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1028.幼い声
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気を抜けばこのまま絶望してしまいそうなそんな状況だけど、俺は慌ててぶんぶんと首を振った。ここで無理だってあっさり諦めて助けを待つのは、どう考えても俺らしくないよね。
出来る事はまだまだある筈だ。
次に見張りの人が部屋に来た時に、無理やりこの部屋から出るのはどうだろう。少なくとも戦利品と呼ばれていたあの人…子?が暴れられたって事は、この部屋から出れさえすれば魔力は練れると思うんだよね。
まぁただの予想なんだけど、見張りの人達も魔法が使えない状況だといざ襲撃があったとか衛兵さんが来たとかの時に困るからね。だからきっと、廊下では魔法も使えると思うんだ。
「アル兄…」
黙り込んでしまった俺を心配そうに見上げてきたキースくんに、にっこりと笑みを返す。
「心配させてごめんね。大丈夫だよ、キルト。俺はこんな事で諦めないから」
「うんっ!」
一転して嬉しそうな笑顔を浮かべたキースくんの頭をなでなでしながら、俺はもう一度魔力を練り上げ始めた。
キースくんが言ってた魔道具があるなら無理だって事は、頭では分かってるんだよ。
でももしかしたら何度もやってるうちにいつか成功するかもしれないしと考えながら、俺は魔力を練っては霧散させるを繰り返していた。
全然うまくはいかないけど、魔力を練ろうとすると不思議と落ち着くんだよね。
やり慣れた行動だからなのか、それとも魔力を練るために集中するのが良いのかな。
そんなことを考えながら飽きもせずに魔力を練っていると、遠くの方からうっすらと悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「逃げたぞ!」
「おい、どこ行った!」
「あいつ、速すぎるだろ!」
「探せ探せ!」
「あいつを逃がしたら俺らの命が危ういっての!」
「頭に殺される!」
どうやらあちらの戦利品さんはうまく逃げられたらしい。俺たちも頑張らないとなと考えていると、不意に幼い声が話しかけてきた。
「ねぇ」
ちょうど俺達のいる部屋の、壁のすぐ向こう側からだと思う。
「ねえ、だれかいる?」
俺とキースくんは顔を見合わせてから、すぐにその声に答えた。だってその声、間違いなくさっきまで外で暴れてた戦利品さんの声だからね。
「うん、いるよ。ここに二人いる」
「ねぇ、さっきから、なんかいか…まりょくねってた?」
「…うん」
少しだけ警戒しながらもそう答えれば、その幼い声は一気に嬉しそうなものに変わった。
「さっきの、いいまりょくだね」
魔力を練るのが早いとかは言われた事があるけど、良い魔力だって褒められた事は無いな。
声からしてまだ子どもだと思うんだけど、もしかして本で読んだ魔法に長けたエルフの子どもとかなんだろうか。
「えっと…ありがとう?」
「ねぇ、もしかして、きみたちもむりやりここにつれてこられたの?」
「うん、そうだよ」
この姿も見えない幼い声の持ち主には人見知りが発動しなかったのか、今度はキースくんが優しい声でそう答えた。
「そっか…じゃあふたりもいっしょににげる?」
「逃げたいんだけど、俺達はここから出れないんだ。一人で行って良いよ」
「そうだよ、それに僕らも一緒だと逃げきれなくなるかもしれないし」
二人でそう言いつのれば、幼い声はへへーと笑い声をあげた。
「ふたりともいいひとだ。やっぱりいっしょににげよう!」
「えっと…」
どうすれば良いんだろうとキースくんと戸惑っていると、声の主はふんっと気合を込めた声で宣言した。
「いっかい、やってみる。ふたりとも、いまはどあのまえにいる?」
「ああ、そうだけど…」
「そこからうごかないでね」
「分かった」
「うん、分かったよ」
答えた次の瞬間、壁に何かがぶつかる衝撃が伝わってきた。ただ感じたのは衝撃だけで、音が一切しない。これは防音の魔法で音が出ないようにしてたりするのかな。
そんな事を考えていると、あっという間に壁がボロボロと崩れていく。ぶわりと舞った粉塵だけが、目の前の光景が現実だと伝えてくる。
「すごい…」
思わず漏れたらしいキースくんの言葉に、幼い声は照れくさそうに答えた。
「ほめてくれてありがと」
へへーと笑っている声に、俺は戸惑いながらも言葉を返した。
「俺達こそ、壁を壊してくれてありがとう」
「ううん、えっと…こんなぼくだけど…いっしょににげてくれる?」
少し不安そうな様子の声を聞きながら目を凝らせば、そこには明らかに人ではないシルエットの見慣れた生き物が佇んでいた。
「ああ、もちろんだよ」
「うん、僕もいっしょに逃げるよ」
二人揃って即答した瞬間、視線の先にいた小さめの馬は嬉しそうにその場で小さくジャンプした。
「やったーここにつれてこられてからずっと、さびしかったんだ」
うん、可愛い。可愛いんだけど…馬って人間の言葉を喋れたっけ?
