生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1035.危険な道

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 ラスさん作の美味しいパンを食べて元気を取り戻した俺とキースくんは、再びシュリくんの背中に乗せてもらった。

 しっかりと魔力が補充されたからか、さらに速度がぐんっと上がった気がする。いや、これ確実に上がってるね。

 シュリくんは鼻歌でも歌いそうなご機嫌さで、森の中を軽快に駆け抜けていく。

 びゅんびゅんと通り過ぎていく森の景色の向こうには、時折整備された道が見え隠れしている。

 走りやすさだけで言ったらあの道の方が良いんだと思うんだけど、俺達があちらの道を使っていないのにはきちんとした理由がある。



 森の中を通っている道が見えてきた時に、キースくんが教えてくれたんだよね。

「あのね、ルティルーの森では基本的にあの道は使えないんだ」 
「えーっと…それはなんで?」
「あのね、ここの道には植物系の魔物が根っこを張り巡らせてて――全部罠になってるの」

 その根っこを踏むと、じわじわと植物系の魔物が集まってくるんだって。

 え、何それ、怖い。

 俺とシュリくんは、そんな危険な道があるの?ってかなり驚いたんだけど、キースくんいわくこれは辺境では一般常識レベルで周知されてるらしいよ。

 さすがに危険だからとあの道を潰して他の道を作ろうとした事もあるらしいんだけど、今度はそっちの道に罠が全て移動したから諦めたらしい。

 ただ出てくる魔物は、数こそ多いけどそこまで強くはないんだって。

 罠があるのは知った上で、欲しい素材があるからとわざと罠にかかるなんていう人も普通にいるらしい。すごい考え方だな。

「でもね、今は魔物の罠にかかるのは時間がかかっちゃうから…」
「うん、そうだね。教えてくれてありがとう」
「ありがとう」

 二人でお礼を言えば、キースくんは照れ笑いを浮かべながらどういたしましてと答えてくれた。



「もしあの時教えてもらってなかったら、俺はきっとあの道を通ろうとしてただろうなー」

 ぽつりとそう呟けば、シュリくんも知らなかったらそっちにするよねーと同意してくれた。全力で走っている最中だとは思えないぐらい、余裕のある声だ。

「あ、今回は入口を通ってないから見れてないけど、一応入口には看板が立ててあるよ」
「看板?」
「そう。知らずに入った人が被害に合わないようにーって、しつこいぐらいたくさんの看板があるんだ。全部騎士団が立てたんだよ」
「へーさすが!優しいね」

 へへー騎士団が褒められたーと嬉しそうに笑うキースくんに、ついつい和んでしまった。

 うん、とりあえず盗賊に追いつかれそうな気配も無いし、シュリくんのおかげでこのまま無事に逃げ切れそうかな――って、だめだ、だめだ。まだ逃げ切れたわけじゃないんだから、油断は禁物。こういう時に気を緩めたら、ろくな事にならない。

「あ…」

 ぽつりと呟いたシュリくんは、不意に速度を落とすとその場でぴたりと立ち止まった。

「どうしたの?」
「もしかして…追手?」
「わからない…でも、これいじょうすすめない…」
「え」
「こわい」
「怖いの?」
「こわい」

 心配そうなキースくんが首のあたりを優しく撫でているけど、シュリくんはまだ立ちすくんだままだ。

 シュリくんは盗賊に対しては、怖いなんて言った事は無かった。ということはこの反応は盗賊に対してのものじゃないんだろう。それなら魔物かもしれないな。

 最近はA級の魔物がいっぱい出てるって言ってたから、その可能性は高いよね。

「キースくん」
「何?」
「いざとなったら、シュリくんと二人で一緒に逃げるって約束して?」
「っ!そんなの!嫌だ!」
「ごめんね。魔物の相手なら冒険者である俺が、一番慣れてると思うんだ」

 まあA級の魔物を相手に一人で戦うとなったら、正直に言って楽勝とはいかない。間違いなく苦戦はするだろうけど、でもここで死ぬつもりはかけらも無い。

「三人で逃げるより、その方が生き延びられる確率が高いんだ。逃げて助けを呼んできてくれた方が助かる。だから分かって、キースくん」

 こども相手に言う事じゃないって分かってるけど、それでもこれだけは約束して欲しい。静かに返事を待っていると、キースくんは爪が刺さって血がにじまないか心配になるほど拳を握りしめながら、分かったと小さな声で答えてくれた。

「ありがとう」
「アキトくん、せめて最初の攻撃は…そこに隠れて不意打ちにしない?」

 そう言ってキースくんが指差したのは、大きな木の切り株だった。すこし腰を屈めれば、俺達の姿はうまく隠れられそうな大きさだ。

「うん、そうだね。奇襲で攻撃を当てられたら、その後の戦いが楽になりそうだ」

 キースくんの素晴らしい提案に、俺はすぐに切り株の影へと隠れた。
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