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1030.張り切る二人

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 キョトンとした表情でこちらを見つめてくる二人に、思わずうつむいてしまった。

 あー言っちゃったー。黙ってるっていう選択肢は無かったから、仕方ないんだけどね。

 だってもしここで馬に一人で乗った事が無いって事を、隠したままでスルーしたとしよう。

 その場合、もしかしたら脱出中に、それが原因で二人に迷惑をかける事になるかもしれない。いや迷惑どころか、それが原因で脱出に失敗するなんて可能性すらあるかもしれない。

 後になって脱出に失敗した原因が、馬に乗れなかった俺だなんて事態になっても困るからね。だからこれは今のうちに、隠さずに伝えるべきだろうなと思ったんだ。

 うん、でも、やっぱりこれはちょっと…いやかなり恥ずかしいかな。

 もしかしたらキースくんは俺が異世界人だから、そう言う事もあるよねーと納得してくれるかもしれないけど、この馬くんはそれを一切知らないわけで。

 かといってこんな盗賊の本拠地で、実は俺は異世界人なんだーなんて口にしたら、その後が怖いよね。血眼になった盗賊に、より一層激しく追いかけられる予感しかしない。

 だからここで伝える事はできないんだけど、こっちの世界だと馬に乗れる人って結構いるみたいなんだよね。

 騎士や衛兵さんはもちろん、ブレイズのパーティーみたいな冒険者たち、商人さんたちですら自分で乗れるって人は多いみたいなんだ。

 そんな世界で一人で馬に乗った事が無いと告白した俺。あー…大人なのにー?とか冒険者なのにー?とか、言われたわけでも無いのにそんな言葉が次々に浮かんできてしまう。

 あ、馬くんには俺が冒険者だとすら言ってないからあり得ないか。

 さて二人はどんな反応をするんだろうと覚悟を決めてそーっと視線を向けてみると、何故かそこにはキラキラした目で俺を見つめている二人の姿があった。

 え、なんで。キラキラする要素なんて一つも無いよね?思わず首を傾げた俺に、キースくんははいっと元気に手をあげて教えてくれた。

「あのね、僕、普通の馬にもちゃんと一人で乗れるよ!だからね、大丈夫だよ!」
「ぼく、ことばでいってくれたら、ちゃんとしたがうよ!だからふつうのうまにのれなくても、もんだいないよ!」

 あーなんで二人がこんなにキラキラした目をしているのか、なんとなく分かったかもしれない。自分たちが役に立てるのが、嬉しいって張り切っている顔だ。

 呆れるとかよりも素直に嬉しそうな二人があまりに微笑ましくて、俺は笑顔で答えた。

「ありがとう。じゃあ頼りにさせてもらうね。二人ともよろしく」
「わー頼られちゃった」
「たよられちゃったねー」
「ねー」
「…たよられるのってうれしいんだね」
「うん、嬉しいね」

 照れくさそうにしながらも、二人は嬉しそうにそんな言葉を交わしている。

「ここは頑張らないと!」
「うん、ぼくもがんばるよ!」

 なにやら気合を入れなおした二人は、張り切った様子で俺の方へと揃って近づいてきた。

「はい、ふたりとものってー」

 さっと目の前で足を折りたたんで体を下げてくれた馬くんの背中に、キースくんがするりとおさまった。

「後ろに乗って」
「はーい、おじゃましまーす」
「どうぞー」

 馬くんが協力的だからか、思ったよりもあっさりと背中に乗る事ができた。あー良かった。正直に言えば、一番自信が無いのがこの乗る瞬間だったんだよね。

 いつも乗る時は何だかんだとハルに助けて貰ってたから、そもそも普通の乗り方を知らないんだ。ハルの乗り方はヒラッと軽やかに跳びあがるやつで、あのやり方は俺にはまだ無理だろうから。

 失敗する自信しかない。

「それじゃあ、そろそろ行くよー」
「うん」
「おねがい」

 俺達が頷いたのを確認するなり、馬くんは目の前のがれきと化した壁から飛び出した。そのまま廊下へと向かうのかと思いきや、馬くんは目の前の壁にドカンと思いっきり体当たりを食らわせた。

 え、と思うよりも早く、目の前の壁はガラガラと崩れていった。

「すごい…」
「ああ、すごいな」

 何が一番すごいって、壁が崩れる程の物凄い勢いでぶつかった筈なのに、俺達に一切衝撃が来なかった事だ。

「どんどん行くよー」

 さらりとそう言って、馬くんはどんどんと壁を潰して進んでいく。

 さっきの防音魔道は、ずっと発動させていられるようなものなのかな。普通に考えればそろそろ音を聞きつけた盗賊たちが集まって来そうなのに、どこ行ったーなんて叫んでいる声が遠くから聞こえてくるばかりだ。

 いくつかの壁をぶち破った馬くんは、今度は広い廊下をまっすぐ走り出した。すごい速度で景色が後ろへと飛び去っていくんだけど、どれだけ速いんだろう、この馬くん。
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