出来る事はまだまだある筈だ。
次に見張りの人が部屋に来た時に、無理やりこの部屋から出るのはどうだろう。少なくとも戦利品と呼ばれていたあの人…子?が暴れられたって事は、この部屋から出れさえすれば魔力は練れると思うんだよね。
まぁただの予想なんだけど、見張りの人達も魔法が使えない状況だといざ襲撃があったとか衛兵さんが来たとかの時に困るからね。だからきっと、廊下では魔法も使えると思うんだ。
「アル兄…」
黙り込んでしまった俺を心配そうに見上げてきたキースくんに、にっこりと笑みを返す。
「心配させてごめんね。大丈夫だよ、キルト。俺はこんな事で諦めないから」
「うんっ!」
一転して嬉しそうな笑顔を浮かべたキースくんの頭をなでなでしながら、俺はもう一度魔力を練り上げ始めた。
キースくんが言ってた魔道具があるなら無理だって事は、頭では分かってるんだよ。
でももしかしたら何度もやってるうちにいつか成功するかもしれないしと考えながら、俺は魔力を練っては霧散させるを繰り返していた。
全然うまくはいかないけど、魔力を練ろうとすると不思議と落ち着くんだよね。
やり慣れた行動だからなのか、それとも魔力を練るために集中するのが良いのかな。
そんなことを考えながら飽きもせずに魔力を練っていると、遠くの方からうっすらと悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「逃げたぞ!」
「おい、どこ行った!」
「あいつ、速すぎるだろ!」
「探せ探せ!」
「あいつを逃がしたら俺らの命が危ういっての!」
「頭に殺される!」
どうやらあちらの戦利品さんはうまく逃げられたらしい。俺たちも頑張らないとなと考えていると、不意に幼い声が話しかけてきた。
「ねぇ」
ちょうど俺達のいる部屋の、壁のすぐ向こう側からだと思う。
「ねえ、だれかいる?」
俺とキースくんは顔を見合わせてから、すぐにその声に答えた。だってその声、間違いなくさっきまで外で暴れてた戦利品さんの声だからね。
「うん、いるよ。ここに二人いる」
「ねぇ、さっきから、なんかいか…まりょくねってた?」
「…うん」
少しだけ警戒しながらもそう答えれば、その幼い声は一気に嬉しそうなものに変わった。
「さっきの、いいまりょくだね」
魔力を練るのが早いとかは言われた事があるけど、良い魔力だって褒められた事は無いな。
声からしてまだ子どもだと思うんだけど、もしかして本で読んだ魔法に長けたエルフの子どもとかなんだろうか。
「えっと…ありがとう?」
「ねぇ、もしかして、きみたちもむりやりここにつれてこられたの?」
「うん、そうだよ」
この姿も見えない幼い声の持ち主には人見知りが発動しなかったのか、今度はキースくんが優しい声でそう答えた。
「そっか…じゃあふたりもいっしょににげる?」
「逃げたいんだけど、俺達はここから出れないんだ。一人で行って良いよ」
「そうだよ、それに僕らも一緒だと逃げきれなくなるかもしれないし」
二人でそう言いつのれば、幼い声はへへーと笑い声をあげた。
「ふたりともいいひとだ。やっぱりいっしょににげよう!」
「えっと…」
どうすれば良いんだろうとキースくんと戸惑っていると、声の主はふんっと気合を込めた声で宣言した。
「いっかい、やってみる。ふたりとも、いまはどあのまえにいる?」
「ああ、そうだけど…」
「そこからうごかないでね」
「分かった」
「うん、分かったよ」
答えた次の瞬間、壁に何かがぶつかる衝撃が伝わってきた。ただ感じたのは衝撃だけで、音が一切しない。これは防音の魔法で音が出ないようにしてたりするのかな。
そんな事を考えていると、あっという間に壁がボロボロと崩れていく。ぶわりと舞った粉塵だけが、目の前の光景が現実だと伝えてくる。
「すごい…」
思わず漏れたらしいキースくんの言葉に、幼い声は照れくさそうに答えた。
「ほめてくれてありがと」
へへーと笑っている声に、俺は戸惑いながらも言葉を返した。
「俺達こそ、壁を壊してくれてありがとう」
「ううん、えっと…こんなぼくだけど…いっしょににげてくれる?」
少し不安そうな様子の声を聞きながら目を凝らせば、そこには明らかに人ではないシルエットの見慣れた生き物が佇んでいた。
「ああ、もちろんだよ」
「うん、僕もいっしょに逃げるよ」
二人揃って即答した瞬間、視線の先にいた小さめの馬は嬉しそうにその場で小さくジャンプした。
「やったーここにつれてこられてからずっと、さびしかったんだ」
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