生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
1,037 / 1,179

1036.不意打ち防止

しおりを挟む
 気配探知が得意なシュリくんによると、その怖い気配はまっすぐにこちらの方向へと近づいて来ているらしい。

 ただシュリくんは気配を消す魔法と防音魔法は既に使ってくれているらしいから、もしかしたらただ俺達の近くを通り過ぎるだけかもしれないとも言われた。

 そうか、その可能性もあるのか。

 このまま進んだ先がウェルマールの領都とかだったら、そのまま通すのは駄目だと思ったかもしれないけど、この先にあるのはあの盗賊団のアジトだ。

 さすがに俺達を攫ってきたあの盗賊団のために、俺が命がけで戦おうとは思わない。

「うぅ…さっきがすごい…」

 まだ俺では感知できないぐらいの距離みたいだけど、シュリくんは殺気に怯えてプルプルと小刻みに震えている。そんなシュリくんの頭を優しく撫でているキースくんを眺めながら、俺はひたすら気配探知を続けた。

「あ…」

 しばらく待つと、ようやく俺にも分かるぐらいの距離まで近づいて来たみたいだ。

「アキトもわかった?」
「分かったよ」

 うん、これはシュリくんがこわいと言いたくなる気持ちも分かる。

「これは確かに…」
「ね…こわいでしょう?」
「うん、これはこわいね」

 同意しながらも気配を探り続けてみれば、恐ろしい事実に気づいてしまった。

「これ…一頭じゃないね?」
「えっ…」

 キースくんは、大きく目を見開いてじっと俺を見つめてくる。その隣で震えていたシュリくんは、え、そうなの?と尋ねてきた。

 詳しく聞いてみると、殺気が怖すぎてわざと細かい所まで感知しようとしてなかったらしい。申し訳なさそうにごめんなさいと言われてしまったけど、むしろそんなに怖かったのに気配探知をやめなかったんだからすごいよね。

「ううん、探知してくれてありがとう」

 どうやらキースくんも俺と同じ意見みたいだ。

「俺からも、こわいのにちゃんと教えてくれてありがとう」

 お礼を言われるとは思っていなかったのか、シュリくんは照れくさそうにどういたしましてと答えてくれた。

 それにしてもと考えながら、俺は気配探知に意識を戻した。

 一頭では無いどころか、強そうな気配が一塊になって移動中なんだよな。いったいどれだけの数がいるのかが分からないぐらいに気配が密集している。

 リスリーロのおかげで最近は起きてないって聞いてたけど、もしかして…これがスタンピードだったりする?

 でも俺の想像してたスタンピードって、もっとこう魔物の無秩序な大暴走みたいなのだったんだけどな。もしかしてこのあたりのスタンピードは、軍隊みたいな魔物たちの集団が襲ってくる事だったりするんだろうか。

 ああ、駄目だ。そんな事を考えてる場合じゃない。

 これがスタンピードだろうと、そうじゃなかろうと、向こうに気づかれた時点でこちらから攻撃するのは変わらない。

 まあ想像以上に強そうな敵だけどね。

「いっぱいいる…こわいよ」
「シュリくん、大丈夫だよ。僕がずっと一緒にいるからね」

 シュリくんといると、キースくんがまるでお兄ちゃんみたいだ。

 プルプルと震えるシュリくんと、それを必死で慰めているキースくんの姿をちらりと横目で見る。

 この子たちを絶対に守らないといけない。そして、俺も、絶対に生きてハルの所に帰るんだ。

 近づいてくる気配に怯まないように、俺はそっと目を閉じてから魔力を練り始めた。今までにないぐらい真剣に、魔力を練りながらどんどん研ぎ澄ましていく。

 もっと、もっとだ。まだいける。研ぎすました魔力を、今度はどんどん大きくしていく。先制攻撃なら、やっぱり土魔法が良いかな。

 そんな事を考えていると、不意にシュリくんが息をのんだ音が聞こえた。

「ひっ…」
「どうしたの、シュリくん?」
「い、いったい、とびだしてきたよ!」

 恐怖に震える声で、シュリくんはそう叫んだ。きっと勇気を振り絞って俺たちに教えてくれたんだろうな。

「ありがとう、シュリくん」

 これであちらからの不意打ち攻撃は受けずに済む。

「け、けはいもけしてるし、ぼうおんまほうもつかってるのに…なんで?なんでまっすぐこっちにくるの!?」
「分からないけど、落ち着いて」

 意味が分からないとパニックになっているシュリくんの声と、それを必死で宥めているキースくんの声を聞きながら、俺はいつでも魔法を使えるようにと両手を前にだして構えた。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...