生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1034.自己紹介

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「え…きみのおとうさまなの?」

 驚いた様子の馬くんに、キースくんは嬉しそうな笑顔でうんと頷いた。

「あ、ぼうおんまほうはちゃんとつかってるから、まわりはきにしなくていいよ」

 ここでは普通に喋っても盗み聞きはされないよと教えられたキースくんは、ありがとうと笑みをみせた。

「あのね、僕の名前は、キース・ウェルマールって言うんだ」

 ああ、そうか。ここまでは盗賊を気にして名前や素性を言えなかったけど、防音魔法があるなら口にしても大丈夫なのか。

「俺はアキト。アキト・ヒイラギっていうんだ。えっと…キースくんのお兄さんの、伴侶候補だよ」

 俺も領主一家の人だと思われちゃうかな。そう思って慌ててハルの伴侶候補なんだと付け加えたんだけど、馬くんはキョトンとした様子で俺とキースくんを交互に見つめてきた。

「ぼくに…ふたりのなまえをおしえてくれるの?」
「うん。もちろんだよ」
「だってもう、僕たち友達だよね…?」

 キラキラと目を輝かせたキースくんの言葉に、馬くんはパァァッと表情を変えた。

 うんうん、二人ならきっと気の合う友達になれるよね。

「ぼく、ひとのともだちははじめて!」
「ぼくもウマの友達は、初めてだよ!」

 嬉しそうな二人のどこまでも和やかなやり取りを眺めていると、馬くんは不意に口を開いた。

「あのね、きーすにあきと、ぼくのなまえもきいてくれる?」
「もちろん」

 即答したキースくんから向けられた視線に、俺もこくりとすぐに頷いた。

「うん、俺にも君の名前を教えて欲しいな」
「ぼくのなまえはシュレラーウ。とうさまとかあさまにはシュリってよばれてるよ」
「シュレラーウくんかぁ!」
「シュレラーウくんか、シュリくん。どっちで呼んだ方が良いかな?」

 本人の希望に合わせるよと聞いてみれば、幼い声は嬉しそうに答えてくれた。

「えっと…はじめてのおともだちには、やっぱりシュリってよんでもらいたいなーとおもうんだけど…それでもいい?」

 すこしだけもじもじしている姿も、可愛いんだよなぁ。

「わかった、シュリくんだね」
「じゃあ俺もシュリくんって呼ばせてもらうね」
「うんっ!」

 お互いに自己紹介も終えた所で、きゅうーっとお腹の音が鳴った。思わず視線を向ければ、恥ずかしそうなキースくんと目が合った。

「お腹空いたよね。俺もだいぶ空いてきたよ。ここに俺の魔導収納鞄があれば良かったんだけど…」

 色々と買いだめした食料が入ってるから困らないんだけど、罠にかかった所に置いてきちゃったからなぁ。

 こういう時にハルみたいな腕輪型収納がやっぱり欲しいなーって思っちゃうんだよね。あ、でもあんなお洒落な腕輪なんてしてたら、盗賊に奪われて終了かな。

「うん、えっと…僕ね、こういうのなら持ってるよ!」

 そう言いながらキースくんがポケットから無造作に取り出したのは、美味しそうないくつかのパンと水の入った水筒のような袋だった。

 さっきもそこから魔道具が出てきたから、そのポケットに魔導収納鞄と同じ空間魔法がかかってるんだろうなーとは思ってたんだけど、まさかしっかりと食料まで入れているとは。さすが危機管理能力の高い辺境育ち。

「え、すごい!そこに食料まで入れてあったの?」
「うん、これはねいざという時に食べろって、ラスさんが持たせてくれたやつなんだ」

 え、しかもそのパンは、ラスさんが作ったやつなのか。それはもう絶対に美味しいのが約束されてるやつじゃないか。

「シュリくんって…何を食べるの?このパンは食べられないのかな?」
「んー…ぼくはひとのつくったりょうりは、たべられないかな」

 今までに出逢った馬たちはだいたいみんなが生肉を食べてたから、そういう事?って聞いてみたけど、シュリくんはどうやらまだお肉も食べた事がないらしい。

「え、じゃあ今までは何を食べてたの…?」
「とうさまとかあさまからの、まりょくきょうきゅうと、あとはあんまりおいしくないけど…ませきだよ」

 魔力に魔石か。魔石はさすがのキースくんも持ち歩いてはいないみたいなんだけど、幸いにも魔力なら俺でも渡せるかもしれない。

 しかも俺の魔力は、前にたくさんの馬が吸収してくれたっていう実績もあるからね。

「ぼくのことはきにせずに、ふたりはしょくじして?だいじょうぶ。ぼくはまだしばらく、まりょくぎれにはならないから!」

 ちょっとシュリくん、健気すぎないかな?

