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1017.【ハル視点】一報
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のんびりと飲み物を飲みながら食後の時間を過ごしていると、不意に部屋の中に高い鈴の音が響き渡った。
リィンと鳴るその独特な音に引かれるように、その場にいた全員の視線がファーガス兄さんのつけている耳飾りに集まる。
あの丸い小さな石がついただけの地味な耳飾りは、ファーガス兄さんが持っている通信用魔道具の一部だ。あれをつけていれば、魔道具経由で連絡があった時に音で気づく事ができるという便利なものだ。
だがあの音が鳴る事など、滅多に無い。
一体何があったんだと全員が身構える中、ファーガス兄さんは俺達にちらりと視線を向けてから魔道具を取り出した。
「俺だ。何があった?」
「緊急事態だ。キース様とアキト様の行方が…分からなくなった」
一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。
キースとアキトの行方が分からなくなった?言葉自体は耳に入ってきているのに、理解するのを脳が拒んでいる。
「…一体どう言う事だ。護衛はついていたんだろう?」
理解する事は拒んでいても、どうやら耳だけはきちんと機能しているらしい。
ファーガス兄さんはぎゅっと眉間にしわを寄せながら、魔道具の向こう側の相手に向かって声をかけた。
「ああ、約束通り二人の陰護衛をつけていた」
二人も陰護衛がついていたなら、何故二人の行方が分からなくなったりするんだ!
今にも叫びだしたい気持ちを何とか抑え込んでいると、不意に俺の手がぎゅっと握りしめられた。驚いて視線を向ければ、いつの間に移動してきたのか隣に座ったウィル兄に手を握られていた。
すこし震えているウィル兄の手は、痛いほど強く俺の手を握りしめてくる。力の調節が出来ていないんだなとぼんやりと思いながら視線を上げれば、まっすぐに俺だけを見つめる父さんと目が合った。落ち着けと声には出さずに動いた口に、俺はハッと息をのんだ。
ああ、そうだな。ここで俺が動揺して叫んだりしても、二人が見つかるわけじゃない。今はまず、詳しい情報を集める事が一番大事だ。
「三男のハロルドです。現時点で分かっている情報を全て教えてください」
できるだけ冷静な声を装ってそう尋ねれば、魔道具の向こう側の人はすぐに答えてくれた。
「陰護衛二人のうち一人が指名手配されている盗賊を見つけて捕縛、少しだけその場を離れた」
指名手配中の盗賊か。それはすぐに対処するべき事だから仕方ないな。きっとその盗賊を放置しておいた方が、二人に危険が及ぶと判断したんだろうと理解はできる。
「残された一人はきちんと二人の後をついていっていたんだが、不審がられない程度の距離を開けて移動し、追いついた時にはもう二人の姿は無かったと言っている」
「…失礼を承知でお尋ねしても?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「陰護衛の方にも様々な人がいるでしょう。そのお二人の腕前はどの程度でしょう?」
侮辱の言葉と受け取られるかもしれない質問だが、他意は無い。嫌味でもなんでもなく、あくまでも俺が気になるのはその情報だけだ。
「ハルっ!」
さすがに失礼だと思ったのか、ファーガス兄さんは慌てた様子でそう声をあげた。
「盗賊を捕縛した陰護衛は若いが優秀だ。二人の後を追ったのは、陰護衛の中では五本の指に入る」
「答えて頂きありがとうございます」
「あくまでも俺の意見だが…あの二人がついていて、どこに連れて行かれたのかさえ分からないというのは異常な事だ。引き続きこちらでも調べさせてもらう」
「ありがとうございます」
「いや…まかせろと言ったのにな…謝罪は二人を取り戻してからにしよう」
絶対に見つけてやると言いたげな悔しそうなその声に、俺は見えていない事を分かったた上で深々と頭を下げた。
「…はい、ありがとうございます」
通信が切れるなり、ファーガス兄さんはすっと立ち上がった。
「父さん、会議の続きは延期で良いな?」
「ああ、もちろんだ。ただ、二人が行方知らずな事はまだ言うなよ」
「分かっている。誰がどこに連れていったかすら分かっていないんだからな」
さっさと部屋から出ていったファーガス兄さんの背中を見送っていると、どんっと隣から体当たりをするようにウィル兄がぶつかってきた。椅子に座っていなかったら、こけていただろうなと思うぐらいの勢いだ。
「よく我慢したね。俺だったら思いっきり怒鳴りちらしてたかもしれない…」
「ああ、よく感情を制御したな」
「いや、ウィル兄の手が無かったら、父さんの視線と忠告が無かったら、怒鳴ってたよ」
「…無理も無いな」
ウィル兄は俺が落ち着いていることを確認すると、いそいそと防音結界の魔道具を部屋の四隅に設置した。
外部にまだ隠しているなら、必要だろうと判断したらしい。父さんもいつの間にか紙とペンを用意して現時点での情報を書き留めている。
本当に頼りになる家族たちだな。
リィンと鳴るその独特な音に引かれるように、その場にいた全員の視線がファーガス兄さんのつけている耳飾りに集まる。
あの丸い小さな石がついただけの地味な耳飾りは、ファーガス兄さんが持っている通信用魔道具の一部だ。あれをつけていれば、魔道具経由で連絡があった時に音で気づく事ができるという便利なものだ。
だがあの音が鳴る事など、滅多に無い。
一体何があったんだと全員が身構える中、ファーガス兄さんは俺達にちらりと視線を向けてから魔道具を取り出した。
「俺だ。何があった?」
「緊急事態だ。キース様とアキト様の行方が…分からなくなった」
一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。
キースとアキトの行方が分からなくなった?言葉自体は耳に入ってきているのに、理解するのを脳が拒んでいる。
「…一体どう言う事だ。護衛はついていたんだろう?」
理解する事は拒んでいても、どうやら耳だけはきちんと機能しているらしい。
ファーガス兄さんはぎゅっと眉間にしわを寄せながら、魔道具の向こう側の相手に向かって声をかけた。
「ああ、約束通り二人の陰護衛をつけていた」
二人も陰護衛がついていたなら、何故二人の行方が分からなくなったりするんだ!
