生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
1,023 / 1,179

1022.【ハル視点】方法は分かった

しおりを挟む
「しかもねーこれ見つかった最初の頃はたった一度しか使えない転移の魔道具なんだと、みんな思ってたんだよねー」

 さらりと告げられたその言葉が、やけに気になった。

「最初の頃は…?」

 今は違うという事かと思わず直球で問い返せば、ウィル兄もうんとすぐさま頷いて答えてくれた。

「あ、えっとね。レイースくんのためにまず説明すると…こういう初めて出回るダンジョン産の魔道具は、危険かどうかの判断をするために一度専門の部署が買取をするんだけどー知ってた?」
「はい、ダンジョン産の魔道具を高値で購入し研究している機関があるという話は、私も聞いた事があります」
「おお、さすが元衛兵だねー!」

 ニコニコ笑顔で褒められたレイースさんは、光栄ですとビシッと背筋を伸ばして答えた。

「その機関でこの魔道具を詳しく調べてたらね、すごく奇妙な事が分かったんだ。このドアの周囲は不思議な事に、見た人によって何故か全く違う景色が見えてるって事が分かったんだ」
「…違う景色というのは具体的にどういう意味だ?」

 興味が湧いたのか、ファーガス兄さんはぐいっと身を乗り出してそう尋ねた。

「例えば――そうだな。レイ―スくんはさ、アキトくんとキースが消えたドアの向こうに果物のお店が見えたんでしょう?」
「はい、見えました」
「そこにさ、伴侶が欲しがっていた果物は…売ってたかな?」
「…っ!はい、山のように積んでありましたね」

 ああ、なるほど。そういう事か。

「この魔道具のドアの周囲はね、見た人が一番欲しい物を売っているお店に見えるんだ」
「欲しい物…だから俺には果物の店に見えたと」

 そのドアを見た時、レイさんはケンさんのために珍しい果物を探そうとしていた。だから果物の店に見えた。アキトとキースにも、何か違うものを売っている店が見えたという事だろう。

「…つまり…これは分かりやすい転移の魔道具というよりも…いわゆる罠のような物なのか?」

 ファーガス兄さんの分析に、ウィル兄はすぐに頷いた。

「少なくともジルと俺はそうだと思ってるよー研究機関でもね、珍しい素材を売ってるように見えたって人とか、美味しそうな食材を売ってるように見えたって人とか…ああ、少し前に折れてしまった愛用の剣がそこで売ってるように見えたなんて人もいたなー」

 ちなみに使った後は魔道具ごと光になって消えるという所も、どうやら同じらしい。だからウィル兄はこれが二人を攫った手段じゃないかと思いついたんだそうだ。

 つまりそのドアは興味を引いて人を連れて行こうとする、一方通行の転移罠というわけだ。

「そうか…そこまで当てはまっているなら、これが使われた可能性が高いという事になるな」

 重々しく頷いた父さんは、少なくとも一歩前進したなと冷たい笑みを浮かべて続けた。

 あーこれ実は父さんもかなり怒っていたんだな。まあ可愛がっていたアキトと可愛い一番末の息子が同時に攫われたんだから、そうなるのも無理もないか。

 俺の方が怒っているという自覚はあるんだが、一周回って何故か今は頭のなかはやけに冷静だ。

 もしかしたらこれは目の前に犯人が現れた時に全力で潰すために、力を温存している状態なんだろうか。

「でもこれは開ける相手を指定できるわけじゃないし、必ず誰かにドアを開けさせるなんて強制力もないんだ。だから、アキトくんとキースを狙っていたとは…とても思えないんだよね」
「つまりアキトとキースとは知らずに、ただあの道を通った人を手あたり次第に狙った誘拐だという事か?」

 それなら犯人の動機云々は、考えても無駄になるのかもしれないな。

「少なくとも現時点では俺はそうだと思ってるよ。あととっても重要な嬉しいお知らせを最後に一つするねー。これはね、そこまで遠距離は移動できないんだ」

 移動距離にかなりの制限があるため、それほど便利な物では無いんだとウィル兄は続けた。

「なるほど。遠距離は無理だという事は…」
「そう、攫われた二人は、まだこのウェルマール領内にはいると思うんだー」

 ウィル兄はそう言うなり、持ったままだったノートにサラサラと何かを書き込んだ。

「はい、今騎士団と衛兵には連絡入れたよーここからは密かに厳戒態勢に移行するよ」
「なるほど。では俺は、指名手配犯が出たという情報が入ったと街道封鎖の手配をする事にしよう」

 ファーガス兄さんもすくっと立ち上がって、そう口にした。今にも部屋から出ていきそうな勢いだ。

「ああ、そうだな。それじゃあ人手を集めるのは私がしようか」

 そう言った父さんは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべて口にした。

「さあ狩りの時間だ!」
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

処理中です...