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1023.目覚めと監禁

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 ううんと声を上げた俺は、ぐぐーと伸びをしながら目を覚ました。ぱっと目を開けば、視界に飛び込んできたのはボロボロの部屋と、粗末な寝具だった。

 えっと、ここってどこだっけ?

 とりあえず領主城では無いなと、寝ぼけた頭で考えた。だってあの雲のようなフワフワベッドと比べたら、これをベッドとは呼びたくないぐらいの寝心地の悪さだ。

 ぼんやりと部屋を見回していると、背中側から不意に声がかかった。

「あ、起きたの!?アル兄!」
「えっと…」

 アル兄って誰の事?と思いながらも振り返れば、そこには心配そうに眉間にしわを寄せたキースくんの姿があった。

「僕だよ、キルトだよ!」

 俺達はいま偽名を名乗る必要があるような状況下にいるのかと、そこでやっと目が覚めた。

 すぐに周りの気配を探ってみれば、ドアの向こう側に武装した二人の男が立っているのが分かった。どうやらかなりの腕前みたいだ。不意を突かないと、俺では二人同時に相手どる事はできなさそうだ。

 きっとこの人たちは、俺達の見張りなんだろうな。

 次いでぐるりと部屋の中を見回してみたけど、室内の家具はとにかくボロボロだった。天井には蜘蛛の巣もあるし、あたりは埃だらけだ。あまりにもお化け屋敷のような室内の雰囲気に、今が朝で良かったなとそう思ってしまった。

 それにしてもこんなにボロボロの部屋なのに、壁は頑丈そうな石材とあの黒いヴァコクの木材を使っているのが厄介そうだ。

 ドアも頑丈そうだなと一瞥すると、キースくんは俺に向かって両腕を開いて抱き着いてきた。

「無事で良かった、アル兄」
「ああ、キルトこそ」

 そう言いながらぎゅっと抱き返せば、キースくんは耳元で急に名前を変えてごめんねと囁いてくれた。ううんと首を小さく振って意思表示をすれば、名前を知られて領主一家の者だとバレないためなんだと教えてくれた。

 キースくんはすごいな。こんな場所でこんな状況なのに、すごく落ち着いている。

「あのね、俺達は、攫われてきたみたいなんだ」
「ああ、あのドアのせいだな」
「そうだよ」

 こそこそと声を潜めたまま、そんな風に会話を交わす。

「まだ目的は分かってないんだけどね」

 そう言ったキースくんは、不意に大きな声で目が覚めて本当に良かったと無邪気な声で口にした。

「おう、目が覚めたのか」
「うわー目を開くとすごい美人だな」
「やめとけやめとけ、手を出したらお頭に殺されるぞ」

 ニヤニヤと笑って近づいて来ようとした男に、もう一人がすかさず声をかけた。

「えっと…」
「まあ二人とも大人しくしてりゃあ、悪いようにはしねぇからな」

 これでも食っておけと投げられたのは、大きな葉に包まれているパンだった。

「ありがとう」

 思わず反射的にお礼を言った俺に、二人は揃って顔を見合わせてから噴き出した。なんだよ笑わなくても良いだろ。お礼を言おうと思ったわけじゃないんだけど、うっかり口から出ちゃったんだよ。

「はー面白いな、お前。飲み物もやろう」
「そうだな、ほらそっちの坊主も」
「ありがと」

 もじもじと俺の後ろに隠れながらもお礼を言ったキースくんに、男達は顔も髪色も似てないと思ったが…こいつらは似たもの兄弟だなと笑って部屋から出ていった。

 ドアの外からは、すぐさまがしゃんと鍵がかけられた音が聞こえてきた。さすがに頑丈そうな鍵の音だな。

「…食べようか?」
「ん、ちょっと待ってね」

 キースくんは小声でそう言うなり服のポケットに手を入れると、小さなレンズのようなものを取り出した。

「うん、毒薬もその他の薬も入ってないから、食べて良いよ」
「…それは?」
「えっと…これはダンジョン産で軽い鑑定がかけられる魔道具なんだ」
「すごいな」

 感心していると、ほらまずは食べようと大きな声で促された。

「食べ物が貰えるなんてな」
「うん、良かったね」

 お腹空いてたんだとすこし恥ずかしそうに告げたキースくんの言葉は、多分ある意味では本音なんだろうな。だって俺達が攫われた時点で遅めのお昼ぐらいの時間帯だったのに、今はもう朝だもんな。

 夜ごはんも食べてないわけだし、そりゃあお腹だって空く。

「あ、美味しい」
「本当だ。あ、アル兄のと僕のとパンの種類が違う…?」
「ああ、じゃあ半分こにしようか」

 今のうちに腹ごしらえしておこうと開き直った俺達は、渡されたパンをどんどん食べ進めていった。

「なんかお腹いっぱいになったら、眠くなってきたかも…」

 少し大き目の声でそう言ったキースくんは、俺に向かって合図を送って来た。

「確かにそうだな…やる事もないし、もう少し寝るか?」
「そうしよ!」

 ベッドにもぞもぞと二人で潜り込んで、小さな声で作戦会議だ。
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