 自分は良いから二人は食事をなんて健気な事を言ってくれるシュリくんに、俺はそっと控え目に声をかけた。

 いくら俺の魔力をどうぞって言ったとしても、シュリくんが嫌だというならさすがに無理強いは出来ないからね。

「あのね、シュリくん、俺の魔力、吸収してみない?」
「アキトのまりょくを…?」

 不思議そうなシュリくんに、俺はコクコクと頷いた。

「そうそう。前にね、他の馬にも魔力を吸収してもらった事があるんだ」

 あれはあくまでも偶然起きた、いわゆる事故だったんだけどね。でも馬が気に入る魔力だとかは言ってたから、可能性が無いわけじゃないと思う。

「え、そうなの?すごいね、アキトくん!」

 俺達のやりとりを黙って見守っていてくれたキースくんは、今はキラキラと尊敬の眼差しを俺に向けてくれている。

「褒めてくれてありがとう。どうかな?シュリくんが嫌なら断ってもらって良いんだけど」
「えっと…アキトのまりょくはきれいだったから…うん、うまくできるかわからないけど、やってみたい」
「よし、じゃあさっそく。魔力を練ってみたら良い?」
「うん、そうしてみて」

 シュリくんの言葉に、俺は目を閉じるとすぐに魔力を練りあげ始めた。

 いつもは目を開けたままで魔力を練るんだけど、今日は閉じてやってみたよ。キラキラした目で俺を見つめてくれてるキースくんがあまりにも可愛すぎて、失敗しそうな気がしたんだよね。

「わーほんとうにきれいなまりょくだね」

 練りあがった魔力を感じているのか、シュリくんはぽつりとそう呟いた。

 俺はそっと目を開けて、練り上げたままの魔力をじっと見つめた。

「えーっと…ごめんね。ここからどうするかは、分からないんだけど…」

 前は魔法をバンバン使いまくったせいで漂ってた魔力の余りを、馬たちの方が勝手に吸収してくれたっていうやり方だったもんな。俺の意思でどうこうできる方法じゃないんだよね。

「うん、ちょっとうごかないでね」

 そう前置きをしたシュリくんは、そっと目をつむると、俺の作った魔力の前に首を垂れた。

 ちょうど額の辺りに俺の魔力があたるぐらいの位置でぴたりと止まったシュリくんは、何かをブツブツと唱え始めた。

 途端にぎゅるるるんっと、まるで渦を巻くようにして俺の魔力はシュリくんに吸収されていった。

「うわぁ…」
「なに?何か問題あった?」
「こんなにおいしいまりょく、はじめてだよ…アキトのまりょく、すっごくおいしいっ!すごいね、アキト!」

 はしゃぐシュリくんに、俺はホッと息を吐いた。良かった。すっごく美味しくないなんて言われたら、ちょっとショックだったかもしれない。

「えーそんなに美味しいの?」

 興味深そうなキースくんに、シュリくんは何度も頷いてから答えた。

「うんうん、のうどはこいんだけど、あじはすっきりだよ!」
「そうなんだー僕も食べてみたいな!」
「うーん、ひとにはむずかしいかな…」
「やっぱり?」

 美味しいと嬉しそうなシュリくんと、そんなに美味しいのと羨ましそうなキースくんのやりとりが、なんとも微笑ましい。

「まあ…口にあったなら良かった。おかわりはいるかな?」
「ううん。いまのでとうぶんのあいだは、だいじょうぶだよ」
「そっか。減って来たら、言ってね?」
「うん、ありがとう。あ、ぼくだけさきにごめんね。ふたりもたべて!」

 人は食事がすごく大事なんでしょう?と心配そうなシュリくんの優しさに甘えて、俺とキースくんも食事の時間を取らせてもらった。
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