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1022.【ハル視点】方法は分かった

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「しかもねーこれ見つかった最初の頃はたった一度しか使えない転移の魔道具なんだと、みんな思ってたんだよねー」

 さらりと告げられたその言葉が、やけに気になった。

「最初の頃は…?」

 今は違うという事かと思わず直球で問い返せば、ウィル兄もうんとすぐさま頷いて答えてくれた。

「あ、えっとね。レイースくんのためにまず説明すると…こういう初めて出回るダンジョン産の魔道具は、危険かどうかの判断をするために一度専門の部署が買取をするんだけどー知ってた?」
「はい、ダンジョン産の魔道具を高値で購入し研究している機関があるという話は、私も聞いた事があります」
「おお、さすが元衛兵だねー!」

 ニコニコ笑顔で褒められたレイースさんは、光栄ですとビシッと背筋を伸ばして答えた。

「その機関でこの魔道具を詳しく調べてたらね、すごく奇妙な事が分かったんだ。このドアの周囲は不思議な事に、見た人によって何故か全く違う景色が見えてるって事が分かったんだ」
「…違う景色というのは具体的にどういう意味だ?」

 興味が湧いたのか、ファーガス兄さんはぐいっと身を乗り出してそう尋ねた。

「例えば――そうだな。レイ―スくんはさ、アキトくんとキースが消えたドアの向こうに果物のお店が見えたんでしょう?」
「はい、見えました」
「そこにさ、伴侶が欲しがっていた果物は…売ってたかな?」
「…っ!はい、山のように積んでありましたね」

 ああ、なるほど。そういう事か。

「この魔道具のドアの周囲はね、見た人が一番欲しい物を売っているお店に見えるんだ」
「欲しい物…だから俺には果物の店に見えたと」

 そのドアを見た時、レイさんはケンさんのために珍しい果物を探そうとしていた。だから果物の店に見えた。アキトとキースにも、何か違うものを売っている店が見えたという事だろう。

「…つまり…これは分かりやすい転移の魔道具というよりも…いわゆる罠のような物なのか?」

 ファーガス兄さんの分析に、ウィル兄はすぐに頷いた。

「少なくともジルと俺はそうだと思ってるよー研究機関でもね、珍しい素材を売ってるように見えたって人とか、美味しそうな食材を売ってるように見えたって人とか…ああ、少し前に折れてしまった愛用の剣がそこで売ってるように見えたなんて人もいたなー」

 ちなみに使った後は魔道具ごと光になって消えるという所も、どうやら同じらしい。だからウィル兄はこれが二人を攫った手段じゃないかと思いついたんだそうだ。

 つまりそのドアは興味を引いて人を連れて行こうとする、一方通行の転移罠というわけだ。

「そうか…そこまで当てはまっているなら、これが使われた可能性が高いという事になるな」

 重々しく頷いた父さんは、少なくとも一歩前進したなと冷たい笑みを浮かべて続けた。

 あーこれ実は父さんもかなり怒っていたんだな。まあ可愛がっていたアキトと可愛い一番末の息子が同時に攫われたんだから、そうなるのも無理もないか。

 俺の方が怒っているという自覚はあるんだが、一周回って何故か今は頭のなかはやけに冷静だ。

 もしかしたらこれは目の前に犯人が現れた時に全力で潰すために、力を温存している状態なんだろうか。

「でもこれは開ける相手を指定できるわけじゃないし、必ず誰かにドアを開けさせるなんて強制力もないんだ。だから、アキトくんとキースを狙っていたとは…とても思えないんだよね」
「つまりアキトとキースとは知らずに、ただあの道を通った人を手あたり次第に狙った誘拐だという事か?」

 それなら犯人の動機云々は、考えても無駄になるのかもしれないな。

「少なくとも現時点では俺はそうだと思ってるよ。あととっても重要な嬉しいお知らせを最後に一つするねー。これはね、そこまで遠距離は移動できないんだ」

 移動距離にかなりの制限があるため、それほど便利な物では無いんだとウィル兄は続けた。

「なるほど。遠距離は無理だという事は…」
「そう、攫われた二人は、まだこのウェルマール領内にはいると思うんだー」

 ウィル兄はそう言うなり、持ったままだったノートにサラサラと何かを書き込んだ。

「はい、今騎士団と衛兵には連絡入れたよーここからは密かに厳戒態勢に移行するよ」
「なるほど。では俺は、指名手配犯が出たという情報が入ったと街道封鎖の手配をする事にしよう」

 ファーガス兄さんもすくっと立ち上がって、そう口にした。今にも部屋から出ていきそうな勢いだ。

「ああ、そうだな。それじゃあ人手を集めるのは私がしようか」

 そう言った父さんは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべて口にした。

「さあ狩りの時間だ!」
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