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1025.魔導収納鞄

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 ドアさえ警戒していれば良いと思っているのか、それとも単純に暇なのか。見張りの盗賊たちは軽快にペラペラと喋り続けている。

 まさか部屋の中にいる俺達が眠ったふりをして話しを聞いてるなんて、かけらも想像していないんだろうな。そのおかげで情報収集がしやすいからありがたいけど。

「お頭はきっとあの二人を見たら、大喜びで買い手を探しに行くだろうな」
「絶対そうだな。なんなら俺達も、直々に誉められるんじゃねぇか?」

 他のやつらにも自慢できるぜと言い合った二人は、げらげらと声をあげて笑っている。

「おい。そのためにも、絶対に、あの二人に、手は、出すなよ!」
「…分かってるよ、あれはただの冗談だって」
「ふん…まあそういう事にしておいてやる」

 商品として価値があるから大事にしようって事か。いざとなったら魔法で撃退するつもりだったけど、そういう意味の身の危険が減るのはありがたいな。キースくんにも絶対に手は出させないぞと気合を入れなおして、俺はさらに耳を澄ませた。

「でも、魔導収納鞄を持ってなかったのだけは…残念だったよなー」
「あーまあなー持ってるかどうかで儲けが変わるからな」

 そっか。魔導収納鞄ってよっぽど良い物じゃないと、他の人でも開けられちゃうもんな。盗賊の手に渡ったりしたらバラバラに売り払われそうだ。

「金のありそうな身なりしてんのにな」

 あー今日の服装は、やっぱり金のありそうな身なりって思われちゃうのか。

 いつもなら街に行く時も冒険者装備なんだけど、今日はせっかくだからってハルが選んでくれた一般市民っぽい服を着てるんだ。ちなみにキースくんも同じくハルセレクトの服だよ。

 ハルの選んだのが悪いってわけじゃないんだけど、やっぱり領主城にある服から選んだからさ。いくら素朴そうなのを選んでくれても、元々の質が良いんだよね。

 これ変じゃない?目立たない?て使用人さんたちに聞いてみたけどお可愛いらしいとかお似合いですとか返ってきたから、じゃあ大丈夫かと出てきたんだけどね。

「持ってないってわけじゃないらしいぜ。弟の方に聞いたら兄貴の方は鞄持ってたらしい」
「は?そうなのか?」
「ああ。でも移動してきたら無くなってたんだって言ってたから、たぶんあの路地に落ちてるんじゃねぇか?」
「ええーじゃあもう誰かが拾ってるだろうな…もったいねぇ…」

 ああ、そっか。その可能性は全然考えてなかったな。

 あの時あの場所で、俺はわざと魔導収納鞄を落としたんだよね。実はあの魔導収納鞄は紐の所に細工がしてあって、一カ所パーツを外せばそれだけで荷物がどさっと落とせるんだよね。

 これは結構珍しい仕組みらしくて、いざという時戦いの邪魔にならないように、さっと荷物を捨てられるように作られてるんだって。まあこれ何だろうってハルに聞いて教えてもらったんだけどね。

 今まで一度も使った事は無かったんだけど、今回初めて役立ったよ。

 盗賊たちは誰かに拾われていったと思ってるみたいだけど、俺はそうは思ってない。

 だって陰からの護衛の人もついてるって言ってたし、一歩大通りに出れば巡回中の衛兵さんや騎士さんもたくさんいるんだから。

 その人たちにここで何かがあったって事を分かって貰えたら良いなと、そう思ったんだ。

 ただの咄嗟の思いつきだったけど、少なくともここに持ってきてたらこの盗賊たちの儲けになってたって事だからとりあえず良かったのかもしれない。

「あー酒飲みたい」
「いや言うなよ、もっと飲みたくなるだろ」

 あそこの酒が飲みたいとか一緒に食べる料理は何が良いとか、気づけば二人の会話はそんな話しに移行してしまっていた。

 でも油断した二人の会話のおかげで、色んな事が分かった。

 最初から俺達を狙ってたってわけじゃない事、そしてたぶんだけど俺とキースくんの素性はまだバレていない。

 だって現時点でもしも俺達の事がバレてたら、領主城に身代金の請求の相談とかしてそうだもんな。まあこの世界に身代金ってものがそもそもあるのかどうかは、俺には分からないんだけど。

 ひとまず大丈夫そうだねとキースくんと無言のまま頷き合っていると、さっきまで料理の話しで盛り上がっていた二人の話の内容が急に変わった。

「…なあ、お前、聞いたか?今は熊の方も、トライプールで足場を固めに入ってるらしいぜ?」
「え、そうなのか?じゃあ俺ら蛇も、もっと頑張らないとな」
「負けてられないよな!」

 二人は何故かそう意気込んでるみたいだけど、そういうのは犯罪関係じゃない事で言って欲しいな。

 それにしてもこの盗賊たち、自分たちの事を蛇って呼んでるのか。こういう情報も大事だよね。ちゃんと覚えておこう。
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