上 下
1,038 / 1,103

1037.衝撃

しおりを挟む
「くるよっ!」

 シュリくんの呼びかけと自分の気配探知だけを頼りに攻撃を放とうとしたけど、それよりも前に動きを止めてしまうほどの大きな声が辺りに響いた。

「アキトっ!!」
「え…」

 突然名前を呼ばれた俺は、驚きに目を大きく見開いてそのまま固まってしまった。攻撃をするために構えていた手も、気づけば下ろしてしまっている。それぐらい、衝撃的だった。

「は…ハル?」

 なんでこんなところにハルが?とか、あの殺気しか感じなかった気配ってもしかしてハルだったの?とか、色々と言いたい事はあるんだけど、そのどれもが言葉にはならなかった。

 口から飛び出したのは、え、ほんもの?という呟きだけだった。

 俺いつの間にか寝てて、夢でも見てるのかな?それともA級の魔物に、幻を見る魔法をかけられてるとか?

「ほんものだよ」

 あ、そのくしゃりって笑い方、ハルがよくするやつだ。

 そんな事を考えていると、切り株の向こうからひょこりとキースくんが顔を出した。
 
「…え…ハル兄…?」

 どうやらキースくんにも、ちゃんとハルの姿が見えてるみたいだ。うん、ってことは、これは俺の夢とか幻を見せられてるってわけじゃないよね。

「ハル兄、本物のハル兄だ!」

 キースくんは、大急ぎでこちらへと駆け寄ってきた。

「ああ、キースも無事だったか!良かった!」

 俺とキースくんをぎゅっと両腕で抱きしめたハルは、はぁーと深い安堵の息を吐いた。

「二人が攫われたと聞いて、生きた心地がしなかったよ…無事で良かった」

 噛み締めるようにそう呟いたハルの両腕は、プルプルと小刻みに震えている。

「心配かけてごめん」
「僕も…ごめんなさい」
「謝らないで。二人は悪くないよ。悪いのは…卑劣な罠を使った盗賊団だからね…」

 俺から見ても怖いと思うぐらい凄みのある表情で、ハルはぼそりとそう答えた。

「あ、つい思いっきり抱きしめてしまったけど、二人とも怪我は無いかな?」
「うんっ!」
「二人とも怪我はしてないよ」

 抱きしめるのをやめた後も、ハルの両手は俺とキースくんの手と繋がれたままだ。もうどこにも行かせないと言いたげなその動きが、くすぐったいけど嬉しい。

「それにしても、どうしてここにいるの?」
「この森の奥に、盗賊団のアジトがあるという情報があったんだ。それで捜索隊を編成して向かっている所だったんだが…アキトの魔力を感じたからここに来たんだ」

 ああ、そうか。ハルは俺の魔力が見えるし感じられるんだったな。それなら納得だとキースくんと頷き合っていると、ハルは不思議そうに首を傾げながら尋ねてきた。

「キース、たしか気配を消す魔道具と防音結界の魔道具は…持っていなかったよな?」
「あー…うん、僕は持ってないよ」
「でも俺の気配探知に二人の気配は無かったし、声すら聞こえなかった」

 どうしてだと首を傾げているハルに答えたいんだけど、いったい何から説明すれば良いんだろうと考え込んでしまった。

 えっと、まずシュリくんと一緒にここまで逃げてきた事を説明して、それからシュリくんの魔法のおかげだよーって言う?でもそれだとシュリくんが人の言葉を喋れる事も説明しないと駄目だよね。

 ただの馬だって事にしちゃうと、なんで名前を知ってるの?とかどうやって意思の疎通をしたの?って話しになっちゃうもんね。鋭いハルなら絶対にそこに気づくと思うんだ。

 でもシュリくんは人の言葉が喋れる馬なんだよーって勝手にバラしちゃうのは良く無いと思う。かといって、ハルの目の前でシュリくんに話して良い?って聞くのも駄目だし…。

 ぐるぐると考え込んでいると、切り株の向こうからシュリくんが小さな声でハルに話しかけた。

「あの…えっと…それはまどうぐじゃなくて、ぼくのまほうだよ」
「…きみは?」

 驚いた様子がかけらも無かったから、どうやら切り株の向こうに誰かがいる事にはだいぶ前から気づいていたみたいだ。気配を消す魔法は、距離が近いと効かないのかな。

「ぼくはシュレラーウ。シュリってよんで」
「わかった、シュリだな。俺はハル。アキトの伴侶候補で、キースの兄だ」

 姿を見せないシュリくんに、ハルは丁寧にそう声をかけた。

「あのね、ハル。シュリくんも攫われてきたんだ」

 慌てて盗賊の仲間じゃないよと口を挟めば、ハルは分かってるよとあっさりと答えてくれた。もしそうならこんな魔法を使ったりしないからねと言われて、怒ってても冷静なハルって格好良いなんて思ってしまった。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...