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1026.盗賊団の決まり

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 ここから脱出した後で盗賊団をしっかり捕まえてもらうためにも、ちゃんとこういう役立ちそうな情報を覚えておくんだ。

 密かに俺がそう決意していると、隣に座り込んでいるキースくんが不思議そうにぽつりとつぶやいた。

「……トライプールで…盗賊?」
「…あれ、どうしたの?何か気になる事でもあった?」

 ドアの向こうには聞こえないぐらいの小さな声だったけど、今の会話の中で何か気づいた事でもあったのかな?

 俺は声を潜めて、キースくんを見つめながらそっと尋ねた。

「…この間ね、兄さんから…トライプールで盗賊が捕まったって話しを聞いたのを、思い出したんだ」
「あーうん…確かにあったね」

 あれだよね。ローガンさんとレーブンさんが二人で開催してる定例の食事会に、俺達も参加させてもらった日の事だよね。

 珍しくもローガンさんがその食事会に遅刻してきたんだけど、その遅刻の理由が衛兵さんが盗賊を捕まえるのに協力してたからーだったやつだ。

 まだそんなに昔の話しってわけでも無いのに、なんだか既に懐かしいな。

「その時捕まった盗賊は、頭って呼ばれてる人と部下が二人で…たしか指名手配されてる盗賊団だって言ってた…」

 俺が知ってる事はそれぐらいなんだけどと思い出しながら口にすれば、キースくんはそっかじゃあ間違いないかもと何度も頷いた。

 思わず首を傾げてそんなキースくんの様子を見つめていると、ハッと気づいた様子で更に声を潜めて説明してくれた。

「えっとね…そもそも盗賊団って、一つの街には一つしかないって言われてるんだけどそれは知ってる?」
「へ、そうなの?全く知らなかった…」

 素直にそう答えれば、キースくんはまあこれはただの噂話なんだけどねと前置きをしてすぐに教えてくれた。

「それがただの噂なのか気になって、詳しい人たちに聞いたんだ。そしたら盗賊には縄張りがあるから、基本的に一つしか存在しないってのは本当だって教えてくれたんだ」

 ファーガスさんに聞いたのか、それともウィリアムさんかジルさんか。どちらにせよ弟の疑問に真摯に答えてくれる、ご家族の誰かなんだろうな。

「その盗賊団に入るか、別の場所に行くか、既にある盗賊団を潰すか…あとは前の盗賊団が捕まったり移動したりしていなくなった隙に、新しく作るかしかないんだって」

 おおう。そういう感じなんだ。盗賊同士でも殺伐としてるんだな。少し引きながらも、俺は何とか冷静な声を搾り出した。

「へーそうなんだ。初めて知ったよ」

 キースくんが動揺してないのに、俺が動揺するのはちょっと恥ずかしい気がしたんだ。

 まあ何も知らなかったのは本当なんだけどね。

 きっとハルに聞けばそういう事も教えてくれたんだろうけど、盗賊団について教えてなんてさすがに言った事が無いからな。

 あの時ローガンさんから盗賊を捕まえてたって言われて初めて、トライプールにも盗賊団なんてのがいたんだって知ったぐらいだったし。

「そこから考えたらね、トライプールで捕まったのはこの人たちの言う熊…たぶん角熊盗賊団だと思うんだ」

 ああ、そっか。街に一つしか存在しないなら、トライプールで足場を固めるとまで言ってたその角熊盗賊団の可能性が高いのか。

「あっちが熊でこっちが蛇…って事は…この人たちは牙蛇盗賊団の人なのかもしれない」

 キースくんは少し自信は無さそうたけど、こっそりとそう教えてくれた。

 へー角熊に牙蛇か…。何かこう強そうな魔物の名前とかを、盗賊団の名前にするって決まりがあったりするのかな。

 いや角熊って魔物がいるのは知ってるけど、牙蛇っていう魔物がいるのかどうかは知らないんだけどね。

「つまり盗賊団の名前が分かったって事か」
「うん。あと、数か月前の時点でもう捕まってるのにまだ知らないって事は、情報のやりとりは苦手なんだと思う」
「ああ、確かにそうだな」

 それはつまりハルやキースくんみたいにとにかく情報に敏感で、常に新しい情報を得てるわけじゃないって事だ。

 うん、これからここから脱出しようと思っている俺達からすれば、それはかなりの朗報だよね。

「色んな事が分かったね…さすがキルト」
「へへ、ありがと、アル兄」

 顔を見合わせて笑い合える余裕がまだお互いにある事が、救いだと思った。

「ちょっと…眠くなってきた…かも」

 ああ、俺より早く起きてたって言ってたし、色々と情報収集して考えてくれたもんな。それに空腹な所にご飯を食べたんだから無理もない。

「寝て良いよ。俺はもうちょっと聞いておくから」
「うん、ごめんなさい」
「いやいや、謝らないで?」
「え、えっと…じゃあありがと」
「どういたしまして」

 隣に座るキースくんの小さな肩に腕を回してゆらゆらと揺らせば、すぐに目を瞑ってそのまま眠ってしまった。

 うわー眠ってるキースくんのまつげの長さに、ハルとの血の繋がりを感じてしまったよ。

 うん。なんだかこんな事を考えたりして、思ったよりも落ち着いてる自分に少し安心したよ。
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