぽつりとそう呟いたクレットの表情は、寂し気なものだった。
「情報を見つけても誰にも伝えられないのは、つらいよな…」
「はい…誰にも伝えられないのなら、情報を集めても意味は無いと思いながらも止められずにいました」
分かるよ。俺も未練がましくリスリーロの前から動けなくなっていたもんな。
「そのおかげで、俺は助かったよ。クレットの情報のおかげだ」
「はい、はい。ありがとうございます」
涙が出ない幽霊でも、泣きそうになる時はあるんだよな。
「あとひとつだけ訂正をしておくと、俺は幸運にも、回復する前にリスリーロの事を伝えられたんだ」
「え、幽霊の状態で…ですか?」
「ああ、そうだよ」
「いったいどうやって…?」
「うん。幽霊が見える今の俺の伴侶候補であるアキトと出逢ったんだ」
俺とクレットが真剣に話しているのが分かったんだろう。今までずっと無言を貫いて橋渡しをしろと言わずにいてくれていた家族たちが、驚いた顔でバッと俺の方を見た。
怒られながらも何とかみんなとの橋渡しを終えた俺は、クレットに向かってそう声をかけた。
「はい。生まれつき体が弱かったので、何とか騎士には成れたものの常に体力不足で…それが幽霊になったらどこまで行っても疲れ知らずなのが、とにかく嬉しかったんです」
それで思いっきりはしゃいでしまった結果、以前から噂程度で聞いていた気になる場所をかたっぱしから見に行ってみたらしい。
それで盗賊のアジトを発見したり、犯罪の証拠を集めたりしていたそうだ。
この件が片付いたらぜひ報告したいですと言ってくれたクレットの言葉は、忘れずにちゃんと報告したよ。
「さすがクレットだな」
「ああ、ありがたいな…」
褒めちぎられたクレットは、照れくさそうに目線をキョロキョロとさせている。
「そこまで来たら、今度は情報を集めるのが楽しくなってきて…」
うん、わかるよ。
俺も幽霊になってすぐの頃は、リスリーロの噂話を拾い集めながら、色んな場所へと行ってみた。幽霊なら、魔物も、壁も、国境さえも何の問題も無く超えて行ける。行こうと思えばどこまででも行けるんだなと、感動したのを覚えている。
もしあそこで幽霊になっていなかったら、もしかしたら俺はリスリーロにはまだ辿り着けていないかもしれない。いや、もしかしたらじゃないな。きっとまだ辿り着けていないだろう。
あの不気味で危険な森の奥に、そこにあるという確信もない状況では挑まない。
発見した時は感動したんだよなと懐かしく思い出した。
まあその後で、その情報を伝える術がない事に気づいて、絶望したんだけどな。
「幽霊になれば、情報を集めるのはかなり簡単になるからな。魔物も壁も、国境も関係無いから」
「ええ、そうなんです。どこまででも行けて…でも、ハル様。よく分かりましたね?」
ああ、そうか。そういえばさっきは、死にかけて幽霊が見えるようになったとしか、説明していなかったな。
不思議そうにこちらを見ているクレットに向き直って、俺は苦笑しながら答えた。
「さっき死にかけていたと言っただろう?厄介な毒をもらってずっと眠っていたんだが、その間は俺も幽霊になっていてね。色んな場所に行ってたんだよ」
「え…そうなんですか?」
大きく目を見開いたクレットに、俺はこくりと頷いた。
「本当の話しだよ」
「いえ、疑っているわけではないんですが。無事に回復されたようで、何よりです」
うーん、ここで俺の回復を素直に喜べるのが、クレットのすごい所だよな。病とはいえ、何故俺はと言われても仕方ないと思うんだが。
「ありがとう。そうして幽霊として色んな場所を回って、リスリーロを見つけたんだ」
「…っ!あのリスリーロは、ハル様が見つけたんですね!」
あの花には私も感動しましたと、クレットはひどく興奮した様子で教えてくれた。
見た目も綺麗で癒されるとか、栽培場所は新しい観光名所にしたいぐらいの景色だとか、ポーションとしての効果も素晴らしいとか、とにかく言葉を尽くして思いっきり褒められてしまった。
これはわざわざ伝えなくても良いかとも思ったが、ウィル兄からクレットは何て言ってるの?と催促されてしまえば黙っているわけにもいかない。
結果として、その場にいる全員から褒められてしまった。
「そうか、ハル様は回復されたから…ご自身で伝えられたんですね…」
不意にぽつりとそう呟いたクレットの表情は、寂し気なものだった。
「情報を見つけても誰にも伝えられないのは、つらいよな…」
「はい…誰にも伝えられないのなら、情報を集めても意味は無いと思いながらも止められずにいました」
分かるよ。俺も未練がましくリスリーロの前から動けなくなっていたもんな。
「そのおかげで、俺は助かったよ。クレットの情報のおかげだ」
「はい、はい。ありがとうございます」
涙が出ない幽霊でも、泣きそうになる時はあるんだよな。
「あとひとつだけ訂正をしておくと、俺は幸運にも、回復する前にリスリーロの事を伝えられたんだ」
「え、幽霊の状態で…ですか?」
「ああ、そうだよ」
「いったいどうやって…?」
「うん。幽霊が見える今の俺の伴侶候補であるアキトと出逢ったんだ」
俺とクレットが真剣に話しているのが分かったんだろう。今までずっと無言を貫いて橋渡しをしろと言わずにいてくれていた家族たちが、驚いた顔でバッと俺の方を見た。
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