生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1039.信頼を

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 ハルの行動に何度も瞬きを繰り返していたシュリくんは、しみじみと呟いた。

「…ハルは、すごいね?」
「ん?何がすごいんだ?」

 どうして突然そんな事を言われたのか意味が分からないとでも言いたげなハルに、シュリくんは楽しそうにはずむ声で答えた。

「うまあいてに、まじめにあたまをさげるひとは…そういないよ。それにおれいをいってくれるひともね」
「…そうなのか?大事な人を二人も助けてもらったんだ。頭を下げるぐらいは普通の事だと思うんだが」

 それにもしシュリが人の言葉を喋れないウマだったとしても、俺はきっとお礼を言ってたぞとハルはさらりと続けた。

 うん。ハルならきっとそうすると思うな。

「他の生き物でもそうするとは思うんだが…特にウマはな。人の言葉を理解してるなと思う瞬間が何度かあったからな」
「え、そうなの?」

 本当に?と尋ねたシュリくんに、ハルは苦笑しながら答えた。

「ああ、視線だけで色々と訴えられたりもしたよ…とにかくアキトがウマに好かれるからな…」

 いやいや、それはただ単に俺の馬好きが相手に伝わってるから、警戒されてないだけだと思うよ。でもまあ、ちょっとでも馬に好かれてるなら、正直に言うと嬉しいんだけどさ。

「へーそうなんだ。たしかにアキトは、いいまりょくだしね」

 シュリくんはハルの言葉を当たり前の事のように受け入れて、俺の魔力をさらりと褒めてくれた。盗賊団のアジトから脱出する前にも、いいまりょくって言ってくれてたな。

「…そうか。やっぱりアキトの魔力が関係してるのか?」
「うん、きれいなまりょく、うまはみんなすき」

 えーシュリくんにそう言ってもらえると、嬉しいな。

「綺麗な魔力だって、アキトくんすごいね!」

 ニコニコ笑顔で誇らし気にそう言ってくれるキースくんのおかげで、嬉しさも倍増だよ。

「ああ、なるほど。シュリのおかげでずっと不思議に思っていた謎がひとつ解けたよ。教えてくれてありがとう」

 真剣な表情でぽつりとそう答えたハルをじっと見つめて、シュリくんはふふと嬉しそうに笑った。

「どうかした?」
「…ううん、ぼくハルもすきだなーとおもっただけだよ」

 あ、どうやらシュリくんはハルの事も信頼してくれたらしい。

「それは光栄だな。シュリは…これからどうするつもりなんだ?」

 二人を助けてくれたお礼に行きたい場所があるならそこまで連れていくぞと、ハルはそうシュリくんに声をかけた。

「うん。えっとぼくのとうさまとかあさまが、へんきょうりょうのいちばんえらいひとは、しんらいできるっていってたの」
「そうか。それじゃあまずはうちまで一緒に帰るか?」
「うん、そうしたい。でもしゃべれるってことは、かくさないとだめなんだ」

 申し訳なさそうに条件をつけたシュリくんに、ハルはあっさりと頷いた。

「ああ、そうしてもらった方が安全だろうな。ただ俺の家族にはシュリがひとの言葉を喋れると伝えたいんだが…それは大丈夫なのか?」
「うん。とうさまとかあさまがしんらいできるひとの、かぞくだもん」
「ありがとう」
「ううん、ぼくもありがとう」

 話しがまとまったみたいで良かった。ハルも一緒にシュリくんの秘密を守ってくれるなら、こんなに安心な事は無いよね。

 キースくんと二人で良かったねーと笑い合っていると、ハルが申し訳なさそうにシュリくんに声をかけた。
 
「早速で悪いんだが…ここからしばらくの間は人の言葉が喋れないふりをしてもらっても良いか?」
「うん、だいじょうぶだよ」
「もし移動中に何か伝えたい事があれば、俺かアキト、キースを鼻でつついて欲しい」
「わかった!」
「あ、そっか。騎士や衛兵の人達も一緒に探しに来てくれたって言ってたよね」
「ああ、そうなんだ。だから人が多くてね」
「…ちょっと待って?」
「どうした?」
「ハル兄、まさか…一人で勝手に抜け出してここにきたの?」

 びっくり顔のキースくんの言葉に、ハルはそっと視線を反らして答えた。

「アキトの魔力を感じたから、つい必死で…」
「じゃあ今頃、捜索隊の人たち大騒ぎなんじゃない!?」
「そうだよ、ハル兄もいなくなるなんてって大騒ぎになってるよね!?」

 急いで戻ろうとハルを促して、俺達は揃って気配を消す魔法の効果範囲から飛び出す事になった。
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