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1019.【ハル視点】飛び込んできた情報提供者
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いっそこの応接室から飛び出して、自分の足で探しにいくべきだろうか。いやそんな事をしても情報が無いと発見するのはさすがに難しいか。
そんなことをつらつらと考えていると、不意にボルトがすくっと立ち上がった。
「すみません。すこしだけ時間をください」
ボルトはそう言うと、珍しい事に父さんからの許可が出る前にすぐさま廊下へと飛び出していった。
腕を押さえていたから緊急時に振動で連絡を取れる魔道具が揺れていたんだろうが――それにしてもかなりの急ぎっぷりだ。
いったい何事だろうと全員でじっとドアを見つめていると、ボルトはすぐに戻ってきた。全員から見つめられている状況でも少しも動じずに、全員を見回してから口を開いた。
「失礼いたしました。さきほど使用人から連絡がありました。詳細をご報告いたします」
「ああ、頼む」
「領主城の方に、パースパン屋の路地でお二人を見かけたという目撃者が現れました」
「ほう」
聞き込みを盛大にしているわけでも無いのに、二人を見かけたという目撃者が唐突に現れる?それは一体どういう状況だ?
「しかもその方が、アキト様の魔導収納袋を持参しているようなのです」
「は?…何だって?」
「その方が魔導収納袋は領主様ご一家の誰かにしか、決して渡さないと主張しておりまして…」
それは…褒美目当てなのか?いや、もしかしたら攫った側の仲間だという可能性もあるか。こちらに何らかの要求をぶつけに来た可能性もある。
そもそもアキトの魔導収納鞄は、見た目が地味だ。一見してどこにでもある普通の鞄にしか見えない。冒険者らしい手袋や採取袋などは鞄の外につけてはいるが、それは簡単に手に入るようなありふれたものばかりだ。
それなのに何故、その鞄がアキトの物だと分かったのか。そのあたりもじっくりと聞いてみないといけないな。
攫った側だか召喚した側だか知らないが、犯人の仲間なら情報を得るには格好の相手だろう。
「そうか。話しを聞きたいからとここまで連れてきてくれるか?」
わざとらしい笑顔でそう答えれば、ウィル兄は苦笑して声をかけてきた。
「ハル、いきなり切りかかったりしないでよー?」
「俺がそんな事をするわけが無いだろう?」
情報を搾りとらないといけないのにと視線だけで告げれば、ウィル兄さんは苦笑を浮かべた。
俺が思ったよりも冷静だと分かったからか、父さんもファーガス兄さんも、それ以上何も言わなかった。
「騎士団本部の入口前までは来ていますので、すぐにご案内して参りますね」
そう言ってボルトが出ていったドアを、俺達は四人揃ってじっと見つめて待った。
「こちらの部屋です、どうぞお入りください」
「案内ありがとうございます」
「いえ」
丁寧にボルトに礼を言ってから室内へと進んできたのは、アキトの鞄を大事そうに両手で抱えたレイさんの姿だった。
「は…?え…レイさん?」
「ああ、良かったハロルド様!」
あからさまにホッとした様子のレイさんは、よくよく見れば少し涙目だ。
あー…ここに案内されるまで、散々使用人や騎士たちから責めるような視線で見られていたんだろうな。何故アキトの鞄を持っているのかとか、犯人の仲間じゃないかとか疑われ続けていたんだろう。
「なるほど。君ならアキトの鞄に気づくのも当然だな…」
レイさんならアキトが鞄を使っている所を、何度も間近で見た事があるからな。
俺はふうと少しだけ肩の力を抜いた。
すくなくともレイさんなら、褒美目当てや犯人の仲間である可能性は無い。正確な情報を聞く事ができる信頼できる相手だと言える。
「ハル様。まずは、こちらを受け取って頂けますか?」
そっと差し出された魔導収納鞄を、同じく両手で受け取る。うん、これは確かにアキトのものだな。自分でわざと荷物を手放したのか、それとも意図せずに取り落としたのか。
どちらにしても今のアキトは、魔導収納鞄を持っていないという事になる。
キースが一緒なら、きっといくつかは隠し持っている筈だが――俺とお揃いの腕輪型の魔導収納をもっと早く買っておくべきだったな。
思わず反省をしながらじっと鞄を見つめていると、不意に父が口を開いた。
「…あー。まず二人は、知り合いなのか?」
「ああ…こちらは…」
「以前衛兵隊に所属していたレイース・テルカー…だな」
俺が紹介をするよりも前に、ファーガス兄さんが口を開いた。
「私のような末端の者の名前と顔まで覚えて頂いていたとは…とても光栄です!」
ガチガチに緊張した様子のレイさんは、それでもビシッと姿勢を正して改めて自己紹介の言葉を口にした。
「レイ―ス・テルカーと申します」
ファーガス兄さんは、とにかく人の顔と名前を覚えるのが得意なんだよな。頭の中にはいったいどれだけの人の情報が入っているのか、実の兄ながらこう言う所がすごいと思う。
「それで、レイさんは何故ここに?」
「無理を言ってここまできた理由は、荷物と一緒に情報も届けたかったからなんです。ただ…失礼ながら私には誰が味方で誰が敵なのかも分からなかったので、領主一家の皆様に直接伝えれば、いずれはハルさんに伝わるかと…」
そのために周りから不審がられながらも、必死になってアキトの荷物を渡さなかったのか。その全てはアキトのためだ。
そんなことをつらつらと考えていると、不意にボルトがすくっと立ち上がった。
「すみません。すこしだけ時間をください」
ボルトはそう言うと、珍しい事に父さんからの許可が出る前にすぐさま廊下へと飛び出していった。
腕を押さえていたから緊急時に振動で連絡を取れる魔道具が揺れていたんだろうが――それにしてもかなりの急ぎっぷりだ。
いったい何事だろうと全員でじっとドアを見つめていると、ボルトはすぐに戻ってきた。全員から見つめられている状況でも少しも動じずに、全員を見回してから口を開いた。
「失礼いたしました。さきほど使用人から連絡がありました。詳細をご報告いたします」
「ああ、頼む」
「領主城の方に、パースパン屋の路地でお二人を見かけたという目撃者が現れました」
「ほう」
聞き込みを盛大にしているわけでも無いのに、二人を見かけたという目撃者が唐突に現れる?それは一体どういう状況だ?
