上 下
1,042 / 1,112

1041.【ハル視点】調査の報告を

しおりを挟む
 俺の発言があまりにも予想外だったのか、部屋の中はしんっと急に静まり返ってしまった。

 父さんもファーガス兄さんもウィル兄も、そして幽霊であるクレットも、全員揃って大きく目を見開いて固まってしまっている。

 まあたしかに、我ながらあまりにも唐突過ぎる発言だったとは思うんだけどな。

 だが律儀なクレットが盗み聞きはできないとこの部屋から出てしまう前に、俺が幽霊が見えて聞こえるという事実を何とか伝える必要があった。だから今の発言の唐突さは仕方がないだろう。

「…ハル、一応確認したいんだが…それは…本当なんだよな?」

 一番最初に我に返ったのは、俺の予想通りやはり父さんだった。アキトだけじゃなくお前もそうなのかと言いたげな視線に、俺はあっさりと頷きを返した。

「もちろん本当だよ。実際にトライプールでは幽霊の友人もいるからね」
「幽霊の友人…か…」
「ああ、元商人の人なんだけどね。色々あって友人になったんだ」

 以前の俺なら、きっとここでカルツさんの事は友人ではなくただの知り合いだと言っていただろうな。ここで堂々と友人と言い切れたのは、アキトのおかげだと思う。

「ハルが俺達相手に無意味な嘘を吐くとは思っていないから、幽霊が見えるし聞こえるようになったという事については信じるが…」

 ファーガス兄さんは、歯切れ悪くボソボソとそう呟いた。

「うん、俺もハルの事は信じてるよ。でも今一番の問題は、なぜ急にそんな事を言い出したかーだよね」

 ウィル兄が続けた言葉に、俺はニコリと笑って答えた。

「話しを聞きたい相手がいたから、ついね。いきなり俺が虚空を見つめて話しだしたりしたら、みんな驚くだろう?」
「ああ、なるほど」
「そういう事か」
「たしかにーアキトとキースの心配をしすぎて、おかしくなったと思うかもねー」

 飲み込みの早い家族で助かるなと考えていると、ドアの近くに佇んでいたクレットが不意に震える声で尋ねてきた。

「えっと…今のって…もし…それが本当なら…もしかして…?」

 自分の声が届くのかもしれないと期待しつつも、それがもしただの誤解だったらと不安になっているようだ。

 その気持ちは、俺にもすごくよく分かる。何とかリスリーロの事を伝えたくて、みんなの周りをウロウロしていた、あの頃の俺の気持ちときっと同じだからな。

「ああ、俺には君の姿も見えるし、声も聞こえているんだ、クレット」
「…嘘…でしょう?」
「もしこれが嘘だったら、クレットの名前をここで出せないだろう?」

 まっすぐに見つめて答えれば、クレットはしばらく考えてからこくりと頷いてくれた。

「…そう…ですね。俺以外にも亡くなっている人はいるでしょうに、俺の目の前で俺の名前を出してくれたんですから」

 クレットはそう言うと、切なそうにくしゃりと顔を歪めて笑ってから、会話が成り立つことを噛み締めるようにそっと上を見上げた。

 俺がドアの方へと視線を向けて話す間、家族は無言を貫いてただ見守ってくれていた。ここで口を挟まずに待ってくれる理解のある家族に、感謝しないといけないな。

「クレット、もし誰かに何か伝えたい事があるなら、必ず俺から伝える。やりたい事があるなら俺に出来る範囲で叶えるように努力をすると約束しよう」

 そう声をかけると、クレットはハッと驚いた様子でこちらを見た。

「だが、可能ならそれより前に、君の報告を聞かせて欲しい。わざわざここに来てくれたという事は、何か知っている情報があるんだろう?」

 俺の質問に、クレットは真剣な目でコクリと頷いてくれた。

「はい、伝わらないと分かっていても、ここまで来てしまった俺の知る情報を…聞いて欲しいです」
「ああ、アキトとキースを無事に助けるためにも、ぜひ教えて欲しい」
「…はい、報告いたします」

 噛み締めるようにそう口にしたクレットは、さっと表情を改めるとビシッと敬礼をしてから口を開いた。

「お二人が攫われた際、珍しい魔導具が使用されたと聞きました」
「ああ、まるで罠のように見る人によって姿が変わる物だと聞いた」
「はい。あの魔道具は何故かこの国のダンジョンでは滅多に見つからないのは、ご存じですか」
「いや、知らなかったな」

 そうなのかと呟けば、黙っていたウィル兄が口を開いた。

「ハル、クレットさえ良ければ、俺達にも何を話してるか教えて欲しいんだけど、駄目かなー?」
「クレット?」
「問題ありません!ウィリアム隊長!」

 ああ、そうか。クレットは一時、ウィリアムの隊の一員だった事があったな。

「うん、クレットは即答で許可してくれたよ。あの魔道具はこの国では珍しいものだと言っている」
「ああ、確かにそう手に入るものじゃないよねー」

 ウィル兄はこくこくと何度も頷いている。クレットはウィル兄が頷いてくれたのを見て、嬉しそうにしながらも続けた。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...