上 下
1,046 / 1,103

1045.【ハル視点】橋渡しは難しい

しおりを挟む
「私が知っている限り、領都ウェルマール周辺にある牙蛇盗賊団のものと思われるアジトは三つです」

 そう前置きをしたクレットは、片手を前に出すと一本ずつ指を折り曲げながら話し始めた。

 うーん、このクレットの動きも俺にしか見えていないわけなんだが、これもきちんと皆に伝えるべきなんだろうか。

 いや、だがよくよく見てみると、どうやらこの動き、完全に無意識の行動のようだ。それならこれはあえて指摘しない方が良いのかもしれない。指摘したら見えていないのが分かっているのにと、クレットが気にするかもしれないからな。

 そう判断した俺は、何も言わずにただ静かにクレットの話しの続きを待った。

 それにしてもこういう事まで考えていちいち判断しないといけないなんて、幽霊と人の橋渡しとは難しいものなんだな。きっとアキトも色々な事を考えて、今まで試行錯誤してきたんだろう。

 そう思えば、少しだけ気持ちが落ち着いた。

「まず一つ目は東側の街道の横を通っている川の、下流域にあります。二本目の橋の下に魔道具と植物を使った隠し洞窟があり、そこを拠点にしているようです」

 想像していた以上に詳細なその説明を聞いて、俺はすこし驚きながらも口を開いた。ここまでしっかりとした情報なら、俺の判断で勝手に言葉を変えるのは良くないだろう。

 俺はクレットの言葉を、ただそのまま繰り返す事に決めた。

「川の下流か…あの辺りではたしかに何度か盗賊の被害があったねー」
「そうか、隠し洞窟なんてものがあるのか」
「撤退が早すぎると思ってはいたが、そういう理由か」

 周辺の調査をしても、隠し洞窟は発見できていないとファーガス兄さんも苦い顔だ。

「魔道具と植物を使っているなら、やはり魔道具技師を手配すべきなんだろうか?」
「そうだね。あとは植物学者を連れていくのも良いかもしれないよー」
「いや、いっそ植物に詳しい冒険者というのはどうだ?」

 低い声でボソボソと対策の相談を始めてしまった三人の姿をじーっと見つめてから、クレットはちらりと俺に視線を向けてきた。このまま説明を続けても良いんでしょうか?と言いたげな表情だな。

「あーみんな、感想や対策の相談がしたくなる気持ちは分かるんだが…できればそれは後にして、先に全てのアジトの情報を聞いてしまわないか?」

 そう声をかければ、三人はハッと顔をあげた。

「それもそうだな」
「ああ、すまんな。つい熱くなってしまった」
「ごめんねークレット、報告続けてくれる?」
「はい、ウィリアム隊長!」

 嬉しそうにすぐにそう答えたクレットは、続いて二本目の指を折り曲げた。

「二つ目は、ムレングダンジョンから北へ抜けた場所にある廃村、かつてのフォール村です。魔物の襲撃があって放棄されたあの元フォール村の、食料保存用の地下倉庫に集団で住み着いています」

 これもそのままくり返せば、ファーガス兄さんとウィル兄さんの眉間にものすごいしわが生まれた。

「…ああ、なるほど、あそこか。行った事がある場所があげられるのは悔しいな」
「あの廃村は定期的に騎士が巡回はしてる筈なんだけど――うーん、毎回地下の倉庫までは…確認してないかもねーいったいいつから住み着いてたんだろ?」

 心底嫌そうにそう呟いたファーガス兄さんとウィル兄さんは、ハッとこちらを見ると慌てた様子でその口をぴたりと閉じてみせた。

 別に喋るなという意味で見つめていたわけじゃないから、そんなに慌てなくても良いんだが。ただ二人とも廃村になった後のフォール村に行った事があるのかと、ぼんやり考えていただけだ。

 まあ静かになったのは、続きを聞かせてもらうためには良い事か。

 ちらりと視線だけで促せば、クレットはすぐに続けますねと今度は三本目の指を折り曲げてみせた。

「三つ目のアジトはルティルーの森の奥地にある、元は他国の貴族が所有する別荘だった廃墟です」

 この言葉をそのまま伝えれば、父さんは不思議そうにクレットに尋ねた。

「あの建物はかなり老朽化しているから、危険だと聞いているんだが…?」
「建物の外観はそうなんですが…中は綺麗なものでした」

 見てきたように話すなとファーガス兄さんが尋ねれば、実際に見てきましたとクレットはさらりと答えた。

「この体ですから、ダンジョン以外はどこにでも潜り込めるんです」
「…ダンジョンは無理なのか?」

 興味を引かれて聞いてみれば、クレットはあっさりと答えてくれた。

「はい、折角ならダンジョンの未踏区域に行ってみようとしましたが、そもそもダンジョンには入る事もできませんでした」

 へぇ、そうなのか。俺は幽霊の時もダンジョンには挑戦しなかったから知らなかったな。

「だからーちゃんと橋渡ししてってば!」
「あ、すまない」

 俺はまだまだアキトみたいに上手に橋渡しは、できないようだ。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...