「しかもその方が、アキト様の魔導収納袋を持参しているようなのです」
「は?…何だって?」
「その方が魔導収納袋は領主様ご一家の誰かにしか、決して渡さないと主張しておりまして…」
それは…褒美目当てなのか?いや、もしかしたら攫った側の仲間だという可能性もあるか。こちらに何らかの要求をぶつけに来た可能性もある。
そもそもアキトの魔導収納鞄は、見た目が地味だ。一見してどこにでもある普通の鞄にしか見えない。冒険者らしい手袋や採取袋などは鞄の外につけてはいるが、それは簡単に手に入るようなありふれたものばかりだ。
それなのに何故、その鞄がアキトの物だと分かったのか。そのあたりもじっくりと聞いてみないといけないな。
攫った側だか召喚した側だか知らないが、犯人の仲間なら情報を得るには格好の相手だろう。
「そうか。話しを聞きたいからとここまで連れてきてくれるか?」
わざとらしい笑顔でそう答えれば、ウィル兄は苦笑して声をかけてきた。
「ハル、いきなり切りかかったりしないでよー?」
「俺がそんな事をするわけが無いだろう?」
情報を搾りとらないといけないのにと視線だけで告げれば、ウィル兄さんは苦笑を浮かべた。
俺が思ったよりも冷静だと分かったからか、父さんもファーガス兄さんも、それ以上何も言わなかった。
「騎士団本部の入口前までは来ていますので、すぐにご案内して参りますね」
そう言ってボルトが出ていったドアを、俺達は四人揃ってじっと見つめて待った。
「こちらの部屋です、どうぞお入りください」
「案内ありがとうございます」
「いえ」
丁寧にボルトに礼を言ってから室内へと進んできたのは、アキトの鞄を大事そうに両手で抱えたレイさんの姿だった。
「は…?え…レイさん?」
「ああ、良かったハロルド様!」
あからさまにホッとした様子のレイさんは、よくよく見れば少し涙目だ。
あー…ここに案内されるまで、散々使用人や騎士たちから責めるような視線で見られていたんだろうな。何故アキトの鞄を持っているのかとか、犯人の仲間じゃないかとか疑われ続けていたんだろう。
「なるほど。君ならアキトの鞄に気づくのも当然だな…」
レイさんならアキトが鞄を使っている所を、何度も間近で見た事があるからな。
俺はふうと少しだけ肩の力を抜いた。
すくなくともレイさんなら、褒美目当てや犯人の仲間である可能性は無い。正確な情報を聞く事ができる信頼できる相手だと言える。
「ハル様。まずは、こちらを受け取って頂けますか?」
そっと差し出された魔導収納鞄を、同じく両手で受け取る。うん、これは確かにアキトのものだな。自分でわざと荷物を手放したのか、それとも意図せずに取り落としたのか。
どちらにしても今のアキトは、魔導収納鞄を持っていないという事になる。
キースが一緒なら、きっといくつかは隠し持っている筈だが――俺とお揃いの腕輪型の魔導収納をもっと早く買っておくべきだったな。
思わず反省をしながらじっと鞄を見つめていると、不意に父が口を開いた。
「…あー。まず二人は、知り合いなのか?」
「ああ…こちらは…」
「以前衛兵隊に所属していたレイース・テルカー…だな」
俺が紹介をするよりも前に、ファーガス兄さんが口を開いた。
「私のような末端の者の名前と顔まで覚えて頂いていたとは…とても光栄です!」
ガチガチに緊張した様子のレイさんは、それでもビシッと姿勢を正して改めて自己紹介の言葉を口にした。
「レイ―ス・テルカーと申します」
ファーガス兄さんは、とにかく人の顔と名前を覚えるのが得意なんだよな。頭の中にはいったいどれだけの人の情報が入っているのか、実の兄ながらこう言う所がすごいと思う。
「それで、レイさんは何故ここに?」
「無理を言ってここまできた理由は、荷物と一緒に情報も届けたかったからなんです。ただ…失礼ながら私には誰が味方で誰が敵なのかも分からなかったので、領主一家の皆様に直接伝えれば、いずれはハルさんに伝わるかと…」
そのために周りから不審がられながらも、必死になってアキトの荷物を渡さなかったのか。その全てはアキトのためだ。
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