今にも叫びだしたい気持ちを何とか抑え込んでいると、不意に俺の手がぎゅっと握りしめられた。驚いて視線を向ければ、いつの間に移動してきたのか隣に座ったウィル兄に手を握られていた。
すこし震えているウィル兄の手は、痛いほど強く俺の手を握りしめてくる。力の調節が出来ていないんだなとぼんやりと思いながら視線を上げれば、まっすぐに俺だけを見つめる父さんと目が合った。落ち着けと声には出さずに動いた口に、俺はハッと息をのんだ。
ああ、そうだな。ここで俺が動揺して叫んだりしても、二人が見つかるわけじゃない。今はまず、詳しい情報を集める事が一番大事だ。
「三男のハロルドです。現時点で分かっている情報を全て教えてください」
できるだけ冷静な声を装ってそう尋ねれば、魔道具の向こう側の人はすぐに答えてくれた。
「陰護衛二人のうち一人が指名手配されている盗賊を見つけて捕縛、少しだけその場を離れた」
指名手配中の盗賊か。それはすぐに対処するべき事だから仕方ないな。きっとその盗賊を放置しておいた方が、二人に危険が及ぶと判断したんだろうと理解はできる。
「残された一人はきちんと二人の後をついていっていたんだが、不審がられない程度の距離を開けて移動し、追いついた時にはもう二人の姿は無かったと言っている」
「…失礼を承知でお尋ねしても?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「陰護衛の方にも様々な人がいるでしょう。そのお二人の腕前はどの程度でしょう?」
侮辱の言葉と受け取られるかもしれない質問だが、他意は無い。嫌味でもなんでもなく、あくまでも俺が気になるのはその情報だけだ。
「ハルっ!」
さすがに失礼だと思ったのか、ファーガス兄さんは慌てた様子でそう声をあげた。
「盗賊を捕縛した陰護衛は若いが優秀だ。二人の後を追ったのは、陰護衛の中では五本の指に入る」
「答えて頂きありがとうございます」
「あくまでも俺の意見だが…あの二人がついていて、どこに連れて行かれたのかさえ分からないというのは異常な事だ。引き続きこちらでも調べさせてもらう」
「ありがとうございます」
「いや…まかせろと言ったのにな…謝罪は二人を取り戻してからにしよう」
絶対に見つけてやると言いたげな悔しそうなその声に、俺は見えていない事を分かったた上で深々と頭を下げた。
「…はい、ありがとうございます」
通信が切れるなり、ファーガス兄さんはすっと立ち上がった。
「父さん、会議の続きは延期で良いな?」
「ああ、もちろんだ。ただ、二人が行方知らずな事はまだ言うなよ」
「分かっている。誰がどこに連れていったかすら分かっていないんだからな」
さっさと部屋から出ていったファーガス兄さんの背中を見送っていると、どんっと隣から体当たりをするようにウィル兄がぶつかってきた。椅子に座っていなかったら、こけていただろうなと思うぐらいの勢いだ。
「よく我慢したね。俺だったら思いっきり怒鳴りちらしてたかもしれない…」
「ああ、よく感情を制御したな」
「いや、ウィル兄の手が無かったら、父さんの視線と忠告が無かったら、怒鳴ってたよ」
「…無理も無いな」
ウィル兄は俺が落ち着いていることを確認すると、いそいそと防音結界の魔道具を部屋の四隅に設置した。
外部にまだ隠しているなら、必要だろうと判断したらしい。父さんもいつの間にか紙とペンを用意して現時点での情報を書き留めている。
本当に頼りになる家族たちだな。
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