生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
1,027 / 1,179

1026.盗賊団の決まり

しおりを挟む
 ここから脱出した後で盗賊団をしっかり捕まえてもらうためにも、ちゃんとこういう役立ちそうな情報を覚えておくんだ。

 密かに俺がそう決意していると、隣に座り込んでいるキースくんが不思議そうにぽつりとつぶやいた。

「……トライプールで…盗賊?」
「…あれ、どうしたの?何か気になる事でもあった?」

 ドアの向こうには聞こえないぐらいの小さな声だったけど、今の会話の中で何か気づいた事でもあったのかな?

 俺は声を潜めて、キースくんを見つめながらそっと尋ねた。

「…この間ね、兄さんから…トライプールで盗賊が捕まったって話しを聞いたのを、思い出したんだ」
「あーうん…確かにあったね」

 あれだよね。ローガンさんとレーブンさんが二人で開催してる定例の食事会に、俺達も参加させてもらった日の事だよね。

 珍しくもローガンさんがその食事会に遅刻してきたんだけど、その遅刻の理由が衛兵さんが盗賊を捕まえるのに協力してたからーだったやつだ。

 まだそんなに昔の話しってわけでも無いのに、なんだか既に懐かしいな。

「その時捕まった盗賊は、頭って呼ばれてる人と部下が二人で…たしか指名手配されてる盗賊団だって言ってた…」

 俺が知ってる事はそれぐらいなんだけどと思い出しながら口にすれば、キースくんはそっかじゃあ間違いないかもと何度も頷いた。

 思わず首を傾げてそんなキースくんの様子を見つめていると、ハッと気づいた様子で更に声を潜めて説明してくれた。

「えっとね…そもそも盗賊団って、一つの街には一つしかないって言われてるんだけどそれは知ってる?」
「へ、そうなの?全く知らなかった…」

 素直にそう答えれば、キースくんはまあこれはただの噂話なんだけどねと前置きをしてすぐに教えてくれた。

「それがただの噂なのか気になって、詳しい人たちに聞いたんだ。そしたら盗賊には縄張りがあるから、基本的に一つしか存在しないってのは本当だって教えてくれたんだ」

 ファーガスさんに聞いたのか、それともウィリアムさんかジルさんか。どちらにせよ弟の疑問に真摯に答えてくれる、ご家族の誰かなんだろうな。

「その盗賊団に入るか、別の場所に行くか、既にある盗賊団を潰すか…あとは前の盗賊団が捕まったり移動したりしていなくなった隙に、新しく作るかしかないんだって」

 おおう。そういう感じなんだ。盗賊同士でも殺伐としてるんだな。少し引きながらも、俺は何とか冷静な声を搾り出した。

「へーそうなんだ。初めて知ったよ」

 キースくんが動揺してないのに、俺が動揺するのはちょっと恥ずかしい気がしたんだ。

 まあ何も知らなかったのは本当なんだけどね。

 きっとハルに聞けばそういう事も教えてくれたんだろうけど、盗賊団について教えてなんてさすがに言った事が無いからな。

 あの時ローガンさんから盗賊を捕まえてたって言われて初めて、トライプールにも盗賊団なんてのがいたんだって知ったぐらいだったし。

「そこから考えたらね、トライプールで捕まったのはこの人たちの言う熊…たぶん角熊盗賊団だと思うんだ」

 ああ、そっか。街に一つしか存在しないなら、トライプールで足場を固めるとまで言ってたその角熊盗賊団の可能性が高いのか。

「あっちが熊でこっちが蛇…って事は…この人たちは牙蛇盗賊団の人なのかもしれない」

 キースくんは少し自信は無さそうたけど、こっそりとそう教えてくれた。

 へー角熊に牙蛇か…。何かこう強そうな魔物の名前とかを、盗賊団の名前にするって決まりがあったりするのかな。

 いや角熊って魔物がいるのは知ってるけど、牙蛇っていう魔物がいるのかどうかは知らないんだけどね。

「つまり盗賊団の名前が分かったって事か」
「うん。あと、数か月前の時点でもう捕まってるのにまだ知らないって事は、情報のやりとりは苦手なんだと思う」
「ああ、確かにそうだな」

 それはつまりハルやキースくんみたいにとにかく情報に敏感で、常に新しい情報を得てるわけじゃないって事だ。

 うん、これからここから脱出しようと思っている俺達からすれば、それはかなりの朗報だよね。

「色んな事が分かったね…さすがキルト」
「へへ、ありがと、アル兄」

 顔を見合わせて笑い合える余裕がまだお互いにある事が、救いだと思った。

「ちょっと…眠くなってきた…かも」

 ああ、俺より早く起きてたって言ってたし、色々と情報収集して考えてくれたもんな。それに空腹な所にご飯を食べたんだから無理もない。

「寝て良いよ。俺はもうちょっと聞いておくから」
「うん、ごめんなさい」
「いやいや、謝らないで?」
「え、えっと…じゃあありがと」
「どういたしまして」

 隣に座るキースくんの小さな肩に腕を回してゆらゆらと揺らせば、すぐに目を瞑ってそのまま眠ってしまった。

 うわー眠ってるキースくんのまつげの長さに、ハルとの血の繋がりを感じてしまったよ。

 うん。なんだかこんな事を考えたりして、思ったよりも落ち着いてる自分に少し安心したよ。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...