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1024.情報取集

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「キ……キルトは、どこも怪我とかしてない?」

 うっかりキースくんと言いそうになったのを、俺は無理やり飲み込んだ。

 さっきの鑑定の魔道具について見張りの二人が何も言ってこないって事は、この部屋に盗聴とかは無いんだと思う。

 でもだからって油断してたら、ついうっかり見張りの前でも名前を呼びそうだもんね。ちゃんと気を付けよう。

「大丈夫。どこも怪我してないよ。アル兄も…怪我してないよね?」

 心配そうに聞いてくれるキースくんに、俺はこくりと頷いた。

「うん、ただ意識を失ったただけみたいだね。キルトはいつ目が覚めたの?」
「えっとね、アル兄よりちょっと前だよ。そしたらお前らの関係は何だーってあの二人が聞くから兄弟だって言ったの」

 年の差があっても一番不自然じゃないのは兄弟かなと思ってと、キースくんはさらりと続けた。

 さっきから思ってたんけど、キースくんの落ち着き方すごいよね。今まさに誘拐されてる最中だとは、とても思えない落ち着きっぷりなんだけど。

「なるほど。それで似てるとか似てないとか言ってたのか」

 うんと頷いたキースくんの頭をさすがキルトすごいねと言いながら撫でれば、へへーと嬉しそうな照れ笑いが返ってきた。

 うん、可愛い。

 もし今ここにいるのが俺一人だけだったらもっと動揺しただろうし、きっとその後で絶望してただろうな。

 どこにいるかも分からないのにどうやってハルの所に帰れば良いんだろうとか、もう会えないかもしれないとか、そんなネガティブな事をぐるぐると考えてたかもしれない。

 でもキースくんがいてくれるなら、落ち込んだりしてる暇なんて無いよね。きっと領主一家の皆も、今ごろ必死になってキースくんを探してると思うんだ。

 だから俺は絶対にキースくんと一緒に、無事に帰らないと。

「あの魔道具って…転移だったよね?」
「うん、そうだと思う」
「そっか…じゃあ、かなり遠い場所の可能性もあるって事だよね…」

 もし何とかしてここから脱出できたとしても、土地勘が無い場所で追手から逃げながら移動するのはかなり難しいと思う。どうすれば良いだろうと考えていると、キースくんがううんと首を振った。

「多分…ウェルマール領の中のどこかだと思う」
「え、そうなの?それは…何故そう思ったの?」

 キースくんの事だからきっときちんとした理由もあるんだろうと尋ねてみれば、すぐに分かりやすい返事が返ってきた。

「さっきね、甲高い鳥の鳴き声が聞こえたんだけど、あの鳥ってうちの領にしかいない種類なんだ」

 名産のヴァコクの木の蜜を吸う鳥なんだよと、図鑑を読むのが大好きなキースくんは笑顔で教えてくれた。

「おお、さすがキルト!」
「へへ…褒めてくれてありがとう」
「後は…こいつらの素性が知りたいな」

 誰かに雇われてこんな事をしてるのか、それともただの金目あての盗賊なのか。それによって対処も変わってくるからねと、キースくんも納得顔で頷いてくれた。

「さっき僕が大きな声を出した時は、部屋に入ってきたよね」
「ああ、そうだったな」
「こっちの会話が聞こえるって事は、あっちの会話も聞こえるかも?」
「確かに。今は寝てると思って油断してるかもしれないな」

 こっちは静かにしてても不自然じゃないしちょうど良いと、俺達は二人揃ってそっとベッドから抜け出すと、寝具をひきずったままドアの近くへと移動した。

 もし急にドアが開けられたとしても、見慣れない場所に怯えて隅っこで寝てたように見えるだろうってキースくんの案だ。

「あーそれにしても最近は俺ら、運が良いよな」

 ぽつりとつぶやいた見張りの声がしっかりと聞こえた事に、俺とキースくんは顔を見合わせた。うん、ちゃんと情報取集できそうだ。

「なー前回の成果もすごかったけど、今回もすごいよな。あんな綺麗なのと可愛いのが同時に二人もかかるとは」

 うーん、褒められてるけど全然嬉しくないな。

「あいつらなら、かなり高くなりそうだよな」
「な、使い切りの魔道具で釣るには、最上級の獲物だろ」
「違いねぇ!」
「俺達の盗賊稼業も、やっと波に乗ってきたって感じか」

 へぇ、この人たちはやっぱり盗賊なのか。あとこの感じだだと、俺とキースくんを狙っっていたってわけじゃなくて、たまたまあの魔道具に俺達が引っかかっただけみたいだ。

 街中にあんなものを設置して獲物を探すとか、はた迷惑な盗賊だな。いや、迷惑じゃない盗賊なんて存在しないか。
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